バイデン大統領 ASEAN首脳会議開催へ 対中姿勢強調したい考え

アメリカのバイデン大統領は、ホワイトハウスにASEAN=東南アジア諸国連合の首脳らを招いて、12日から首脳会議を開きます。
ウクライナ情勢への対応を迫られる中でも、台湾への圧力を強める中国を念頭に、インド太平洋地域への関与を深める姿勢に変わりはないことを強調したい考えです。

アメリカのバイデン大統領は、ホワイトハウスにASEAN各国の首脳らを招いて12日から2日間の日程で首脳会議を行います。

中国や台湾に関する問題、それにウクライナ情勢などが議題になる見通しで、会議を前に、ホワイトハウスのNSC=国家安全保障会議のキャンベル・インド太平洋調整官は「ウクライナで起きたことがアジアで起きてはならないと強調することは極めて重要だ」と述べ、台湾への圧力を強める中国を念頭に、力による現状変更は許さない姿勢をASEANとともに打ち出したいとしています。

また、アメリカが中国への対抗を念頭に立ち上げを目指す、新たな経済連携「IPEF=インド太平洋経済枠組み」についても議論されるとみられます。

一方、軍によるクーデターで混乱が続くミャンマーは、会議の参加国には含まれていないということです。

バイデン大統領としては今回の会議や今月20日からの日本と韓国への訪問を通じて、アメリカがウクライナ情勢への対応を迫られる中でも、インド太平洋地域への関与を深める姿勢に変わりはないことを強調したい考えです。

中国 南シナ海での軍事的拠点づくり進める

南シナ海のほぼ全域の管轄権を持つと主張する中国は岩礁や環礁を埋め立ててつくった数多くの人工島に軍用機の離発着が可能な滑走路やレーダー施設を整備し、軍事的優位を確保するための拠点づくりを着々と進めています。

中国は作戦遂行や警戒監視の能力向上に向けてさらなる軍事拠点の整備を進めようとしているとみられ、周辺国との摩擦が繰り返し起きています。

このうちベトナムはおととし、中国の海警局の船と衝突した漁船が沈没したとして抗議し、去年2月に施行された海警局に武器の使用を認める法律に対しては外務省の報道官が懸念を示すなど中国に対する警戒を強めています。

また、フィリピンは去年3月、排他的経済水域で200隻を超える中国漁船が停泊を続ける事態が発生し、中国軍の関与が疑われる「海上民兵」が関わっている可能性があるとして、中国に抗議しました。

また、中国の海警局に武器の使用を認める法律が施行されたあと、フィリピンの軍が雇った民間の輸送船が海警局の船に進路を妨害され放水を受けたり、パトロール中の巡視船が接近を受けたりするケースが相次ぎ、強い懸念を示しています。

インドネシアは南シナ海南部の排他的経済水域に中国が管轄権を主張する海域と重なっている部分があります。

この海域では近年、中国漁船が中国の海警局の船とともに入り、操業する動きが相次いで確認されていて、去年9月には中国の軍艦6隻が航行したことも確認されています。

インドネシア政府はおととし、中国が国際法に反した主張を行っていると訴える書簡を国連に送る対抗措置をとっています。

また、マレーシアは去年10月、排他的経済水域に中国の調査船が侵入したとして中国側に抗議したことを明らかにしています。

また、去年5月には中国の軍用機16機がボルネオ島沖の南シナ海の領空に侵入したとして、マレーシア空軍の戦闘機が緊急発進しています。

ASEAN バイデン政権の取り組みを慎重に見極め

ASEANはバイデン政権が安全保障や経済などさまざまな分野で関係を強化する取り組みをどれだけ本格的に進める構えか、慎重に見極めようとしています。

ASEANは、南シナ海への進出を強め東南アジアでの政治的、経済的な影響力が拡大している中国をけん制するためアメリカの関与が強まることに期待しています。

しかしトランプ前大統領はASEANの主催で毎年開かれている東アジアサミットを任期中すべて欠席したことなどからASEAN側には、アメリカの前政権下では地域が軽視されたという受け止めがあります。

その一方で、トランプ政権は南シナ海に空母を展開させるなど大規模な演習を繰り返し、中国に圧力をかける軍事的な活動を活発化させたことから、南シナ海で米中両国の訓練の時期が重なる事態も発生し、偶発的な衝突も懸念されるほど緊張が高まりました。

ASEANは東南アジア地域が大国の軍事的な対立の最前線になることをおそれています。

こうした経緯からASEANは力ではなくルールによって南シナ海の秩序を守りたい考えで、このルールづくりでASEANが主導できるよう関係国の支援を求めています。

またASEANは貿易や投資、技術開発など、さまざまな分野でアメリカとの結び付きを強めることで、相対的に中国の影響力を減らしバランスをはかりたい考えで、バイデン政権がどれだけ本格的な取り組みを進める構えなのか、慎重に見極めていくとみられます。

ロシアによる軍事侵攻には慎重な対応 各国に温度差も

ASEAN=東南アジア諸国連合はロシアによるウクライナへの軍事侵攻に関して外相による共同声明を3回にわたって発表し自制や即時停戦を訴え、対話を要請していますが、ロシアを非難する言葉は含まれず国名すら触れない内容にとどまっています。

加盟国は立場を明らかにすることで大国間の争いに巻き込まれるリスクなどを考慮して、慎重に対応しようとしているとみられます。

ただ各国別にみますと温度差があります。

ラオスとベトナムは国連で、ロシア軍の即時撤退を求める決議案などの採決で棄権したほか、ロシアの人権理事会の理事国としての資格を停止するよう求める決議案では反対しました。

社会主義体制のラオスやベトナムは旧ソビエト時代からロシアとは伝統的に深い関係を築いています。

また、世界の軍事情勢を分析している「ストックホルム国際平和研究所」の報告書によりますと、ベトナムが去年までの5年間に輸入した武器の半分以上がロシアからとなっています。

一方、シンガポールはASEANで唯一、ロシアに対する制裁に踏み切っています。

シンガポールは「ロシアのウクライナ侵攻は国際法違反であり、主権国家の領土への侵害は受け入れられない。シンガポールのような小さな国にとっては危険な前例となる」と強く非難したうえで、ロシア系銀行4行との取り引きを停止し軍事転用可能な製品の輸出を禁止しました。

米主導の経済連携IPEF メリット見えにくく立場分かれるか

ASEAN各国にとってアメリカが主導して立ち上げを目指す新たな経済連携、IPEF=インド太平洋経済枠組みは、関税引き下げなどの具体的なメリットが見えにくく、参加をめぐって各国で立場が分かれることも予想されます。

IPEFは、アメリカが主導して立ち上げを目指す新たな経済連携で、今回の首脳会談では、アメリカがASEAN各国に参加を促すとみられます。

しかし、この枠組みは参加国で貿易上の共通ルールの設定を目指すもので、関税の引き下げは対象になっていません。

ASEANはこれまでFTA=自由貿易協定を他国と結ぶことで貿易上の実益を得てきたため、共通ルールの設定にとどまる今回の枠組みは具体的なメリットが見えにくくなっています。

さらにIPEFは対中国を念頭に置いていますが、ASEANにとってはその中国が最大の貿易相手国で、JETRO=日本貿易振興機構によりますと、おととしは貿易総額全体の19%が中国との取り引きになっています。

ラオスをはじめとして貿易総額の30%前後を中国との取り引きが占める国もあり、経済面での中国の重要性はぬきんでています。

ASEANに対しては、アメリカと中国、それぞれが影響力を強めようと働きかけを続けていて、IPEFへの参加を巡ってはASEAN各国の間で立場が分かれることも予想されます。

専門家 米 ASEANの枠組みで東南アジア各国との関係強化がねらい

アメリカ国防総省でアジアの安全保障問題などを担当した経歴がある、アメリカ平和研究所のブライアン・ハーディング上級研究員は、NHKのインタビューに対して「ASEANのどの国も自分たちの未来を中国に一方的に決められたくないと思っているし、それはアメリカに対しても同様だ」と述べ、東南アジア諸国は、バランスのとれた外交を目指していると指摘しました。

ただ「仮に2国間関係がこじれている状況でもASEANという機関を通せば対話をすることができる」と述べ、アメリカは、中国の影響力拡大を念頭に、ASEANという枠組みを通じて東南アジア各国との関係をいっそう強化したいねらいがあると指摘しました。