“福島第一原発事故影響で甲状腺がんに” 集団訴訟 裁判始まる

東京電力福島第一原子力発電所の事故の影響で甲状腺がんになったとして、事故当時子どもだった6人が東京電力に賠償を求めている裁判が、26日から始まりました。

11年前、福島第一原発事故が起きたとき6歳から16歳だった6人は「当時福島県内に住んでいて、原発事故による放射線被ばくの影響で甲状腺がんになった」と主張して、東京電力に6億円余りの損害賠償を求めています。

事故のあと、福島県が行った検査などで甲状腺がんと診断され、甲状腺の摘出や、生涯にわたるホルモン治療などを余儀なくされているということです。

26日から東京地方裁判所で裁判が始まり、原告側の弁護士は「国の研究機関の統計をもとに計算すると、子どもの甲状腺がんは2007年までの10年間の平均で年間100万人に1人から2人しか発生していないが、福島では、事故後のおよそ10年で少なくとも合わせて293人確認されている」などとして「がんは事故による被ばくが原因と推定される」と主張しました。

また、原告の女性は「将来の夢より治療を優先し、大学もやめざるをえませんでした。裁判を通じ患者の救済が実現することを願います」と涙ながらに訴えました。

原告側の弁護団によりますと、原発事故の放射線被ばくで健康被害を受けたとして東京電力の責任を問う集団訴訟は初めてで、東京電力側は争う姿勢を示しているということです。

次回は9月に開かれ、東京電力側が反論を行う予定です。

福島県の専門家会議や国連の科学委員会の見解は

東京電力福島第一原子力発電所の事故当時、福島県に住んでいた子どもの一部が甲状腺がんと診断されたことが、原発事故による放射線被ばくの影響かどうか、これまでに福島県の専門家会議と国連の科学委員会がそれぞれ見解を示しています。

福島県は、原発事故後の県民健康調査の中で、事故当時18歳以下だったおよそ38万人を対象に、超音波機器を使って甲状腺がんの有無を調べる大規模な検査を行い、これまでに274人が「がん」またはその疑いがあると診断されています。

福島県は、見つかったがんが放射線被ばくによる影響か評価するため、専門家で作る会議を設けて分析しました。

このうち、2019年までに評価した187人は「発見された甲状腺がんと放射線被ばくの間の関連は認められない」などとする報告をまとめています。

理由として、事故後に福島県の子どもが受けたと推計される被ばく線量が、1986年に起きたチェルノブイリ原発事故と比べ、はるかに少ないこと、がん患者の地域分布に統計的な偏りがなく、被ばくとの関連性を示す傾向がみられないなどとしています。

専門家会議は、2016年度以降に診断された残る87人について現在も分析を続けていて、評価結果はまだ示されていません。

一方、人や環境への放射線の影響を評価している国連の科学委員会は、去年、事故で放出された放射性物質の種類や量、住民の避難行動をもとに被ばく線量を推計するなどした結果をまとめ「福島県の住民に事故による放射線被ばくが直接の原因となる健康影響が将来的にみられる可能性は低い」としています。

そのうえで、福島県の検査で診断された症例は「放射線被ばくの影響ではなく、感度が高い超音波検査によってふだんは見つからないがんを診断した可能性が高い」とし、甲状腺がんとの因果関係に否定的な見解を示しています。

東京電力“原告側の主張など詳しく聞いて 適切に対応”

東京電力は「原告側の主張や請求内容を詳しく聞いて、適切に対応していく。福島第一原発の事故により、福島県民をはじめ、広く社会の皆様に大変なご迷惑とご心配をかけていることに、改めて心からおわび申し上げる」とコメントしています。

原告の20代女性は

裁判を起こした6人の若者は、がんと診断され、思い描いていた未来にも影響が及んだと訴えています。

このうち福島県中通り出身の20代の女性は、原発事故が起きたとき中学生でした。

体調に異変を感じたのは、事故から4年ほどたった春。

大学進学を機に、福島の家族のもとを離れ、ひとり暮らしを始めたばかりのころでした。

体じゅうがむくみ、2週間に1回のペースで生理がきたり肌荒れがひどくなったりしたほか、のどの違和感や体の痛みも強く感じるようになり、痛みで眠れない日々が続いたということです。

家族に相談し、福島県が原発事故のあとに行っている県民健康調査で検査を受けたところ、甲状腺がんだと診断され、甲状腺の片葉を切除する手術を受けました。

当時の心境について女性は「手術をすれば体調がよくなると期待していましたが、手術後も体調を崩しやすい状態が続き、再発や転移への不安が大きくなっていきました」と振り返ります。

それでも治療と並行して就職活動に力を入れ、憧れだった広告会社に就職できましたが、体調が思うようにならず、治療を優先するため、やむなく1年半ほどで退職したということです。

今も定期的な通院と薬が欠かせないということで「バリバリ働くキャリアウーマンに憧れていましたが、何事も体調を優先しなくてはいけなくなりました。将来、結婚や出産という選択にも影響が出るのではないかと不安です」と打ち明けます。

原発事故による被ばくと甲状腺がんの関係について、福島県の専門家会議はこれまでのところ「関連は認められない」などとしています。

福島が復興に向けて歩みを進める中、被ばくによる健康被害を訴えることに非難の声もあるということで、女性を含む原告は全員、顔や名前を公には明かさずに裁判に臨んでいます。

女性は「福島県出身で甲状腺がんだと知られると差別されるのではないかと怖くて、これまでほとんど誰にも話せなかった」としたうえで「同じようにがんに苦しみ、進学や就職など夢を諦めざるを得なかった人や、差別や偏見を恐れて声を上げられない人も多いと思い、先に大人になった自分が勇気を出そうと決意しました。裁判を通して事実関係を明らかにし、被害の救済を求めていきたい」と話していました。