よみがえれレアメタル ~リサイクル新技術~

よみがえれレアメタル ~リサイクル新技術~
ロシアによるウクライナへの軍事侵攻から3か月。いま、スマホ、パソコン、EV=電気自動車に欠かせないレアメタルの価格が供給不安から高騰しています。しかし、ただじゃ転ばないのが日本企業。いま得意のリサイクル技術がレアメタルの分野でさらなる進化を遂げようとしています。(経済部記者 早川沙希)

ニッケルの廃液を再利用

レアメタルのリサイクルが進んでいるらしい…。
取材先からそう聞き、長野県の南部、駒ヶ根市にある、めっき加工の会社を訪ねました。
ここでは自動車部品などに使われるプラスチックのめっき加工を手がけています。

EV=電気自動車の普及にむけて自動車メーカーは車体の軽量化に取り組んでいますが、プラスチックに金属をつければ、光沢だけでなく、強度を高めることもできるそうです。
こんな理由で、めっき加工のニーズはどんどん高まっています。

めっき加工に欠かせないのが金、銅、クロムなどの金属ですが、なかでもこの会社が最も使っているのが、レアメタルのひとつ「ニッケル」です。
会社の担当者が案内してくれためっき加工の部屋には、緑色の液体が入った“生けす”のようなプールが所狭しと並んでいました。

この緑色の液体はレアメタルのニッケルを溶かしたものです。
この中にプラスチックの製品を浸して、めっき加工をしているのです。

そのニッケルの購入などにかかる費用。
去年は年間およそ1億3500万円でしたが、ことしはなんと20%増える見込みだといいます。

「このままでは経営がますます厳しくなる」ー。

通常、製造業では、コストが上昇するとできるだけ貴重な材料を有効活用しようとリサイクルを進めます。

しかし、私が取材したこの会社のリサイクルは「すこしのムダも逃さない」という、一歩進んだ取り組みでした。
めっき加工では、プラスチック製品にニッケルをつけたあと、いったん水で洗います。

この洗った水に、流れ落ちた微量のニッケルが含まれています。

いま会社が取り組んでいる“一歩進んだ”リサイクルは、この微量なニッケルが含まれた水を10倍に濃縮。
再びめっき液として活用しようというものなんです。
5年ほど前から構想はあったということですが、最近の価格高騰を受けて始めることになりました。

現在は試験段階ですが、本格的に稼働すれば年間3500万円のコスト削減につながる見通しだといいます。
塚田理研工業 下島聡社長
「ロシアによるウクライナへの軍事侵攻など、急激な世界情勢の変化で金属の価格が上がっている。長期的にみてニッケル価格はまだまだ上がる可能性がある。効率のいいリサイクルが求められているので、少ない資源で同じ生産量や売上高を実現できるような研究開発を継続していきたい」
レアメタルの価格高騰に頭を悩ませる企業は多いといいます。
会社は、このリサイクル技術をビジネスにすることも視野に入れているそうです。

レアメタルの需要はうなぎのぼり

ニッケル以外のレアメタルも高騰しています。

国によりますと、レアメタルは30種類以上あるとされていますが、コロナ以前の3年前と比べると、軒並み価格が上がっています。

主なレアメタルの価格を見てみると、
▼ニッケル…約2.1倍、▼パラジウム…約1.5倍、▼コバルト…約2.2倍 (新型コロナ感染拡大前=2019年5月下旬と比較 LME)

さらにレアメタルの研究を始めて30年以上という専門家に取材すると、カーボンニュートラルを実現しようと、EVや風力発電の発電機といった多くの製品にレアメタルが使われるようになっていて、需要はさらに高まる見通しだと言います。
東京大学生産技術研究所 岡部徹教授
「中でも自動車は、これまで鉄やアルミ、プラスチックだったが、電動化に伴いバッテリーやセンサーなどに多くのレアメタルが使われ、いわば『走るレアメタル』になっている。さらにウクライナ問題による供給不安もあって価格が暴騰している。今後もレアメタルの需要は増え続ける一方で、昔の状況に戻ることはないだろう」

バッテリーの大量廃棄を見据えて

スマホやパソコンのバッテリーなど私たちの周りで広く使われているレアメタルのひとつ「リチウム」も、リサイクルが注目されています。

リチウムの利用は今後、EVの普及が進めばさらに拡大していきます。

そのリチウムのリサイクル技術を確立しようと取り組んでいる会社が秋田県大館市にあると聞き、取材に向かいました。
この会社の親会社は、非鉄金属の精錬や加工を手がける国内大手です。

私が訪れた工場もかつては鉱山があった場所で、鉱山事業で培った技術を現在はリサイクルに生かしているそうです。
まず、廃棄されたリチウムイオン電池を700度を超える高温でまるごと熱処理。

そして「破砕選別機」という特別な機械で、電池に含まれる鉄、銅はく、アルミなどを回収し精錬メーカーなどに販売しています。

ただ、リチウムイオン電池には鉄、銅、アルミ以外にレアメタルが含まれています。

このレアメタルをもう一度利用できないか、開発が進められてきたのです。
「この中に、ニッケル、コバルト、リチウムが含まれています」

会社の担当者が見せてくれたのは、瓶に入った黒い粉。

電池を熱処理したあと破砕、選別し、鉄、銅、アルミを取り出したあとに残った「ブラックマス」です。

ニッケル・コバルト混合物とも呼ばれるこのブラックマスは、これまで合金の材料としては再利用されてきましたが、会社ではここからリチウムイオン電池の材料になる「炭酸リチウム」だけを取り出す技術を10年以上前から開発してきました。

最近になって技術の実証が終了し、これから電池メーカーなどと協力して実用化を目指すということです。

スマホやEVに使われるリチウムイオン電池が、大量に廃棄される時代を見越した取り組みです。
DOWAエコシステム 田中規之課長
「カーボンニュートラルに向けて、リチウムイオン電池は非常にニーズが高まっている。それに伴い、必ず大量に廃棄される時代がくると考えているので、そのときに備えて、回収やリサイクルができる仕組みをいち早く作りたい」
秋田県の工場では、月に100トンのリチウムイオン電池などを処理できる能力を備えていて、この会社では5月中に岡山県にも新たな拠点を設ける予定です。

リサイクル技術が強い日本

エネルギー資源のほとんどを輸入に頼っている日本では、1970年代の2度のオイルショックを経て、リサイクルの技術革新が進みました。
オイルショックでは、プラスチックなどの商材が手に入りづらくなり、発泡スチロールのリサイクルなどが始まったほか、省エネ技術の開発も進みました。

軍事侵攻をきっかけに、レアメタルや天然ガス、あらゆるものの価格が高騰しています。
専門家は、難易度の高いレアメタルのリサイクルはこれからますます重要になると指摘します。
岡部徹教授
「いまは皆がスマホを持ち、高性能な自動車に乗っているので、レアメタルの需要が減ることはない。一方で天然鉱石を採掘し、レアメタルに加工するのは環境への負荷が大きい。レアメタルのリサイクルという意味で日本は先進国なので、今後はコストを削減する技術革新も必要だと思う」
ものづくりの現場は、さまざまな原材料価格が高騰する厳しい状況に直面しています。

かつてのオイルショックのときのように、苦境を跳ね返そうというさまざまな工夫から新しい技術の芽が生まれ、ゆくゆくは世界をリードする…さまざまな会社が取り組んでいるリサイクル技術も将来そうなってほしいと感じます。
経済部記者
早川沙希
2009年入局
新潟局、首都圏局などを経て経済部
電機業界などを担当