“不適切な配達”調査は始まったけれど…

“不適切な配達”調査は始まったけれど…
カギのかかった郵便受けを、配達員が勝手に開ける。差し出し口からは入らない大きさの荷物を届けるために。

視聴者から寄せられた情報をもとに、私たちはこの問題について繰り返しお伝えしてきました。
一連の報道を受けて、日本郵便は初めて実態の調査に乗り出しました。
しかし、判明した“不適切な配達”は「氷山の一角にすぎない」という声も上がっています。

そして、私たちのもとには、「郵便配達の実情を分かってほしい」、「再配達を減らすために受け取る側も工夫を」といった意見も、繰り返し寄せられています。

さまざまな意見が飛び交うこの問題、改めて考えてみたいと思います。

(社会部記者 橋本尚樹)

“不適切な配達は11件”でも…

4月26日、私たちは、取材で新たに分かった事実を、ニュースで伝えました。

日本郵便が、3月1か月間に本社のコールセンターに寄せられた相談をもとに調べたところ、不適切な配達が11件行われていたことが分かった、という内容です。

取材を始めた当初、私たちの取材に「カギのかかった郵便受けを配達員が勝手に開けるというようなケースは把握していない」と答えていた、日本郵便。

一連の報道を受け、「実態を把握する必要がある」として、初めて全国的な調査を行ったのです。

でも、調査の対象はあくまで、本社のコールセンターに情報が寄せられたもの。
各地の郵便局に直接相談が寄せられ、そこでトラブルが解決するなどすれば、コールセンターには情報は集まらず、把握されることはありません。
実際、私たちのもとには、「同じような経験をして管轄の郵便局に相談した」という情報が、いまも寄せられています。

日本郵便が調査の対象とした3月に経験したという人も複数いて、私たちの取材に対し、日本郵便自身が「不適切な配達だった」と認めているものもあります。

でも、本社のコールセンターに連絡はしていないので、今回の調査結果には含まれていません。

日本郵便は、「まずは本社に情報があるものから調べたい」として、「現時点では、各地の郵便局への相談にまで手を広げて調査をする予定はない」としています。

調査は始まりましたが、まだ、全容が分かる段階には至っていないのです。

チェックシートで再発防止

ただ、日本郵便も、この事態を手をこまねいて見ているわけではありません。

私たちが配達員に話を聴くと、各地の郵便局では、日々の朝礼などで「勝手に鍵を開けて配達してはいけません」と注意喚起が行われているそうです。

それでも不適切な配達があとを絶たないことを重く見て、日本郵便は、先月末、新しい対策に乗り出しました。
それが、こちら。
配達員が、正しい配達方法を理解しているかをみずから確認するためのチェックシートです。

チェック項目の前に、シートには配達員へのこんなメッセージが記されています。

「“スムーズにお届けしたい”との思いでも、鍵を開けることは、お客さまのプライバシーの領域に立ち入ることと同じです」

そして、チェック項目は、この4点です。
□郵便物等を「曲げる・折る」などの無理な投函はしません。
□郵便受箱に鍵が付いている場合は、施錠の有無にかかわらず、扉を開けての配達はしません。
□郵便受け箱の差し入れ口に入らない郵便物等の場合、取り出し口を無断で開けません。
□郵便受け箱に投函できない場合は、対面配達を試み、受取人が不在の場合は「不在配達通知書」を投函します。
日本郵便は、全国に約13万人いるすべての配達員にチェックシートの記入を求め、名前も書いて提出してもらうことにしています。
日本郵便 広報担当者
「口頭で注意するだけでなく、やってはいけない配達方法を具体的に示したうえで、正しい投函方法を理解しているかを確認することが大切だと考えました。きちんとした認識を持ってもらえるよう、しっかりと指導したい」

“ダメ”というだけではなくならない

配達員への指導を強化する日本郵便。
ただ、現場の配達員の受け止めは、冷ややかです。
30年以上、配達に携わっているという、50代の郵便局員の男性です。

一連の報道を見聞きし、「実情を知ってほしい」とNHKの情報提供窓口「ニュースポスト」に連絡をくれました。そして、匿名を条件に、取材に応じてくれました。

男性は、今回明らかになった「不適切な配達は11件」という調査結果については、こう受け止めています。
郵便配達員の男性
「私が勤務する郵便局の近隣のエリアでは、報道があって以降も、不適切な配達が10件ほどあったと聞いています。各地の郵便局に寄せられる苦情は、それぞれの郵便局で対応し、謝罪するなどして理解を得られれば、本社には報告しないことが多いです。報告すると、局長や幹部のマイナス評価につながりますから。だから、本社が把握していない不適切な配達は多いと思います」
そして、今回、新たに導入されたチェックシートについて、「書かれていることをすべて守っていたら、時間内に配達は終わらないもし苦情が来た時に、『チェックシートに記入したでしょう?』と、配達員の責任にするためのものではないかと思わざるをえません」と話しました。
郵便配達員の男性
「勝手にカギを開けて郵便物を届けるという行為は、絶対に許されません。でも、『届けてくれて助かる』という利用者がいるのも現実なんです。現場は、人手の面でも、時間的にも余裕がありません。カギを開けて届けた配達員も、決して悪意をもってやっているわけではなく、再配達を頼む手間など、受け取る側の負担も考えているのだと思う。ただ『やってはダメだ』というだけではなく、現場の声、利用者の声をよく聴いてもらえれば、よりよい方法が見つかるのではないかと思うんです」

現場が考える“解決策”とは

不適切な配達をなくすための第1歩は、再配達を減らすことです。
今回の取材で、この配達員の男性は、解決のための2つのアイデアを話してくれました。

案1「荷物を受け取るためのロッカーを地方の郵便局などで増やす」
利用者の多い駅などを中心に設置が進んでいる荷物用のロッカー。
日本郵便は全国で約750か所に設置しています。
24時間荷物を受け取ることができるものも少なくありません。

ただ、この配達員によると、駅に設置したロッカーについては、思ったほど利用が伸びていないと郵便局内では受け止められているそうです。

「電車で帰るときに大きな荷物をわざわざ持ちたくないという心理が働いているのではないか」と分析されているとのこと。

一方、車でなら、多少かさばる荷物でも、それほどの負担にはなりません。

利用する人が多いからといって、ターミナル駅や大規模な郵便局などに集約するのではなく、むしろ、駐車場のある地方の郵便局などに、こうしたロッカーを分散して設置すれば、再配達を減らせるのではないかというアイデアです。

案2「『置き配』を利用するためのかばんなどを低価格で販売し、普及を図る」

私たちに寄せられる意見の中には、「受け取れない時間に郵便受けに入らない荷物を頼むほうが悪い」、「頼むなら、もっと大きな郵便受けを用意すべきだ」というものも少なくありません。

でも、わざわざ郵便受けを交換するのは金銭的にも負担が大きく、マンションなどでは勝手に交換することもできません。

そのため、「置き配」のためのかばんなどが安い値段で利用できるようになれば、問題の解決につながるかもしれない、という意見です。

しかし、「置き配」には課題もあります。

マンションなどの集合住宅の場合、基本的に玄関の外は共用部分のため、荷物を入れるためのケースなどを簡単に置くことはできません。災害や火事の時の避難経路をふさいでしまうことにもなります。
そうした課題を解決するために、ドアノブに吊り下げるタイプのバッグもあります。

これなら、荷物が入っていない時は共有部分を専有することはありません。しかし、オートロックの場合、「置き配」のために配達員が建物に入ることに、ほかの入居者の理解を得る必要があります。

日本郵便は、入り口に設置した端末で配達員の顔を認証し、勤務時間以外には建物に入れないようにすることでセキュリティーを確保する実証実験を行うなど、課題をクリアするための模索を始めています。

私たちは、取材を続けます

「鍵を開けることは、お客さまのプライバシーの領域に立ち入ることと同じです」

日本郵便自身がチェックシートに書いたことは、多くの利用者の思いと共通しているのではないでしょうか。

だからこそ、「私も不快な思いをした」という情報が私たちに寄せられ続けられるのだと思います。

一方で、それと同じように、「再配達を減らすためにはやむをえない」、「配達現場の苦労や大変さも考えるべきだ」という意見も、引き続き寄せられています。

ただ糾弾するだけでは事態が改善しないのは、もはや明らかだと私たちも感じています。

配達員が言うように、利用者や現場、異なる立場の多くの人から意見を聴いて、考えるべきでないか。そう、思いました。

この問題、私たちは取材を続けます。
NHKの情報提供窓口「ニュースポスト」まで情報をお寄せください。

そして、この問題のように、「これっておかしくない?」「私だけが困っているの?」という話があれば、教えてください。

私たちは、一緒になって調べ、考えたいと思っています。

よろしくお願いします。