観光船沈没事故 元従業員 “出航で現場と社長がせめぎ合いも”

北海道の知床半島沖で起きた観光船の沈没事故で、運航会社の元従業員がNHKの取材に応じました。元従業員は、運航会社で安全教育が十分に行われていなかったほか、出航の判断をめぐって現場と社長との間でせめぎ合いが起きることがあったと証言しました。

取材に応じたのは、事故で沈没した観光船「KAZU 1」(19トン)の運航会社「知床遊覧船」で、桂田精一社長の体制になってから甲板員として勤務した経験のある元従業員です。

今回の事故では、船員の技量が十分だったかが焦点の1つとなっていますが、元従業員は、「教育制度やマニュアルもなく安全に関する説明もきちんと受けられなかった。聞いても資料がなかったり、回答をもらえなかったりすることもあった。教育を受ける基本となる海図も事務所にはなかった。海の厳しさや危なさを肌身で毎日感じるので、教育を受けられないというストレスがあった」と証言しました。

また、今回の事故で問題とされている出航の判断をめぐっては、「きょうは出航できない、となったときに担当者が社長に連絡をすると、社長から『これで出れないの』と言われる日があったようだ。現場の担当者が声を荒げて確認する場面を結構耳にすることがあった」と証言し、現場と社長との間でせめぎ合いが起きるときがあったことを明らかにしました。

さらに、現場から運航は無理だという声が上がっていても出航となった時のことについて、「甲板員は何かあったときのために常に立っているが、本当に立っているのがギリギリの状態だった。乗客は座っていても気分が悪くなる人や小さな悲鳴を上げる人もいて、本当に怖かった」と証言しました。

一方、出航後に天候が悪くなり、途中で引き返した時のことについて、社長から「『この波なのに出て偉いね』という連絡が来たのを聞いて怖いなと思った」と振り返りました。

また運航会社は、法律で禁止されているアマチュア無線を使った業務連絡が行われていた疑いがもたれていますが、元従業員は、桂田社長から無線の資格試験を受けるよう指示を受けていたということす。

今回の事故で行方不明になっている豊田徳幸船長については、「真面目な人柄で、故意に事故を起こそうとは絶対に思っていないので、最後まで必死に状況に向き合っていたと思う」と話しました。