国民審査 “在外の日本人が投票できないのは違憲” 最高裁判決

最高裁判所の裁判官について、ふさわしい人か審査する国民審査に、海外に住む日本人が投票できないことが憲法違反かどうかが争われた裁判で、最高裁判所大法廷は、海外に住む人の投票を認めていないことは憲法に違反するという初めての判決を言い渡しました。

最高裁がこれまでに法律の規定を憲法違反としたケースはすべて法改正が行われていて、国は対応を迫られることになります。

海外に住んでいたため5年前の国民審査で投票できなかった日本人の映画監督や弁護士など5人は「選挙は海外に住んでいる人の在外投票ができるのに国民審査の投票ができないのは憲法に違反する」と主張して国を訴えていました。

一方、国は「国民審査は選挙とは位置づけが異なり不可欠とはいえない。短期間に世界中の国々で手続きを行うことは技術的にも難しい」と争っていました。

25日の判決で、最高裁判所大法廷の大谷直人裁判長は「憲法は、選挙権と同様に国民審査の権利を平等に保障しており、権利を制限することは原則として許されない」と指摘しました。

そのうえで「現在とは異なる投票用紙や方法を採用する余地もある。審査の公正を確保しつつ、投票を可能にするための立法措置が著しく困難とはいえず、やむをえない事情があるとは到底いえない」として海外での投票を認めていない国民審査法は憲法に違反するという初めての判断を示しました。

そして、原告5人のうちいまも海外に住む1人について次回の国民審査で投票を認めなければ違法になるとしたほか、「正当な理由がないのに国会が長期にわたって立法を怠った」として国に対し、5人に賠償するよう命じました。

15人の裁判官全員一致の結論です。

最高裁が法律の規定を憲法違反とするのは11例目です。

過去のケースではすべて法改正が行われていて、国は対応を迫られることになります。

憲法学者「判決は極めて適切」

今回の判決について、憲法の訴訟に詳しい同志社大学大学院司法研究科の松本哲治教授は「一般的に国政選挙と国民審査を比べれば、国民審査の方が意義が劣るのではないかと見られがちだが、最高裁判所は、憲法に違反するかどうかを審査する違憲審査権という国民にとって重要な権限と地位を憲法上与えられている。そうした観点からは選挙権と国民審査について、はっきり同等であると判断した今回の判決は極めて適切だ」と評価しています。

そのうえで「日本のように、行政権の担い手である内閣だけで、違憲審査権を持つ裁判官の指名や任命ができる制度は、諸外国を見ても極めて例外的で、国民が改めて裁判官を審査できるこの制度には一定の意義がある。違憲審査権と民主主義とが、緊張関係にあることを踏まえながら、日本国憲法なりのバランスを取ったひとつの工夫だと言える。この微妙な緊張関係と工夫を踏まえながら、制度を運用していくことが望まれる」と話していました。

識者「国民審査 どうあるべきか 議論につながれば」

今回の判決について国民審査の制度に詳しい明治大学政治経済学部の西川伸一教授は、「現状では国民審査制度は、注目度が低く形骸化していると言わざるをえないが、今回の裁判をきっかけに、この制度の認知度が少し高まったように思う。裁判官に国民の声を届ける重要な制度なので、これを機に、国民審査がどうあるべきかという議論につながればいいと思う」と指摘しています。

また、「そもそも最高裁判所の裁判官が内閣から指名や任命される過程がブラックボックス化してしまっているので、その過程を広く知らせたり、国民審査の投票方法についても、有権者が実感を持てるような形に変えたりすることで、国民がもっと関心を持つようになると思う」と話していました。

原告「国会はこの判決を受けてすぐに動いて」

判決を受けて午後3時半ごろ、原告で映画監督の想田和弘さんと弁護士らが、最高裁判所の前で「違憲判決」、「在外邦人に国民審査認める」と書かれた紙を掲げました。

判決について想田さんは「われわれの主張が全面的に認められてうれしい。国を動かしたということで、廷内でも小さくガッツポーズしました。国会はこの判決を受けてすぐに動いてほしい」と話していました。

また、原告の弁護士の1人は「最高裁の裁判官がこの事案に対して真剣に受け止めた結果、全員一致の判断となったと思う」と話していました。

原告「速やかに違憲状態を改善するように立法措置を」

判決後、原告と弁護団は東京 霞が関で記者会見を開きました。

原告の1人で映画監督の想田和弘さんは「原告は5人ですが、海外に住む日本人を代表する思いで裁判を進めてきたので、私たちの主張を全面的に認め、判事15人が全員一致で憲法違反だと判断してくれたことは本当にうれしい。自分たちへの承認という正当性に関わる問題として、判決を出した判事たちにプロフェッショナルとしての誇りを感じた。判決を重く受け止め、国会は速やかに違憲状態を改善するように立法措置をしてほしいです」と話していました。

また、弁護団の団長を務める吉田京子弁護士は「国会がこれまで立法を怠ってきたことについて、最高裁判所が憲法に違反するとはっきり述べたことは非常に重要だ。国民審査は民主主義の根幹だということを裁判所が理解し、みずからの襟を正した判決だ。この判決によって海外でも投票ができるようになり、国民審査のすそ野が広がると思う」と評価しました。

そのうえで「『今後、私たちを十分に審査してください』という意味で、最高裁から『国民審査権』というバトンが海外に住む日本人にも渡された。その権利を生かすことができるかは私たち次第だ」と述べ、国民審査の重要性を訴えました。

また原告の1人でブラジルに住んでいる平野司さんは「国民審査の対象となる最高裁判所の裁判官によって海外在住者にも等しく権利を認める建設的な判断をいただき感謝しています。 今後、なるべく早い段階で投票が実現することを願っています」とコメントを出しました。

学者出身裁判官が結論に賛成の立場で補足意見

25日の判決では15人の裁判官のうち、学者出身の宇賀克也裁判官が結論に賛成の立場で補足する意見を述べました。補足意見では「名前に×をつける現在のやり方以外の投票方法も選択肢となりうることや、情報通信技術が急速に発展して、国際的な通信にかかる時間や、情報の質、量も飛躍的に向上していることを考えると海外での投票を一律に認めないやむを得ない事情があるとはいえない」としています。

金子総務相 “方策を早急に検討”

判決を受けて金子総務大臣は「総務省として判決を厳粛に受け止め、国民審査の在外投票を可能とするための方策について、早急に検討してまいります」という内容の談話を出しました。

木原官房副長官「立法的な手当てはいずれにしても必要だろう」

木原官房副長官は記者会見で「厳粛に受け止めているところだ。今後、判決の内容を十分精査する必要がある。このため、現段階ですぐに法整備の提出時期などについて言うことは難しいが、立法的な手当てはいずれにしても必要だろうと考えている」と述べました。

自民 高市政調会長「法案出れば 速やかに党内審査行う」

自民党の高市政務調査会長は記者会見で「最高裁判所で判決が出たからには、政府が必要な対応をとることになるので、与党としても協力していきたい。国会対策に関わるので時期的な判断はできないが、法案が出てくれば速やかに党内審査を行う」と述べました。

公明 山口代表「厳粛に受け止めなければならない」

公明党の山口代表は記者団に「厳粛に受け止めなければならない。次の衆議院選挙に備えて速やかに立法的な措置を検討する必要があり、立法府は誠意を持って対応する必要がある」と述べました。

現憲法で11例目 過去10例はいずれも法律改正される

最高裁判所が、法律の規定を憲法違反としたのは戦後、現在の憲法となってから11例目で、過去のケースでは、いずれも法律が改正されています。

初めて憲法違反と判断したのは、
▽両親や祖父母などの殺害は刑が重くなるという刑法の規定で、1973年の判決を受けて規定は削除されました。
▽2005年には、海外に住む日本人の国政選挙の投票を比例代表に限定していた公職選挙法について憲法違反だと判断し、選挙区も在外投票ができるように法改正されました。
このほか、
▽2008年には、日本国籍を取得する際に、両親の結婚を条件にしていた国籍法の規定、
▽2013年、結婚していない両親の子ども、いわゆる「婚外子」は、両親が結婚している子どもの半分しか遺産を相続できないとする民法の規定について憲法に違反するという判断を示し、法律が改正されました。
また、
▽2015年、女性にだけ離婚後6か月間再婚を禁止する民法の規定について「100日を超える部分は過剰な制約で憲法違反だ」と指摘しました。
その後、離婚後6か月を100日に短縮する法改正が行われ、現在は規定の廃止に向けた法改正の準備が進められています。

判決のポイント

最高裁判所大法廷は、海外に住む日本人が国民審査の投票ができない現在の国民審査法について、憲法違反だと明確に指摘し、次の審査までに法律を見直すなどの対応を取るよう、国会に強く迫りました。

判決のポイントです。

国の主張 明確に退ける

裁判で国は、「国民審査は、民主主義の根幹をなす選挙とは位置づけが異なり、不可欠な制度とはいえない」として、重要性は選挙よりも劣るという主張を展開しました。

また、「投票用紙には裁判官の名前を印刷するため作成や送付に時間がかかり、世界中の国々で行うのは技術的に難しい」とも訴えていました。

しかし、最高裁はこうした国の主張をほぼ全面的に否定しました。

判決は「最高裁の地位や権力を踏まえると、主権者である国民が裁判官をやめさせるかどうか判断する国民審査の権利は、選挙と同じように、国民に平等に保障されていて、制限することは原則として許されない」と指摘しました。

三権の1つとして強い権力を持つ最高裁。

その裁判官を国民がチェックする権利の重要性を最高裁みずから示した形です。

そのうえで、技術的な問題について「投票用紙の用意や投票方法を現在のやり方から変える余地はある」として、権利を制限する理由にはならないと判断しました。

次回までの是正強く促す

そして、次の国民審査で、海外に住む日本人の投票権を認めないと違法になるという判断も示しました。

法改正をしないまま次の国民審査が行われ、海外の日本人が投票できない状態が続くのは許さないと、国に強く対応を迫ったことになります。

国会の対応も批判

さらに判決はこれまでの国会の対応も批判しました。

海外に住む日本人の投票権をめぐっては、選挙については2006年の公職選挙法改正で選挙区も投票が認められるなど、見直しが進められてきました。

判決はこうしたいきさつを踏まえ、「海外に住む日本人の国民審査の問題を検討するきっかけはあったにもかかわらず、国会は10年もの長期間、必要な立法措置を怠った」と厳しく非難。

国の賠償責任を認め、原告1人当たり5000円の賠償を認めました。

今後の国民審査は…

判決を受けて政府は法整備に向けて検討を進める考えを明らかにしました。

海外に住む有権者は100万人に上るとみられ、これは岩手県全体の有権者に匹敵します。

今後、海外でも投票が認められればより多くの人が参加できることになり、ひとしく国民の意思が反映される制度に速やかに変えていく必要があります。

一方で、国民審査は形骸化しているとの指摘もあります。

今回の判決は、国民の大切な権利を私たちがどう機能させていくか、改めて問いかけるものともなりました。