カンヌ映画祭 プーチン政権批判のロシア代表する監督作品上映

世界3大映画祭の1つ、カンヌ映画祭で、ロシアのプーチン政権を批判してきた監督の作品が公式上映され、観客から盛大な拍手が送られました。

ことしのカンヌ映画祭は、ロシアによるウクライナへの軍事侵攻を受け、ロシアの当局者などの参加を認めない、異例の方針がとられています。

一方で、最優秀賞のパルムドールを競うコンペティション部門には、ロシア社会を風刺する作品で知られ、プーチン政権を批判してきたロシアのキリル・セレブレンニコフ監督の「チャイコフスキーの妻」がノミネートされました。

作品は18日に公式上映され、セレブレンニコフ監督や出演した俳優たちが上映会場につながるレッドカーペットを歩き、報道陣の呼びかけに笑顔で応じていました。

「チャイコフスキーの妻」は、19世紀の作曲家、チャイコフスキーの妻、アントニーナの物語です。

同性愛者だとうわさされるチャイコフスキーと結婚したものの夫婦関係が築けず、チャイコフスキーから離婚を切り出されたことで精神のバランスを崩していく姿が描かれています。

公式上映が終わると、観客は立ち上がってセレブレンニコフ監督に盛大な拍手を送りました。

鑑賞した人たちは「軍事侵攻を続けるロシアの当局者が映画祭から排除されるなか、カンヌまで足を運んでくれた勇気ある監督だ」とか「作品は、女性や同性愛者の権利が認められていなかった19世紀が舞台だが、いまも不寛容なロシアの保守的な社会を批判しているようにも感じた」などと話していました。

セレブレンニコフ監督とは

ロシアのキリル・セレブレンニコフ監督は2018年に「LETO -レト-」、去年には「インフル病みのペトロフ家」がカンヌ映画祭のコンペティション部門にノミネートされた、ロシアを代表する実力派の監督です。

ロシア社会を風刺しプーチン政権を批判してきたことでも知られ、国の資金を横領した罪で一時、自宅軟禁におかれていたため、2018年と去年はカンヌ映画祭に対面で参加できなかったということです。

ロシアによるウクライナへの軍事侵攻が始まったあとのことし3月、セレブレンニコフ監督はロシアを出国してドイツの首都ベルリンに拠点を移し、映画の製作を続けています。

セレブレンニコフ監督「ロシア文化は反戦貫いてきた」

カンヌ映画祭のコンペティション部門に「チャイコフスキーの妻」がノミネートされているロシアのキリル・セレブレンニコフ監督は19日、映画祭の会場で世界のジャーナリストを前に記者会見を行いました。
この中でセレブレンニコフ監督は、ウクライナへの軍事侵攻を背景に世界各地でロシアやロシア文化を排除する動きが広がっていることについて「ウクライナで起きている悲惨な状況を見れば排除を求める動きも理解できる」と述べました。

一方で「文化は空気であり、水であり、雲であり、独立したものなのだから、ひとえに文化の排除を呼びかけるのは不可能だ。ドストエフスキーやチェーホフ、チャイコフスキーを排除することも、演劇や音楽、映画を否定することも避けなければならない。演劇や映画こそ、人々が生きていることを実感するために役立つものなのだから」と述べました。

このほかセレブレンニコフ氏は「ロシア文化は常に、人間の価値、はかなさ、魂への思いやり、恵まれない人への思いやりを訴えてきた。戦争はそうした価値を破壊するので、ロシア文化は常に反軍事、反戦を貫いてきた。戦争を宣言するのは、人々をざんごうに投げ込むか、人の人生や痛みには興味がない人たちだ。戦争は文化と相いれないものであり、演劇や音楽、映画は、反戦の価値を広めるために闘っている」と述べました。

軍事侵攻続くマリウポリ舞台のドキュメンタリーも上映

フランスのカンヌ映画祭では19日、ロシアによる軍事侵攻が続くウクライナ東部マリウポリを舞台にしたドキュメンタリー「マリウポリス2」も上映されました。
作品を手がけたリトアニアのマンタス・クベダラビチュス監督は、2014年から翌年にかけてマリウポリでドキュメンタリーを撮影し、その際に出会った人たちを再び撮影するため、ロシアによる軍事侵攻が始まったあと再び現地に入りました。

しかし先月、撮影中にロシア軍によって拘束され殺害されました。

監督の遺志を受け継ごうと、当時一緒にいた共同監督で婚約者のハンナ・ビロブロバさんが映像をウクライナから持ち出し、スタッフと共に作品を完成させたということです。

カンヌ映画祭は、会期が始まる直前の今月12日に「今こそ人々が観なければならない作品であり、追加での上映を決めた」として「マリウポリス2」の特別上映を発表していました。

上映を前にあいさつに立ったビロブロバさんは「マンタスの作品と功績をカンヌ映画祭の場で紹介することができて光栄です。ここに来ることを実現させてくれた仲間たちにも感謝したい」と涙をこらえながら述べると、会場から大きな拍手が上がりました。