海外名門校がスキーリゾートに?

海外名門校がスキーリゾートに?
良質な雪質は“奇跡のシルキースノー”とも言われ、スキーリゾートとして知られる岩手県の安比高原。
観光客の低迷に悩むなか、新しいまちづくりが始まっています。
そのカギを握ると期待されているのが、海外から誘致したインターナショナルスクールです。
(盛岡放送局記者 梅澤美紀)

リゾート地にイギリスの名門校?

岩手県の北西部、八幡平市にある安比高原。

良質な雪質は“奇跡のシルキースノー”とも呼ばれ、日本有数の規模を誇るスキー場などリゾート地として知られています。
ことし8月、この場所に新たな施設が誕生します。

岩手県内で初めてとなるインターナショナルスクールです。

この学校の本校は、創立450周年を迎えるロンドンの「ハロウスクール」。
イギリスのチャーチル元首相やインドのネルー初代首相も学んだ、世界有数の名門校として知られています。

北京や香港、バンコクなどアジア各地にインターナショナルスクールを展開していて、安比校は日本で初めて開校する提携校となります。

授業はすべて英語で全寮制

新たな学校では、いったいどのような教育が行われるのでしょうか。

ことし4月、校舎の一部が公開されました。
およそ10ヘクタールという広大な敷地に、校舎や寮、サッカー場などの整備が着々と進んでいました。

11歳から18歳までの7年制で、授業はすべて英語で行われます。
数学や言語などの主要科目に加え、音楽やデザイン、ビジネスなど自分の好きな分野の学びを深めるための幅広い科目が用意され、最終的には世界の名門大学への進学を目指すといいます。

さらにスキーや登山など、安比高原の環境を生かした課外授業も計画されています。

また全寮制で、生徒たちは安比高原で生活を共にします。
すでに採用されている教員40人はイギリス人が中心。

生徒はまずは200人を定員に募集していて、最終的には学校全体で920人の生徒を受け入れる方針です。

学費は寮費を含め、年間850万から920万円。

なかなか手が届きにくい…と感じてしまいますが、応募はアジアを中心に国内外から寄せられているといいます。

目指すは定住者1万人 期待高まる新学校

実はこの学校、一帯で進むまちづくり構想の中で重要な役割を期待されています。

構想の名は「安比バレー構想プロジェクト」。

目指すのは、「観光・教育・健康」をテーマにしたグローバル都市です。

構想が公表されたのは、2年前。

背景には、安比が直面する厳しい現状があります。
1981年にスキー場が開業して以降、ピーク時の1991年から1992年にかけてのシーズンには150万人のスキー客が訪れましたが、バブル崩壊による不景気や国内のスキーブームの低迷から客数は大幅に減少。

さらに新型コロナの感染拡大が追い打ちをかけ国内だけでなく、海外からの客も大幅に減少した結果、2020年から翌年にかけてのシーズンは初めて30万人を切りました。

周辺では営業をやめるペンションも増え、地域のにぎわいをどう取り戻すかが大きな課題となっています。
プロジェクトでは、これまで主軸としてきた観光産業に加え、教育や医療などの環境も整えていくことで、将来的に外国人を含めた定住者を1万人に拡大するのを目標としています。

プロジェクトを担うのは、安比高原のスキー場やゴルフ場、ホテルなどを運営する盛岡市のリゾート開発会社です。

この会社の社長は、観光客を呼び込む戦略だけに頼るのには限界を感じていたと言います。
岩手ホテルアンドリゾート 黒澤社長
「スキーをはじめとする観光で遠くから安比高原に足を運んでもらおうという努力はさまざまやってきたのですが、極めて難易度が高く、大きな成果がなかなか出なかった。
観光客を呼び込む活動に加え、全く違う活動を上乗せして定住人口を増やし、周辺の人にとっても魅力的なエリアにしていきたい」
そして定住人口の増加のカギとなるのが、インターナショナルスクールだと考えています。

新たな学校では、生徒と教師ら合わせておよそ1000人の居住を見込めるとしていて、定住者を呼び寄せる中心的役割を担うと考えているからです。
岩手ホテルアンドリゾート 黒澤社長
「ハロウ安比校の関係者だけで、安比高原の人口は大幅に増加する見込みです。
それに伴い、学校の周りで新しい事業が立ち上がるでしょう。
それに関与する人たちが安比高原に住むなど、派生効果による人口の増加も期待できると考えています」

誘致のカギは“豊かな自然”

学校の誘致にあたって、最大のアピールポイントとなったのが、安比の豊かな自然環境です。

スキー場やゴルフ場が整備されている一方で、周辺にはブナ林が広がり、美しい星やホタルを見ることができます。

自然を生かしたアウトドア教育の機会が豊富にあることを強みとして打ち出しました。

イギリス人の校長も、学校が立地する環境に大きな魅力を感じたといいます。
ハロウ安比校 マイケル・ファーリー校長
「イギリスはもともと全寮制という文化があります。
都会から少し離れた環境の中で人を育てるのです。
自然の中で子どもを育てるのは、心身によい影響があると考えているからです。
これほど大自然に近い環境で豊富なアウトドアの機会に恵まれているのは、われわれのインターナショナルスクールのなかで安比唯一といえます」
学校では現在、スキーやマウンテンバイク、星空観察など安比高原の大自然を生かした課外活動を売りに、生徒を募集しています。

このほか、誘致の後押しとなったのは、国内で高まっているインターナショナルスクールのニーズだといいます。

富裕層を中心に子どもを海外に留学させる動きも多くみられるなか、国内にいながら英語を使い高度な教育を身につけられる場が求められるようになってきていると考えられたからです。

新しい学校 地元も支援

開校に向け、自治体も支援に乗り出しています。

学校の認可が下りたことを受けて、県と八幡平市は今年度、校舎の運営や建設資金としてあわせて3億2000万円余りを補助することにしています。

学校側は、施設の一部を地域住民に開放することを検討しているほか、地元の子どもたちとのスキー大会など、スポーツを通じた交流も行っていく予定です。

また生徒や教員が地域の店舗などを積極的に活用することを推奨し、地域経済の活性化にも貢献したいとしています。

そして八幡平市や岩手県は、インターナショナルスクールの生徒と地元の子どもたちとの文化やスポーツ交流などを期待して、今後、学校と連携協定を結ぶ方針です。
八幡平市 企画財政課 関本課長
「世界的な名門校としてブランド力もあるので、市としてもそれを生かしていきたいと考えています。
学校の開校によって、安比高原の国際化がより進んでいくと考えています。
市内の児童や生徒と盛んに交流していければいいかなと思っています」

地元の声は

地域の人たちも、新しい学校がどのような変化をもたらすのか、関心を寄せています。
ペンションオーナー
「人の流れができると思うので、今までにない客層や年齢層の人が、ペンションや安比高原に来てくれるのではないかという期待感はありますね。
この地域はだんだんとパワーがなくなってきているというのは感じているので、若い人たちとか、先生とか、家族の方に来てもらって、何かまた新しいことが起きればよいなと」
「世界的な名門校の誘致」。

それがリゾート地として有名な安比高原の活性化にどのような効果をもたらすのか、私自身も当初は半信半疑でした。

しかし、4月に学校が公開され、その内容が明らかになってくるにつれ、地域の住民や自治体の期待値も徐々に高まってきたように感じています。

学校は、ことし8月29日に開校する予定です。

新しい学校が地域にどのような変化をもたらすのか。

今後の展開に注目していきたいと思います。
盛岡放送局記者
梅澤美紀
2020年入局
警察・司法、八幡平市政を担当
震災・防災なども取材