WEB特集

山梨の“裏側”でぶどうを栽培? いま広がる新たな農業の形

「北半球と南半球では季節が逆になる」

この誰もが知る現象を生かして年2回、日本のぶどうを栽培している人たちがいます。露地ぶどうの収穫は年に1度だけという“常識”を覆したこの取り組み。農業のやり方を根本から変えることで生産者を支えることにもつながっています。
(甲府放送局記者 清水魁星)

百貨店に並んだ“季節外れ”のぶどう

東京・新宿にある百貨店。

ことし4月、生鮮食品売り場に並んだぶどうが人気を集めていました。

大粒の高級ぶどう「バイオレットキング」です。
山梨県内の研究所が開発した皮ごと食べられる品種で、特徴は甘さとさわやかな酸味です。

「赤ぶどうの王様」とも言われています。
購入した人
「ぶどうが好きな孫の入園祝いです」
「子どもが食べたいと言ったので買いました。この時期はなかなかぶどうがないですよね」
ぶどうの収穫がないこの時期に、なぜ日本のぶどうが店頭に並んでいるのか。

実は意外な場所で収穫されたからなんです。

NZでぶどうを作る日本人

その場所は、日本から9000キロ以上離れた南半球のニュージーランド。

ここで山梨のぶどうを作っている農業生産法人「葡萄専心株式会社」の樋口哲也さんです。

山梨県出身の樋口さん。
笛吹市で20年以上、ぶどうを作っていますが、8年前からはニュージーランドでも生産を始めました。
樋口哲也 代表取締役
「きっかけは妻の何気ないひと言です。北半球の日本と南半球のニュージーランドは季節が反対になる、この違いを生かせば通年でぶどうを栽培することができると考えました。いまは日本の農業を変えたいと思っています」
露地栽培のぶどうを育てる場合、日本では5月ごろから農作業が本格化します。そして10月ごろに収穫を終えると、翌年の春までの半年間、閑散期となります。

この間、作業はほとんどないため、農家は収入を得ることができず、従業員も仕事がありません。

ところが季節が反対のニュージーランドでは、日本が閑散期となる10月下旬から4月ごろまでがぶどうの栽培や収穫の時期です。

つまり、栽培する場所を変えることで年に2回、ぶどうを収穫することができるのです。
樋口哲也 代表取締役
「日本かニュージーランド、片方だけだと年1回の収入しかないので、法人として成り立たないし、社員にも高い給料を払うことができません。でも年に2回収穫することができれば、1年を通じて社員を雇用することができ、生活も安定します」

メリットは働く人にも

年2回の栽培は、働く人にとってもメリットがあります。

安定した収入を得られるだけでなく、ぶどう栽培に必要な技術を早く身につけることができるのです。
佐久間さん(写真右端)・樋口さん(写真中央)
樋口さんの山梨とニュージーランドの畑で4年ほど働いた佐久間健さん。

そのときの経験がその後の独立にもつながりました。
ぶどう農家 佐久間健さん
「農業は1か所でやるものだという固定概念を取り払ってくれて、視野を広げてくれました。1年の間に2回、同じ経験を積めることは、技術を身につける意味で非常に重要でした」
樋口哲也 代表取締役
「日本だけで技術指導を行う場合、1シーズンで1から10まで教えても、閑散期の半年間ブランクができてしまうので半分くらい忘れてしまうんです。でも日本とニュージーランドを往復すれば繰り返し栽培を経験できるので、2倍以上の速度で技術を身に付けることができます」

企業も注目!ぶどうづくりを始めたのは不動産会社

こうした、樋口さんの農業には企業も高い関心を寄せています。

大手不動産会社、三井不動産は3年前、新しい分野への進出を目指そうと社内ベンチャー企業「GREENCOLLAR」を設立。

樋口さんの協力を得ながら本格的なぶどう栽培に乗り出しました。
一見、不動産業とは全く違うように見えるぶどうづくり。

しかし、苗を植えてから収穫が始まるまで約3年かかるなど、時間をかけて事業を行っていく点などは、不動産業に通ずるところがあるといいます。
鏑木裕介 代表取締役
「季節の違いを生かすというアイデアがおもしろいし、高齢化や担い手不足など農業が直面する課題に取り組むという点で社会的な意義もあります。不動産業は、土地の買収や建物の建設などを経て営業が始まるまで数十年かかることもあってぶどうづくりと似ているので、畑違いの分野でも受け入れやすかったんだと思います」

日本の農業を守る

この企業では来年以降、ぶどうの収穫が始まる予定ですが、将来的には畑の面積を現在の10倍、サッカーコート210面分にあたる150ヘクタールまで拡大することを目指しています。

そしてニュージーランドの畑では、閑散期で仕事がない日本のぶどう農家や就農希望者を積極的に雇用したいと考えています。
鏑木裕介さん
「世界に日本のぶどうのすばらしさを広めていくとともに、日本の農家や農業にも貢献していきたいです」

日本の農業には高い可能性がある

北半球と南半球で季節が違うという誰もが知っている現象を生かして新たな栽培の形を実現した樋口さん。

日本の農業は担い手不足や高齢化に苦しんでいますが、実は高い可能性を秘めていると言います。
樋口哲也 代表取締役
「メイド・イン・ジャパン、ジャパン・クオリティーを世界に発信することが大事だと考えています。私はたまたまニュージーランドを選びましたが、前向きな気持ちで農業を行う生産者が増えてほしいと思っています。農業は若い人が夢を持てる事業なんだと、新しい農業の形を考える若手が出てきてくれたらうれしいです」
北半球と南半球を行き来することで、日本の技術も雇用も守ろうという樋口さんの新たなぶどう栽培。

山梨から新たな取り組みが始まっています。
甲府放送局記者
清水 魁星
2020年入局。山梨県で県政・市政を担当。山梨で驚いたのは「桃やぶどうは買わない、もらうもの」という話。

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