G7 気候・エネルギー・環境相会合開幕 “脱ロシア”協調が焦点

G7=主要7か国の気候・エネルギー・環境相会合が開幕しました。ロシアによるウクライナへの軍事侵攻を受け、エネルギー分野で“脱ロシア”の行動を協調して打ち出せるかが1つの焦点です。

G7の気候・エネルギー・環境相会合は、ドイツ ベルリンで26日に開幕しました。

日本からは、経済産業省の細田副大臣や、環境省の大岡副大臣などが出席しています。

会合を前に、議長国のドイツでエネルギー政策を担当するハーベック経済・気候保護相は、記者団に対し、ロシアによるウクライナへの軍事侵攻を受けたエネルギーの安定的な確保や、気候変動への対応などについて議論するとの考えを示しました。

G7各国はロシアの軍事侵攻を受け、すでに石炭の輸入禁止や段階的縮小、石油の輸入の段階的、もしくは即時の禁止を打ち出しています。

ただ、具体的な時期などは明示できていません。

さらに、天然ガスは、ドイツやイタリアなどヨーロッパ各国が、ロシアへの依存度が高く、日本も一定量を輸入しています。

会合では、エネルギー安全保障の観点を踏まえて、ロシア産のエネルギーへの依存度をいかに引き下げていくのか、議論することになっています。

また、脱炭素の観点から石炭火力発電の廃止も議題となります。

G7のうちイギリスやドイツなど5つの国では、すでに石炭火力を廃止する方針を示しています。

これに対して資源の乏しい日本は、新しい技術を使って二酸化炭素の排出削減対策に力を入れて、石炭火力を活用していく方針を説明する考えです。

細田経済産業副大臣「日本の立場をしっかり主張」

会合に先立ち、細田健一経済産業副大臣はNHKの取材に応じ「エネルギー安全保障とカーボンニュートラルの実現、2つの両立に向けた課題を議論することになる。日本の立場をしっかり主張していきたい」と述べました。

G7として、ロシア産のエネルギーへの依存度を引き下げていくことについては「G7首脳会合でも、さまざまな議論あるが、基本的には『脱ロシア』を進めていくという方針は同じだ。ただ、どういうタイムテーブルで進めていくか、各国で合意を得られるようにしていきたい」と述べました。

また、石炭火力発電の廃止に関する議論については「石炭火力の取り扱いについては、さまざま議論があるが、日本はCO2を出さない形で使い続けたいという政策を持っている」として、各国に理解を求めていく考えを示しました。

ドイツ「脱炭素化の実現に向け集中議論」

G7=主要7か国の気候・エネルギー・環境相会合の開始を前に、議長国ドイツのハーベック経済・気候保護相は記者団に対し、ロシアによるウクライナへの軍事侵攻を受けて、エネルギーの安定的な確保や、気候変動への対応などについて議論するとの考えを示しました。

また「G7が主要な工業国として、石炭からの脱却や交通分野の脱炭素化の実現に向け、先駆的な役割を担えるか集中した議論が行われる」と述べ、今回の会合で石炭火力発電の廃止など脱炭素の実現に向けた議論を深めたいと意欲を示しました。

ロシア産天然ガスの依存度をいかに引き下げるか

今回のG7気候・エネルギー・環境相会合では、ロシア産の天然ガスについて、いかに依存度を引き下げるかが1つの大きな焦点となります。

G7ではすでに石炭について、ロシアからの輸入の禁止または段階的な縮小、石油についても輸入を段階的もしくは即時禁止することで一致しています。

一方、天然ガスについては輸入の禁止にまでは踏み込めていません。

ヨーロッパ各国では主にパイプラインで大量の天然ガスをロシアから輸入し、依存度が高いためです。

各国のロシアへの依存度を見ますと、2020年の数字で
▽ドイツが輸入全体のうちの43%
▽イタリアは31%
▽フランスは27%
▽イギリスが5%を依存しています。

ヨーロッパ各国とロシアは天然ガスの分野で相互依存関係ができあがっているため、関係を絶ちたくても絶ちにくい状況になっているのです。

日本も例外ではありません。

日本はLNG=液化天然ガスの形で全体の9%をロシアから輸入しています。

これは国内の発電量の3%以上にあたる水準です。

一見すると少ないように見えますが、冬にロシア産にかわるLNGを確保できなければ、電力の安定供給に影響を及ぼすことになります。

また、エネルギー価格の高騰も心配されます。

すぐに取り引きできるLNGのスポット価格は、ことし3月7日、去年のおよそ14倍にまで上昇し、過去最高となりました。

こうした中でヨーロッパ各国がロシアからパイプラインで輸入する分をLNGに切り替える動きが進めば、世界でLNGの調達競争が起こり、さらに需給が厳しくなり、価格は高騰する可能性があります。

天然ガスの需給の緩和に向けて鍵を握るのはアメリカです。

アメリカはロシアから天然ガスを輸入していません。

そして、国内でシェールガスが産出されるため、その一部をLNGで国外に輸出しています。

今回のG7では、アメリカがヨーロッパや日本に向けてLNGを大幅に増産できるかなど、何らかの対応策を打ち出すかどうかも焦点となります。

石炭火力発電の取り扱い

今回のG7=主要7か国のエネルギー相会合で焦点の1つになっているのが、二酸化炭素を多く排出する石炭火力発電の取り扱いです。

G7のうちすでに5つの国が2030年までに廃止する方針を表明していて、交渉関係者によりますと、議長国のドイツは、共同声明に各国の石炭火力について年限を決めて廃止することを盛り込むよう求めています。

各国の廃止目標をみてみますと、議長国のドイツは2030年までに廃止する方針を掲げています。

ドイツはIEA=国際エネルギー機関の2019年のデータで石炭火力が全体の発電量の27%を占めていました。

また、フランスは石炭火力の割合が1%で、2026年までに廃止の方針。

イギリスは2%で、2024年までに廃止の方針。

イタリアは4%で2025年までに廃止の方針。

カナダは5%で、2030年までに廃止する方針です。

これに対し、日本は2019年度のデータで30%を占めていて、2030年度も発電の19%を石炭火力で賄う見通しとなっています。

石炭について政府は、調達先が中東など特定の国や地域に偏っておらず、地政学リスクが低いこと、保管も簡単で一定量を備蓄が可能であることなどの理由をあげて、引き続き重要なエネルギー資源との位置づけです。

カギを握るのはアメリカです。

アメリカは2019年時点で石炭火力の比率が20%で、2035年までに電力部門の脱炭素化を掲げていますが、石炭火力を廃止する方針は明示的には掲げていません。

このため、アメリカが石炭火力についてどういった姿勢を示すかが、共同声明の文言に影響を及ぼす可能性があります。

さらに、ロシア産の天然ガスへの依存度を低減していく中で、ドイツ国内などでも価格の安い石炭の活用は必要だという声が出ています。

日本としては、脱ロシアと脱炭素という課題を両立させるためには、二酸化炭素の排出量を抑える技術を活用していくべきだと主張する方針です。

具体的には燃焼する際に二酸化炭素を出さないアンモニアを石炭に混ぜて燃やす技術や、二酸化炭素を地中に埋めたり再利用したりするCCUSと呼ばれる技術です。

ただ、こうした技術については石炭火力の延命策だという批判も出ていて、今回のG7でどういった議論が交わされるか注目されます。

石炭をめぐる気候変動対策の経緯

世界各地で地球温暖化が原因とされる異常気象などが相次ぐ中、二酸化炭素を大量に排出する石炭の削減をめぐって国際的な議論が続いています。

世界全体の平均気温は、産業革命前と比べてすでに1度程度上昇していて、今後、二酸化炭素など温室効果ガスの排出が続いて気温上昇が1.5度を上回ると、極端な大雨や高温などの深刻な影響が不可逆的に広がるとされています。

IEA=国際エネルギー機関は、石炭はエネルギーの中で最も多く発電に使われ、二酸化炭素の最大の排出源になっているとして、排出削減対策のとられていない石炭火力発電所の段階的な廃止の必要性を指摘していて、気候変動対策の国際的な重要課題となっています。

去年6月のG7サミットの首脳宣言では、排出削減対策がとられていない石炭火力発電への政府による新規の国際的な直接支援を去年のうちに終了し、2030年代には各国の国内の電力を最大限、脱炭素化することなどが明記されました。

また、去年11月に開かれた気候変動対策の国際会議「COP26」では、議長国のイギリスが、排出削減対策がとられていない石炭火力発電所の新規建設の中止などを盛り込んだ声明を発表し、フランスやドイツ、韓国など40か国余りが賛同した一方、日本やアメリカ、中国は加わらず、対応が分かれました。

さらに、200近い参加国全体の合意が必要な成果文書の採択に際しても、石炭火力発電の扱いについて「段階的な廃止」か「削減」かで激しい議論が行われ、最終的には「石炭火力発電の段階的な削減のための努力を加速する」という文言で固まりましたが、各国の立場の違いも浮き彫りになりました。

今回のG7気候・エネルギー・環境相会合では、関係者によりますと、議長国のドイツが、各国の石炭火力発電を2030年までに段階的に廃止することなどを求める姿勢も事前に示しているということで、厳しい交渉も予想されます。

気候変動の国際交渉に詳しい東京大学未来ビジョン研究センターの高村ゆかり教授は「今回のG7では、最近のエネルギー価格の高騰や需給のひっ迫に対処するため、短期的にはエネルギーの確保や安全保障が重要なテーマだが、中長期的な視点をもって気候変動への対応でも合意してもらいたい。日本にはエネルギー資源が乏しいという難しさはあるが、技術力を生かしてエネルギー効率を高めるなどして、海外からのエネルギーに依存する形からの脱却に取り組むことが、気候変動対策にも、国益にも沿うのではないか」と指摘しています。