消費者物価2%超上昇 専門家「“悪い物価上昇”になっている」

4月の消費者物価指数は去年の同じ月を2.1%上回り、消費税率引き上げの影響を除けば13年7か月ぶりの上昇率になりました。
一方で専門家は「賃金が上がらずにコストだけが増える『悪い物価上昇』になってしまっている」と指摘しています。
いったいどういうことなのでしょうか?

上昇2%超 背景に“原油高騰”や“急速な円安”

4月の消費者物価指数は、天候による変動が大きい生鮮食品を除いた指数が去年の同じ月を2.1%上回りました。
政府・日銀が目標としてきた上昇率が2%を超えたのは、消費税率引き上げの影響を受けた2015年3月以来、7年1か月ぶりで、消費税の影響を除けば2008年9月以来、13年7か月ぶりとなります。
主な要因は原油価格の高騰です。
下のグラフは、企業どうしで取り引きされる原材料などのモノの価格を示す「企業物価指数」と、私たちが買うモノやサービスの値動きを示す「消費者物価指数」の伸び率の推移です。
4月の企業物価指数は去年の同じ月を10%上回り、比較が可能な1981年以降で最大となる記録的な上昇率になりました。

原材料費の上昇のほか、急速に進んだ円安による輸入コストの上昇も指数を押し上げました。

これまでは原材料費が高騰しても値上げによる消費者離れを懸念して身近な商品の価格に転嫁できず、企業物価指数と消費者物価指数の上昇率には大きな開きがありました。

しかし、仕入れコストの高騰に耐えきれず、企業の間で商品を値上げする動きが相次いでいて、企業物価を追いかける形で消費者物価も上がり始めています。

物価上昇 追いついていない“賃金”

ただ、このところの物価上昇に賃金の伸びは追いついていません。
厚生労働省の「毎月勤労統計調査」によりますと、ことし3月の働く人1人あたりの現金給与総額は平均で28万6567円と、去年の同じ月と比べて1.2%増えたものの、物価の変動を反映した実質賃金は0.2%下回り、マイナスになりました。
物価が賃金を上回るペースで上昇し、家計の負担が増えていることを示しています。

“経済の好循環を伴っていない”

今回、消費者物価指数が2%を超えましたが、日銀は今の物価上昇は、エネルギーや原材料の価格高騰が主な要因で、一時的なものであり、日銀が目指す賃金の上昇や需要の増加といった経済の好循環を伴った安定的な物価上昇ではないとしています。
黒田総裁もこうした物価上昇は家計や企業収益を圧迫し景気を後退させる懸念があると指摘していて、景気を下支えする必要があるとして大規模な金融緩和を続ける姿勢を示しています。

値上がりの中心は“食品”や“エネルギー” 家計の負担増加

家計に占める割合の大きい「食料」は、全体で4%の上昇となり、消費税率引き上げの影響を除くと1998年11月以来、23年5か月ぶりの記録的な上昇となりました。

食用油は36.5%上昇

「生鮮食品を除く食料」は世界的な需要の増加と円安が進んだ影響で、輸入原材料を使う品目を中心に値上がりし、去年の同じ月と比べて、食用油は36.5%、ハンバーガーは6.7%上昇しました。

「生鮮食品」も大きく値上がりしました。
まん延防止等重点措置が解除され外食需要が増えたことや原油高で輸送コストが高騰していることなどを背景に、まぐろは17.2%、さけは13%上昇しました。

このうち、さけは、ウクライナ情勢の緊迫化でノルウェーからの輸入品がロシア上空をう回して空輸せざるを得なくなり、輸送コストがかさんだことも値上がりにつながりました。

さらに、「エネルギー」の上昇も指数を押し上げました。

「エネルギー」全体で19.1%上昇

原油価格の高騰で、都市ガス代が23.7%、電気代は21%、ガソリンは15.7%、それぞれ上昇し、「エネルギー」全体で19.1%の大幅な上昇となりました。

「エネルギー」の上昇幅は、3月と比べると政府の補助金などでガソリン価格が抑えられた影響でわずかに縮小したものの、引き続き消費者物価指数を押し上げる最大の要因となっています。

生活に欠かせない食品やエネルギーが中心の値上がりで、家計の負担が重くなっていることがうかがえます。
東京 国立市に住む増田泰子さん(64)は毎日、家計簿をつける中でさまざまな商品の値上がりを実感しています。
増田さんは今、夫と2人暮らしで、1日3食のおかず代を1200円までに抑えようとしていますが、相次ぐ食料品の値上げで予算を守れなくなっているといいます。増田さんの夫はあと少しで定年を迎えるため、老後に向けてできるだけ貯蓄したいと考えています。

このため支出を少しでも抑えようと、野菜はへたの取り方や切り方を工夫して使い切ることを徹底したり、生ゴミは肥料にして庭でインゲン豆や小松菜を栽培したりしているほか、車を使う頻度を少なくするなどの工夫を重ねています。

増田さんは「毎日使うモノの価格が上がるのは、家計を預かる身としては非常に厳しい。削れるものを削って細かく工夫をいろいろして家計を守っていきたいが、輸送費や円安による原材料の輸入価格の上昇などさまざまな要素が相まって今の値段になっているので、物価が高い状況がいつまで続くのか不安だ」と話していました。

所得が低い人ほど影響が大きく

食品やエネルギーなど暮らしに欠かせないモノの値上がりは、所得が低い人ほど影響が大きくなります。

下のグラフは、食品やエネルギーの値上がりによる年間の負担額が、コロナ前の2019年と比べてどの程度、増えるのかを2人以上の世帯で年収別に見たものです。
内閣府の分析の手法に基づいて、総務省が発表している家計調査と4月の消費者物価指数からNHKが試算しました。

それによりますと、食品やエネルギーの値上がりによる年間の負担額は、年収によって6万4468円から9万8697円、増えることが分かります。

この負担の増加額を、年収に占める割合で見てみます。
例えば、年収が256万円の世帯では食品やエネルギーの値上がりによって年間の家計の負担率が2.5%増えることがわかります。

値上がりによる負担率は年収が1193万円の世帯のおよそ3倍となっていて、生活必需品を中心とした物価上昇は所得が低い世帯ほど影響が大きくなることを示しています。

専門家「『悪い物価上昇』になってしまっている」

物価の上昇率が2%を上回ったことについて、ニッセイ基礎研究所の斎藤太郎経済調査部長は「日銀が目指していた形の2%の物価上昇とは程遠い状態だと言わざるをえない。望ましい物価上昇というのは、景気がよくて消費が増え、企業が値上げをしていくことで収益を上げ、それが従業員の賃上げにつながる好循環になることだが、今は残念ながら賃金が上がらずにコストだけが増える『悪い物価上昇』になってしまっている」と指摘しています。

そのうえで「今の物価上昇は輸入品の値段が上がっているということにほぼ尽きるわけで、日本から海外に所得が移転していることと同じ意味を持ち、日本経済にとってみれば明らかにマイナスだ。家計にとってみても毎日使う電気代やガソリン代、それに食料品と、身近に実感しやすい品目が上がってきているので、長年デフレに慣れてきた日本からすれば戸惑っているところがある」と分析しています。

そして物価の先行きについては「原油高と円安のピークはことしの夏ごろだと思っているが、企業が価格に転嫁したり、物価に波及したりするのは少し遅れるので、2%台の物価上昇は年内いっぱい続くだろう。景気が失速しないようにするため貯蓄を引き出して消費に回すような国内の需要の喚起策を進めるとともに、企業側には物価の上昇分を賃金に反映させるように求めていくことも必要になる」と話しています。

仙台名物 牛タンも値上げ

物流コストの上昇でアメリカ産の輸入牛肉の高値が続き、仙台名物の牛タンを扱う専門店は相次いで値上げに踏み切っています。ただ、値上げによって客足が鈍くなる傾向も出ていて、国産の食材の取り扱いを広げてリスクの分散化を図ろうとしています。
牛タン専門店でつくる仙台牛タン振興会によりますと、アメリカ産の牛タンは新型コロナの影響で加工工場の稼働率が落ちたり物流コストが上昇した影響で、おととし1キロ1500円ほどだった仕入れ価格が、去年は一時、2.3倍にあたる3500円にまで高騰しました。

このため、値上げに踏み切る牛タン専門店が相次ぎ、このうち弁当を中心に展開する仙台市内の会社もことし3月に弁当を2割ほど値上げしたほか、持ち帰り用の牛タンの販売を取りやめました。

ことしに入って2400円ほどで推移してきた牛タンの仕入れ価格は急速に進んだ円安によって先月から2700円ほどに上昇していますが、3月に弁当を値上げしてから客足が1割ほど落ちているということで、再度の商品の値上げには慎重になっています。

会社では円安に対応するためアメリカ産の牛タンに代わる国産の食材の取り扱いを広げています。1年前に始めた国産の豚のタンを使った弁当の販売を今後も継続するほか、この夏からはイノシシやエゾシカなど野生動物の肉「ジビエ」を低温熟成の技術で加工して販売し、リスクの分散化と経営の多角化を図ろうとしています。

「陣中」の福山良爾社長は「輸入の食材に頼るのはリスクが大きく、牛タン1本で会社を存続できるのか疑問を感じるようになった。円安が強みになる輸出を手がけることも視野に入れて事業を展開し生き残りを目指したい」と話していました。

原材料価格の高騰で値上げも

小麦粉などの原材料価格の高騰が続く中、うどんや焼きそばなどを製造している広島市の製めん所は、先月、販売価格を値上げしました。ただ、値上げをきっかけに一部の取引先への販売量が減るなど影響が出ています。
うどんや焼きそばなどを中国地方のスーパーや飲食店に卸している広島市西区の製めん所によりますと、去年9月以降、製造にかかわるあらゆるものが値上がりしていて、めんづくりに欠かせない小麦粉は去年と比べて25%ほど値上がりしたほか、めんを包装する袋も原油価格の高騰で10%以上値上がりしました。

さらに燃料価格の上昇で配送コストも大きな負担になっています。このため、製めん所では、少しでもコストを抑えようと、配送ルートを見直して、トラック1台あたりに積み込む商品の量を増やす工夫をしてきました。しかし、こうした工夫だけでは仕入れ価格の上昇分を吸収できず、先月めんの販売価格を値上げしました。

うどん1袋あたりの値上げ幅は2円から3円ほどですが、価格競争の激しい商品だけに、取引先の一部では値上げをきっかけに、販売量が減ったところもあるということです。

「マルバヤシ」の林本正也社長は「生産にかかわるもので、コストが現状維持なのは水道代くらいしか見当たりません。お客さんに身近な商品なので値上げの幅はなるべく抑えたいですが、多少なりとも値上げするところはさせてもらって、適正な価格で販売していきたいというのが正直な気持ちです」と話していました。