北海道にロシアから船が、ウニが。なぜ?価格は?

北海道にロシアから船が、ウニが。なぜ?価格は?
「あの船、ロシアから着いたばかり。ウニを積んできた」

北海道のとある港に着いた船。

たしかによく見ると、船体にはロシアの国旗がありました。

関係者によると、ロシアからウニを積んできたロシア船とのこと。ロシアから船?ロシア産のウニ?

あれ、ウクライナ侵攻以降、どうなったんだろう…。水産物への影響とともに、取材しました。(国際部記者 田村佑輔)

ロシアから船?ロシア産のウニって?

「ロシアからの船は変わらず入ってきていますよ」

こう話すのは北海道の水産関係者。

ウクライナ侵攻による影響を取材していたところ、こう話してくれました。

ロシアから船?本当なのかな…。

とりあえず、その人の情報をもとに、取材に行ってみることにしました。
5月16日、北海道稚内市のある港。

たしかに、港には、ロシアの国旗を掲げた船がありました。

しかも2隻。

ロシア産のウニを扱う会社の担当者に聞くと、この船は、ロシアから着いたばかりで、積み荷は約35トンのウニとのこと。

ロシア産のウニは、業者がチェックした後、10台ほどのトラックに積み込まれ、全国各地に届けられていきました。
「ウクライナ侵攻以降も、ロシア産のウニって輸入しても問題ないんですか?」
先ほどの会社の担当者に疑問をぶつけてみるとー。
「問題ないよ。水産物は輸入禁止の対象になっていないからね」
念のため、農林水産省の担当者にも聞いてみるとー。
「ウニなど水産物は輸入禁止の対象ではありません。輸入しても問題ありません」
ロシアからの輸入禁止の対象となっているのは、5月時点ではアルコール飲料や木材、それに自動車の部品などあわせて38品目。

ただ、ウニなど水産物は、対象となっていないとのことでした。

水産業者や北海道内の自治体担当者に話を聞くと、対象となっていないため、ウクライナ侵攻以降も、ロシアの船も、ロシア産のウニも日本に入ってきていました。

そして、その大部分は北海道の港に入ってきているということです。

支払いはどうしてるの?

次に気になったのが支払いの方法です。

ウクライナ侵攻以降、ロシアの主要な金融機関は、SWIFTと呼ばれる国際的な決済ネットワークから、締め出されています。

いったい、支払いはどうしているんだろう?
「“ツケ払い”のような状態になっています」

こう話すのは、ロシア産のウニを扱っている会社の関係者です。

この会社では、以前は、支払いは銀行振り込みでしたが、ロシアの金融機関がSWIFTから締めだされて以降は、日本円での現金支払いに変えたといいます。

ただ、現在は、ロシアの企業などへの現金支払いには、国の許可が必要なため、すぐに支払いができない状況とのこと。

現在、支払いまでに2週間ほどかかり、“ツケ払い”のような状態になっているということです。

ほかのロシア産のウニを扱っている会社も同じような状況だといいます。

念のため、財務省や税関の担当者にも話を聞いてみました。
それによりますと、ロシアへの支払い手段としての貨幣の輸出・持ち出しは、4月5日から「無断での持ち出しの禁止」になり、つまり、許可制になったということです。

許可を得れば、問題ないとのことでした。
こうした状況について、会社の関係者は次のように話をしています。
「制裁強化にともない、支払いには苦労しています。国内では需要が多いので引き続きロシア産のウニを届けたいのですが、状況は厳しく、ロシアの漁師たちも制裁のことを知っているので複雑な気持ちでしょう」

それでもロシア産ウニは品薄・高騰 なぜ?

「ウクライナ侵攻以降、ロシア産のウニは品薄で、高騰しています」

こう話すのは都内の回転すし店の担当者です。

ロシア産のウニは入ってきているのに品薄、高騰って、どういうことなんだろう…。

この回転すし店では、ウニの値段は1皿2貫で700円を超えていました。

ウクライナ侵攻前と比べると、100円あまり、2割ほど値上げをせざるを得なくなったといいます。
その理由について、担当者に詳しく聞くとー。

国産ウニは、去年の北海道での赤潮などの影響で品薄状態が続き、そもそも仕入れ価格が高騰。

輸入ウニの需要が高まっていたところに、今回のウクライナ侵攻が追い打ちをかけ、さらに価格が高騰しているということです。

特にロシア産は、ウクライナ侵攻後、仕入れ価格が1.5倍~2倍ほどにまで高騰。

この店では、急きょ、カナダ産のウニに切り替え、提供を始めましたが、それでも価格を上げざるを得なくなったといいます。

回転すし店の運営会社の川股竜二専務は次のように話しています。
回転すし店の運営会社 川股竜二専務
「こうした状況が今後も続くと、1皿1000円程度にまで値段を上げざるを得なくなる可能性も。侵攻の影響が見通せないためとても困惑しています」

ロシア産ウニが争奪戦状態

では、なぜ、ロシア産のウニは高騰しているの?

業界の関係者は、ロシア産ウニの需要が増加していることが大きな理由だといいます。

先行きが見通せないため、争奪戦状態となり、その需要は増え続けているといいます。

さらに、原油価格の高騰で輸送コストがあがったことや円安の影響もあるといいます。

実際、ロシア産のウニを扱う豊洲市場の卸売会社によりますと、平均的なロシア産ウニ(250グラム)の平均価格は、ことし2月には5400円程度だったのが、3月には7200円と、3割以上高くなっていました。

今後の見通しについて、築地で鮮魚店を営む徳永智弘さんは次のように話しています。
鮮魚店 徳永智弘さん
「ウニは通常、需要が高まる年末にかけて価格のピークを迎えて、年が明けると価格が下がる傾向がありますが、いまのところ昨年末からほとんど値下がりしていません。このまま年末に向けて、さらに価格が上がるとみられます」

高騰、ウニだけじゃなかった

調べてみると、値上がりしている水産物はウニだけではなさそうです。
「イクラなども高騰していますね。ロシア産が占める割合が高いと影響を受けやすくなります」(築地の卸売会社関係者)
そこで、ロシアからの輸入が占める割合が高い水産物を調べてみました。
ロシアからの輸入が占める割合が高い水産物(金額ベース)
 ◆ベニザケ・・・約79%
 ◆マダラ ・・・約63%
 ◆タラコ ・・・約56%
 ◆カニ  ・・・約56%
 ◆ウニ  ・・・約47%
   (2021年/農林水産省 農林水産物輸出入情報より)
これらの主な水産物の影響について、築地の鮮魚店でさらに聞いてみました。
<ベニザケ>
「ウクライナへの侵攻後、すでに仕入れ値で2割から3割ほど高騰しています。侵攻前はベニザケの切り身を1切れ300円で販売していましたが、3月中旬からは、1切れ350円にまで値上げせざるを得ませんでした。値上がりの原因としては、ウクライナ情勢に加えて、燃料代の高騰や円安なども関係しています。いまある在庫が少なくなることしの夏以降は、さらに値上がりするおそれがあります」
<イクラ>
「ロシア産イクラの仕入れ値は以前は100グラムで約1000円でしたが、ことし4月には約1400円にまで値上がりしています。サケ漁のピークである昨年の秋までに原料を輸入して、倉庫で保管している会社も多いのですが、それでもすでに値上がりしています。近年、日本国内でのサケの不漁も影響してロシア産の需要が高まっているため、今後、価格の上昇は避けられない見通しです」
<カニ>
「カニもイクラと同様に、倉庫で保管をしているものも多く、在庫がある状態なので、若干の値上がりはあるものの、大幅な値上がりはしていません。ただ、今後、新たに仕入れるものについては、影響を受ける可能性はあります」

さらに値上がりするおそれも?

すでに値上がりしている水産物が少なくない中、さらなる値上がりの可能性もあると、関係者たちは指摘しています。

それが、貿易上の優遇措置などを保障する「最恵国待遇」の撤回による影響です。

ことし4月に成立した改正関税暫定措置法は、ロシアに対する制裁措置として貿易上の優遇措置などを保障する「最恵国待遇」を撤回し、ロシアからの輸入品への関税を引き上げるための必要な内容が盛り込まれています。

これにより、一部のロシア産の品物は関税が引き上げられ、価格も上がる可能性があるといいます。
関税が上がるロシア産の品物
 ◆サケ、イクラ  3.5% → 5%
 ◆カニ      4%  → 6%

今後の見通しは?

こうした状況や今後の見通しについて、ロシアとの貿易に詳しい、ロシアNIS経済研究所の中居孝文副所長に話を聞きました。
ロシアNIS経済研究所 中居孝文副所長
「ロシアは、日本にとっては水産物の輸入先としては、チリに次いで2番目の規模で、どうしても影響は大きくなります。さらにウクライナ情勢だけでなく、輸送コスト上昇や円安など複合的な要因も重なり、今後も価格が上がる傾向は避けられないと思います。ウニなどはこれまでよりも少し、縁遠いものになっていくかもしれません」
そのうえで、今の状態が長期化すると、今後、ロシアが日本以外の取引先を見つけ、新たなリスクが生じるおそれがあるとも指摘しています。
ロシアNIS経済研究所 中居孝文副所長
「経済制裁が長引いて、日本とロシアの間で不正常な関係が長く続くと、今後もロシア産の水産物をこれまでのように輸入できるのか、懸念しています。アジアには中国というロシアにとっての大きな市場があり、中国がこれまで日本に輸出されていた水産物に、食い込んでくる可能性もあります。ロシアの漁業者も、生きるために売れるところに売っていく。中国に流れてしまうと、日本には今後、わずかな水産物しか輸出されないという可能性も考えられる。私たちの食生活への影響も長引くおそれもあります」
国際部記者
田村 佑輔
2015年入局
静岡局、釧路局を経て現所属