子どものセルフレジって、ありなし?

子どものセルフレジって、ありなし?
買い物客が商品のバーコードを自分で読み取らせて会計を行うセルフレジ。
最近、スーパーやコンビニでよく見かけるようになりましたよね。
今、このセルフレジを巡ってある議論が起きていることを知っていますか?
(ネットワーク報道部 大窪奈緒子 野田麻里子 金澤志江)

投稿したのは子育て中の父親

今月12日、子どものセルフレジを巡ってこんなツイートが話題になりました。
投稿したのは自身も子育て中の40代の父親。
ある日、この男性が近所にあるスーパーのセルフレジで会計をしようとしたところ、6台中3台を子どもを連れた家族が使っていました。
子どもが家族に手伝ってもらいながらレジの打ち込みをしていて、その3台だけに長い列ができていたということです。
投稿した男性
「後ろで待っている人の中には、妊娠している方や足腰の弱いお年寄り、ワンオペでお子さんを連れている方や急いで買い物に来ている方がいるかもしれません。実際、私もおなかをすかせて家で待っている子どもに早く食材を届けたいと焦る思いがありました。
自分の子どもには『やってみたい』という気持ちを認めたうえで、周囲への気遣いも教えたいなという気持ちでこの投稿をしました」
このツイートは、5000回以上リツイートされました。
(SNSより)
「セルフレジのある店で働いてますが、小さい子がピッピッとやってますね。長蛇の列なんですけどね。あれは、本当に勘弁です」
「周りの事を考えて(レジ打ちは)親がやるもの。セルフレジはおもちゃじゃない」
「待機列が長くなるのは店舗側の責任なので子連れにどうこうはちょっと違う気がする…」
「レジが進まないイライラも分かるけど、『やりたい』を下手なことばで潰したくない親の心も分かる」
「これ、やらせないと子どもがかんしゃく起こしてかえって時間がかかるケースがままあるってことも知っていただきたい」

レジは子ども向け体験型施設でも人気

子どものレジ好きはリアルにかぎりません。
大阪にある「こどものための博物館 キッズプラザ大阪」でもレジを体験できるコーナーが人気です。
平日でも順番待ちの列ができるほどです。
担当者
「本物のレジで体験できるのがうれしいようです。大人と同じようにレジ打ちをやってみたいという憧れがあるのかもしれません」

セルフレジはなぜ気になる存在?

セルフレジの操作と子どもには親和性がある。
そう指摘するのは保育学が専門の玉川大学の大豆生田啓友教授です。
子どもは何か働きかけて音が出るなどの変化が起きることに興味を持つため、セルフレジを自分でやってみたいと思うのはある意味自然のことだそう。
それではレジが混んでいる時に子どもがやりたがった場合、どうすればいいのでしょうか?大豆生田教授は「どちらの対応が正しいということは簡単に言えない」と前置きしたうえで、親や周囲の対応のあり方についてこう話します。
大豆生田教授
「長蛇の列を見せて『今はできないね』と説明することも必要かもしれませんが、かんしゃくを起こすお子さんやそういう時期は親はとっても大変です。周りから責められているという感じが子育て中の人たちの苦しさでもあるんだと思います。
そう考えると、列の後ろの人たちに『ごめんなさい』と言いながら、そうさせざるをえないこともあるだろうし、周りの人たちの寛容なかかわりも大事になってきます」
親が代替案を示すことも1つの手段だとしています。
子どもの欲求を満たすことは発達の過程で欠かせません。
そうした中で少しでも自分がやりたいことをできれば、満足することがあるため「例えば商品の何個かやったら終わり」などの提案は効果があると言います。
つまり「それはできないけど、こうしてみたらどうか」と気持ちを切り替えさせることも大切だと強調します。自分の意思を通すことがすべてではないと理解させることで、気持ちをコントロールする力も身につくというのです。

子どもの興味だけではない理由で

今回、取材を進める中で切実な思いをSNSで訴える母親に出会いました。
女性の投稿
「息子は自閉症があり、やりたいと言ったらこだわりで絶対やらないと気が済みません。セルフレジもやりたがり、それを阻止するとかんしゃく、パニックになり手がつけられなくなってしまいます。後ろの人に大変申し訳ないと思いながら息子にやらせざるをえないという状況です。すみません」
関東地方に住む38歳の女性が育てている5歳の息子。
軽い知的障害を伴う自閉症でこだわりが非常に強いと言います。
スーパーの買い物ではレジでお金を出し、おつりを受け取って財布に入れるまで自分でやらないと気が済みません。
ほかの買い物客に迷惑をかけたくないと、買い物をする時間帯を平日の日中にしたり、援助や配慮を必要とする人がいることを知らせる「ヘルプマーク」をつけたりして工夫しています。
女性
「息子の成長過程の中では、家族と一緒にスーパーに行って買い物のしかたを経験することも大切だと思っています。後ろに列ができたらなるべくスムーズに支払いができるよう、親もサポートしながら子どもの発達を支えていきたいし、そうせざるをえない状況の子どもがいることも知ってもらい、見守ってもらえるとうれしいです」

コロナ禍でセルフレジ導入が進む

2021年のスーパーマーケット年次統計調査によりますと、回答があったおよそ260社のうち、セルフレジを設置している店舗があると回答した企業は23.5%と、2年前から2倍以上増えています。
全国スーパーマーケット協会はセルフレジを設置する目的について、買い物客が待ち時間の短縮や自分のペースで会計ができるメリットをあげました。
加えてここ数年で広がった背景について「コロナ禍で接触の機会を極力減らす目的があったと考えられる」としています。

周囲の目を気にせず会計できる取り組みも

セルフレジが広がりをみせる今、あえて店員が対応し時間をかけることを売りにしたレジを設置するスーパーもあります。
福井県内で10店舗を展開する福井県民生活協同組合は、去年3月から「ゆっくりレジ」と名付けた買い物客が自分のペースで会計をできる有人レジを設けました。
特別なレジであることをのぼりや足元に敷いたマットでわかるようにしたほか、希望すれば、店員が袋詰めまで行います。
導入したきっかけは、高齢の買い物客が後ろに並ぶ人を気にして、時間がかかる小銭を利用せずにお札での支払いを繰り返し、財布が小銭でいっぱいになっていることがわかったからでした。
こうしてたまった大量の小銭をセミセルフレジの会計で利用客が機械に投入して故障するトラブルもありました。
福井県民生活協同組合によりますと、最初は2店舗でスタートし、現在はすべての店舗に1台ずつ設置するようになったということです。

担当者は「『せかせかした時代にゆっくりできていい』など、利用者からは評判です。人手不足や生産性の向上をしなくてはいけないというのも分かりますが、こうした取り組みで地域の人にやさしい店を目指しています」と話していました。

セルフレジ議論にもコロナ禍の影響

今回のセルフレジ議論。
長引くコロナ禍によるストレスも影響しているのではないかと専門家は指摘します。
陸上自衛隊の教官として隊員の心のケアに携わっていたメンタルレスキュー協会の下園壮太理事長は、企業に出向いて社員などのメンタルケアの相談に乗る中で『不寛容な雰囲気』が広がっていると言います。
下園さん
「コロナ禍では自粛などにより行動を制限したり我慢したりする機会が多くありました。その結果、心が疲れて弱ってしまった人からの相談が多く寄せられています。特に自粛が続いていたことなどもあり『むだなことをしたくない』『自分の時間を大切にしたい』『待つことが苦手になった』ということを言う人が多いです」
下園さんはストレスが多い状況の中で、子どものセルフレジを待つのがつらいと感じる人の気持ちが十分に理解できるとし、こんなアドバイスをくれました。
下園さん
「今回のようにネット上でいろいろな立場の人が意見を出して議論が巻き起こることは悪いことではありません。攻撃しあうバッシングではなく、あくまで議論としてそれぞれの立場や気持ちを思いやりながら意見を交わすことが大切です。今回の議論をきっかけに、互いにどうやったらストレスを減らして生活していけるのか頭でシミュレーションしながら備えていくのがいいのではないでしょうか」

お母さん、お父さんへのメッセージも

さきほどの大豆生田教授は日本が子育て中のお母さん、お父さん、子どもにとって生きにくい社会になっていると考えます。
大豆生田教授
「小さなお子さんを育てている人たちは、いつも外からのまなざしにピリピリしているようなところがあります。子どもはそうそうコントロールできるものではありません。子どもの側からしても、いろんなところに出て行って好きなことに手を出せるような環境がどんどん制限されていて、コロナ禍でそれに拍車がかかりました。

発達するうえでさまざまなことをやってみることが大事ですが、その機会が奪われている現状があります。子どもや子どもを育てる人への寛容さがとても重要になってくるのではないかと今回の件から考えました」
子どもと一緒にセルフレジを使う親、それを後ろで待つ買い物客。
立場が違うと、抱く思いは違ってきます。
専門家はコロナ禍による社会の変化が影響を与えていると言いますが、そうした中でも他者への思いやりの気持ちを少しでも持つことができれば、セルフレジがある空間はぎすぎすしたものにならないのではないかと思いました。