つける?つけない? マスク着用の新方針で

つける?つけない? マスク着用の新方針で
急に暑くなったここ数日。周囲を気にしながらマスクを外して深呼吸・・・。そんな人も多かったかもしれません。マスク生活も2年余り。国は、今月、マスク着用に関する新たな考え方を示しました。屋外か屋内か、距離は確保されているか、会話はあるかないかで判断。場面によっては、着用の必要はないとしました。まちの様子は変わったのでしょうか。(取材班社会部 齋藤恵二郎、浜本菜々美、水戸局 浦林李紗、大分局 鈴木竜一、松江局 保科達郎 )

繁華街を歩く人は?

まずは屋外です。
距離が確保できず会話もする場合、マスクの着用が推奨されています。それ以外では必要はないとされました。

多くの人が行き交う東京・渋谷では、ほとんどの人がマスクをしているように見えました。
「マスクを外すことには抵抗があります。人目も気になりますし、マスク越しでしか会ったことのない人もいて、外すのが不安になってきました」

このほか、いちいちつけたり外したりするのが面倒なのでつけっぱなしにしている、という声も聞かれました。

一方で、マスクを外して歩いている人も少数ながら見かけました。
「人混みは多いけど感染者数も一時期ほどではないし、必要はないかなと思います。店や電車では着けますが、夏は暑くなるし呼吸も苦しいので、外した方がいい」

なお、熱中症防止の観点から、屋外で会話がない、または距離が確保できる場合は、マスクは外すことが推奨されています。

ランナーたちは?

距離や会話の条件が満たされれば、公園での散歩やランニング、サイクリングなどもマスクの必要がないとされました。

そこで、私たちが向かったのがランナーたちが集まる皇居周辺。まだ走る人が少ない平日の日中の時間帯、道幅が広い場所では、マスクを取って走る人の姿も見られました。
「誰もいないときにはマスクを外しています。マスクを外して走ると空気が違います」

「新しい考え方が出されたので、マスクを外して走るようになりました。苦しくないし暑さも和らぐので歓迎しています。ただ、周囲に人が多いときはマスクをするなど臨機応変に対応しています」

今回示された考え方を前向きに受け止めるランナーが比較的多い印象でしたが、まだ抵抗感があり、マスクを着用しているという人もいました。

「人の目が気になるので、マナーとしてずっと着けています」

取材した皇居周辺では、マスクを外して走っている人も、声をかけるとポケットなどから取り出したマスクを着けて応じてくれました。時と場所を選んでマスクを付け外しする習慣が定着しているようです。

図書館は?

屋内でも、距離と会話の条件しだいで、マスクを外してよいとされる場所があります。

例示されたのが図書館です。調べてみると、対応を取り始めた図書館がありました。東京・足立区にある15の区立図書館です。
このうち中央図書館では、130ある閲覧席に新たに注意書きが掲示されました。

「マスクの着用をお願いしています」とした上で、「マスクを外す場合には、まわりにほかの利用者がいないことを確認して会話は控えて頂くようお願いします」という文章。マスクを外すことを想定した注意書きです。

私たちが訪れたときは、ほとんどの利用者がマスクを着用していましたが、中には1~2人、マスクを外して静かに本を読む人の姿も確認できました。

一方、閲覧席以外の場所では、これまでどおりマスクの着用を呼びかけています。人がすれ違ったり会話したりすることもあるためです。利用者からも「条件を満たしていればマスクを外してもいいと思う」と理解を示す声が上がっています。
足立区立中央図書館 大久保慎也館長
「国から方針が示されたので、図書館としてきちんと利用の方法を伝える必要があると思いました。まだ完全にコロナが終息したわけではないので、周囲の人に配慮して利用していただきたいです」

屋内でのマスク緩和 難しい判断

今回、私たちは、都内や東京近郊のおよそ50の図書館に対応を聞きました。しかし、足立区の図書館のようにすぐに対応を変えたのは、わずか。5月27日の時点では、多くの図書館が、館内は原則マスク着用という対応を続けていました。

理由として挙げていたのは「目安となる2メートルの確保が難しい」「利用者が多い」「自治体の指針やほかの図書館の動きも見て慎重に判断したい」といった意見もありました。

また、図書館と並んでマスクが必要ないと例示されたのが芸術鑑賞です。私たちは、同様に、およそ70の美術館に聞いてみました。ここでも、従来通りの対応を続けるというところが大部分でした。「来場者が動く中で、間隔が十分か、会話をしていないか、判断するのが難しい」、「従業員も来場者もマスクなしの人への対応に慣れていない」といった理由です。

美術館や博物館の感染対策ガイドラインを策定している日本博物館協会の半田昌之専務理事も、難しさがあると説明します。
日本博物館協会 半田昌之専務理事
「ガイドラインの改訂を視野に検討する必要があると考えているが、現場の混乱を招くおそれもありできるだけ多くの館から意見を聞く必要がある。展示室の混雑具合や展示方法に違いがあるため、一律の判断が難しく、時間をかけて慎重に検討したい」

子育ての現場は?

「マスクが必要ない」とされた現場でも、簡単には対応を変えづらい事情があるようです。
新たな考え方には、子どものマスクの着用についても盛り込まれました。

▽2歳未満はマスクの着用を推奨しない。

▽2歳以上の就学前の子どもには一律には求めず、着用する際は、保護者や周囲の大人が 体調に注意する。

子育ての現場はどう対応しようとしているのでしょうか。
神奈川県相模原市にある認定こども園です。「一律には求めない」とする2歳以上のおよそ100人を受け入れていますが、すべての園児に対し、マスク着用の徹底を続けています。

子どもは息苦しさを感じているだろうし、表情を通じたコミュニケーションも取りづらいのが実情です。夏を前に熱中症も心配で、できるならマスクの着用を緩和したいといいます。

ただ、市内ではクラスターが起きるなど感染状況は予断を許さず、もし外して感染が拡大すれば、園の行事は中止となり大切な思い出を奪うことになりかねません。方針を変えることは簡単ではないといいます。
相模つばさ幼稚園 平本大輔副園長
「どうしても子供たちは密になって遊ぶことが多く、ここで感染が広がれば以前のような状況に戻ってしまいます。もう少し様子を見てからマスクを外すというのを考えていきたいです」

子育て現場には独特の理由も

ほかの保育園や幼稚園からも、しばらく状況を見極めたいという声が聞かれました。そもそもこうした施設でのマスク着用に関する考え方は多種多様です。

厳格にマスクを着用してもらう施設。「なるべく」着用をお願いするという施設。外で遊ぶときはマスクは必要ないとする施設。

こうした対応には、集団感染で休園した経験が影響していたり、保護者の考え方が反映されていたりします。2年余りのコロナとの生活の中で、各施設が作り上げてきたものだけに、新たな考え方とどう向き合っていくのかは悩ましいようです。

さらに、最近では、子どもたち自身もマスクに対し、さまざまな考えを持つようになってきたといいます。

「かわいいマスクだったら着けていたい」
「マスクは邪魔だけど、コロナになって友達と会えないのも嫌」
「マスクしていたら安心だから好き、だけど、マスクしないのはもっと好き・・」

子ども、保護者、施設、それぞれの思いや事情を踏まえてどう対応していくのか、子育ての現場では手探りの状況が続きそうです。

マスクへの意識の変化 実感する業界

マスク着用に関しては、変わる現場もあれば、従来通りの現場もあり、対応が分かれています。そんな中、マスクへの意識が少しずつ変化していることを実感している業界があります。化粧品業界です。

東京・世田谷区の化粧品販売店です。コロナ禍でメイクアップ商品の売り上げが大きく落ち込みましたが、最近、徐々に回復してきているといいます。ただ、コロナ前に比べると回復具合は5割程度。口紅に限ると1割程度だといいます。

「マスクを外す機会が増えれば、口紅やチークなども回復するのではないか」

店ではマスクをめぐる人々の判断を見守っています。
サクラコスメティックス 小林亜貴子さん
「マスクを外す機会が来たときに自信を持って外せるような準備をそろそろされているのではないかなと思います。今後、マスクを取る機会が増えていけば、口紅を塗られる方や購入される方も増えてくるのではないでしょうか」

ひとりひとりがマスクとのつきあい方を

マスクに関する考え方は人それぞれ。どこで線引きをするのか、現場でも模索が続いています。しばらくは、ひとりひとりがマスクとの適切なつきあい方を考え、場所や状況に応じた行動を取る、そんな時期が続くのかもしれません。

取材していて、印象に残った言葉がありました。渋谷を歩いていた男性です。

「どこでも外していいという状況が待ち遠しい、早くそうなってほしい」

コロナの感染が終束し、マスクを着けるか外すかを気にせずに過ごせる。そんな日が訪れることを願いたいと思います。
社会部 記者
齋藤恵二郎
平成22年入局
データ分析、災害、子育て、教育などを取材
水戸局 記者
浦林李紗
平成27年入局
神戸局を経て現所属
つくば市に集積する研究機関や茨城県南部の行政を取材
大分局 カメラマン
鈴木竜一
平成27年入局
札幌局、奈良局を経て現所属
趣味の登山で自然に包まれ深呼吸することが最大のリラックス
松江局 記者
保科達郎
平成29年入局
事件、行政、災害、原発などを幅広く取材
社会部 記者
浜本菜々美 
令和4年入局
大学後半はマスク生活
今後担当したいのは事件取材