旅行会社の閉店ラッシュ 300店舗以上を訪問した記者が見た

旅行会社の閉店ラッシュ 300店舗以上を訪問した記者が見た
今、全国の町なかから旅行会社の店舗が姿を消しています。
鉄道のきっぷ収集を趣味としている私は、全国の旅行会社を訪ね歩いてきましたが、新型コロナの感染が拡大した2020年以降、その動きが加速していると肌で感じています。
旅行会社に何が起きているのでしょうか。(NHK松山放送局記者 後藤茂文)

急速に姿消す 旅行会社の店舗

きっぷを収集する“きっぷ鉄”にとって旅行会社はパートナーのようなものです。きっぷ鉄の私は、これまでに300以上の旅行会社の店舗を訪れてきました。

店舗に行けば、全国どの区間のJR券でも購入することができ、もちろん宿泊施設の手配や交通機関と宿泊をセットにした商品の購入もできます。そして、きっぷには発券した旅行会社の店舗名が印字されるので、それも収集対象の一つとなります。

私のいる愛媛県では、去年以降、店舗閉鎖の動きが相次いでいます。
去年4月、名鉄観光サービスの松山支店が店頭での営業をやめて、きっぷの発券も取りやめることになりました。

秋には近畿日本ツーリストの松山支店が移転して営業所扱いになり、個人向けの営業もすでに終了しました。

ことしに入っても、その動きは止まりません。

1月には、最大手のJTBの新居浜市の店舗が閉店。このため、県内に残るJTBの店舗は、松山市のデパートに入る1店舗のみとなりました。
4月には、日本旅行が、松山市の一等地のビルから撤退。法人や団体向けの営業に特化することになりました。

こうした動きは、愛媛県だけのものではありません。

全国に店舗を展開する大手各社は、これまでに店舗数の大幅削減の方針を相次いで打ち出しています。

このうち、日本旅行は去年3月、今年度中にグループ全体の店舗の数を2020年度の半数以下にあたるおよそ90店舗にまで減らす方針を明らかにしています。

個人向け店舗 削減の理由は?

旅行会社が特に縮小を急いでいるのが、個人向けの店頭営業です。その理由は個人向けの営業のほうが、法人向けよりコストがかかる傾向があるからです。

大手旅行会社の場合、駅前や大通りに路面店を構えたり、ショッピングモールの中に入居したりするケースが多くありますが、場所がよいだけに賃料が高くなります。
パンフレットをずらりと並べたり、快適な空間を作るためのレイアウト費用、そして何よりも接客や相談に対応するスタッフが相当数必要になり、人件費の負担が重くのしかかります。

こうした固定費の高さが店頭営業のネックになっているのです。

もともとコロナ前からインターネット専業の予約サイトに押されていましたが、コロナによる観光需要の激減で、抜本的な合理化に迫られたというのが実情です。

「道の駅」運営にも 新規事業に活路

こうした中、攻めに転じる動きも出てきました。

松山市の旅行会社、フジ・トラベル・サービスは、去年店舗数を半分近くに削減。その一方で、新たな事業として、道の駅の運営に乗り出しました。
愛媛県伊予市にある「道の駅ふたみ」はもともと市が出資する第三セクターが運営していましたが、指定管理者を募る市の公募に提案したところ選定され、昨年度から運営を任されています。

道の駅の“駅長”の中川知香さんはこの旅行会社の社員です。去年までは高知営業所で旅行商品やきっぷを販売していましたが、店が閉店したあと、新しい仕事に挑戦したいと愛媛に転勤して駅長の職に就きました。
中川さん
「今まで10年間、旅行業に携わってきたので、その経験を生かしてやっていきたい」
道の駅を訪れる客を増やすため、新たに始めたのが、地域で収穫された農産物などを販売する産直市場の展開です。それまでは、土産物の販売しか行っていませんでしたが、導入したところすぐに人気となり、今では集客の要となっています。
売り場づくりでは、旅行会社と同じグループ会社のスーパーのノウハウを生かしてわかりやすいレイアウトにしました。レジはスーパーと同じキャッシュレス決済に対応できるものを取り入れています。

旅行会社ならではの企画が、道の駅を絡めたツアー商品です。
道の駅からおよそ5キロ離れた場所には、ホームから海を望む美しい光景が有名で、観光名所となったJR下灘駅(伊予市)があります。

青春18きっぷのポスターに使われたことでも有名な駅で、鉄道ファンにはおなじみの場所です。
往路は人気のJR四国の観光列車「伊予灘ものがたり」に乗って下灘駅で下車し、復路はバスで道の駅に停車するツアー商品を販売したところすぐに完売しました。
中川さん
「下灘駅のほかにも菜の花畑やスイセン畑など多くの観光資源があるので、情報を発信して、それを見たいから道の駅、伊予市に来てくれるようにしたい。そのことが道の駅の売り上げにもつながると思っています」

受託ビジネスに活路を

この旅行会社は道の駅の運営のほかにも、愛媛県版「Go Toイート」の食事券事業や、事業者向けの給付金事業の事務局業務なども引き受けています。
こうした自治体からの受託ビジネスが今後、大きな事業の柱になると考えています。
平岡 シニアマネージャー
「ウィズコロナの中でも安全安心に楽しんでいただける旅行を提供しつつ、合わせて地域に貢献する地域交流事業や受託事業にも注力しています。店舗にお客様が来るのを待つだけではなくて、我々がみずから外に出て、地域のお客様へ提案を行うといったマルチな営業をしていきます」
こうした新規事業は、ほかの旅行会社も力を入れています。
大手では日本旅行と東武トップツアーズが去年、自衛隊が東京と大阪に設けたワクチンの大規模接種センターの会場運営を受託しました。

各社は各地のワクチン接種会場のほか、宿泊療養施設の運営なども積極的に受託しながら売り上げの確保に努めています。
広島市の旅行会社「たびまちゲート広島」は、広島市平和記念公園のレストハウスの指定管理者となっています。

この会社、もともとは「ひろでん中国新聞旅行」という広島電鉄と中国新聞傘下の旅行会社が合併した会社でした。

去年4月、旅行業の「たび」に加えて、地域の魅力を発信する事業や自治体からの受託、つまり「まち」に関わる事業も主要事業にしていくため、社名も変更しました。

競合多数 生き残りのカギは

コロナは業界に大きな変化をもたらしました。

今後は旅行業に加えて、国や自治体からの受託ビジネスなど、新しい事業を開拓していくことが旅行会社にとってますます重要になっていくでしょう。

一方、この分野は広告代理店やコンサルティング会社など、すでに競合が多数いる分野でもあります。

既存の店舗網や、地域の魅力を見つけて観光客に売り込むなどといった旅行業ならではの強みを生かした事業をどれだけ展開できるかが、これからの旅行会社の生き残りを決める、カギになりそうです。
松山放送局記者
後藤茂文
津局、大分局を経て2020年から松山局
遊軍として公共交通や農業、文化など取材
全国のJR線の約98%を乗車済み