【詳しく】バイデン大統領 なぜいま日本に?

アメリカのバイデン大統領が5月22日から24日にかけて日本を訪問します。2021年1月に就任してから初めてのアジア訪問です。

いま、日本を訪問するねらいはどこにあるのでしょうか?
そして、今回はなぜ、中国には行かないのでしょうか?

(ワシントン支局長・高木優)

日本訪問の最大のねらいは?

ロシア軍によるウクライナへの軍事侵攻が続く中でも、アメリカのインド太平洋地域への関与は揺るがないと明確に示すことにあります。

ウクライナ危機で、アメリカ政府は、ヨーロッパ諸国などとともにロシアに強力な経済制裁を科し、ウクライナに多額の軍事支援をすることに力を注いできました。

このことによって、中国が軍事力を背景に影響力を増すインド太平洋地域へのアメリカの関与が後回しになったり弱まったりするのではないかという懸念が関係国の間に生じていることが背景にあります。

そのためにバイデン大統領は今回、日本と韓国という、信頼を置く東アジアの同盟国に足を運び、強固な同盟関係や、地域の安全保障への一貫した関与をアピールしたい考えです。

中国には今回、行かないのはなぜ?

それには深いわけがあります。まず、今世紀に入ってからのアメリカ大統領の初の日本訪問をおさらいします。
意外かもしれませんが、アメリカ大統領が初の日本訪問と合わせて中国に行かないのは、この20年余りで初めてです。

ブッシュ大統領の前のクリントン大統領は、1998年に中国に9日間滞在したのにもかかわらず、日本には立ち寄らず、「ジャパン・パッシング(Passing)」とやゆされたことすらありました。

それと比べると、時代は大きく変わりました。その理由をひも解くには、次の米中関係の年表を見れば一目瞭然です。
ニクソン大統領の訪中を境に、米中は接近していき、天安門事件を経て、アメリカは中国に関与することで、中国を国際ルールに従わせ、ともに発展しようと試みました。

ところが習近平指導部の発足と相前後して、中国は軍事拡張と言論統制を一段と強めます。アメリカは中国が戦後の国際秩序に挑戦していると受け止めるようになりました。

トランプ前政権は当初は中国に融和的な姿勢もとりましたが、途中から対中強硬姿勢を一気に強めました。

バイデン政権はそれを踏襲。中国を「最大の競合国」と位置づけ、米中が対抗し合う時代に突入。「新冷戦」とも呼ばれるようになりました。

アメリカ国内の中国に対する世論も悪化していて、バイデン大統領としてはいま、中国に足を運べば、支持を失いかねない状況なのです。

バイデン大統領は日本で何をしたいの?

中国の台頭と、アメリカの相対的な国力の低下もあって、アメリカの日本に対する期待は増しています。
岸田総理大臣との首脳会談では、台湾有事の可能性も念頭に、安全保障分野での連携強化を図りたい考えです。

それとともに、バイデン大統領は、アメリカの「核の傘」を含む「拡大抑止」が、強固で十分であることを再確認する方針です。

「拡大抑止」って何?

「拡大抑止」は今回の首脳会談のキーワードです。

「拡大抑止」とは、同盟国に対する攻撃を自国への攻撃と見なし、もし攻撃したら報復することをあらかじめ宣言することで、相手国に攻撃を思いとどまらせるという考え方です。自国の抑止力を同盟国にも提供する形になるので、「拡大抑止」と言います。

バイデン大統領としては、日本と韓国で「拡大抑止」を再確認することで、地域で広がる安全保障上の懸念の払拭(ふっしょく)をはかるとともに、中国や、弾道ミサイルの発射を繰り返す北朝鮮をけん制するねらいがあります。

また、「拡大抑止」の再確認は、中国軍による軍事的な圧力にさらされている台湾に対する、アメリカのメッセージになるとも考えています。

台湾へのメッセージにもなるの?

はい。

実は、アメリカは台湾有事の際の対応の仕方は明確にしていません。アメリカは、台湾に対しては「あいまい戦略」と言って、中国が軍事力を駆使して台湾統一を図った場合の対応をあらかじめ明確にしないことで、中国の行動を抑止すると同時に、台湾が独立へとかじを切らないようにする戦略をとっています。

そのことが、地域の安定につながると考えているからです。

しかし、台湾では、アメリカがウクライナに軍を派遣しないことを早々に宣言し、外からの軍事支援に徹しているのを見て、台湾有事の際にアメリカが支援してくれないのではないかと考えている人が増えているという世論調査の結果も出ています。

このためバイデン大統領が、今回、台湾と中国の「目と鼻の先」の日本で「拡大抑止」を再確認することには、そうした台湾の人たちに力強いメッセージを送るねらいもあるのです。

日米豪印のクアッド首脳会合のねらいは?

日米首脳会談の翌日、24日に行われる日米豪印の4か国からなるクアッドの首脳会合のいちばんのねらいは、インドとの関係の深化です。

インドは武器の購入などを通じて歴史的にロシアとの関係が強く、ウクライナ危機を受けて、クアッドの枠組みでロシアへの圧力強化を打ち出そうとすると、インドは賛同しづらいという事情があります。

このため、クアッド首脳会合では、中国を念頭に、コロナや気候変動対策、宇宙協力など4か国が一致して取り組みやすい分野で、関係をさらに深めることで、中国への圧力を強めたい考えです。

最近よく聞く「IPEF」も大事なの?

そのとおり。

バイデン大統領の日本訪問の、隠れたもう一つのねらいは、そのIPEF=インド太平洋経済枠組みの東京での発表です。

IPEFは「アイペフ」と読みます。

Indo-Pacific Economic Frameworkの頭文字をとった新たな経済連携で、トランプ前政権時にアメリカが離脱したTPP=環太平洋パートナーシップ協定に代わる枠組みとして、バイデン政権が提唱しました。

サプライチェーン=供給網の構築や国境を越えたデータ管理などで中国に対抗していくのがねらいです。

ところがアメリカが参加を期待するASEAN=東南アジア諸国連合の国々の反応がいまひとつです。

ASEAN諸国のなかには、アメリカの「本気度」に対する懐疑的な見方や、経済的結び付きの強い中国との関係悪化を懸念する声が少なくないからです。

さらに、関税の引き下げといった目に見えるメリットが感じられないことへの不満もあります。

このためバイデン大統領は今回、ASEAN諸国の間で信頼度の高い日本の後押しを受ける形で、IPEFの立ち上げに向けた協議の開始を東京で発表することで、スタートダッシュを図りたい考えです。

IPEFの具体的な中身のほか、何か国が参加するのかが注目されています。