【詳しく】薬がない…ジェネリックから先発品まで なぜ(更新)

薬局で飲み慣れた薬を受け取ろうとしたら「その薬が今、不足していまして…」

実はもう1年以上もの間、全国各地でかつてない規模の医薬品の供給不足が続いています。

どの薬が?なぜ?患者への影響は?いつまで続く?
わかっていることと注意点をまとめました。
(1月公開の記事に最新情報を加筆・更新)

どの薬が足りない? 

厚生労働省に取材すると、出荷が止まったり制限されたりして薬局や医療機関への入荷が滞っている薬は去年12月の時点で3000品目以上に上っていました。これは医療用の医薬品全体の約2割にのぼります。

今回あらためて取材したところ、その後少しずつ出荷制限が解除される品目も出てきていますが、ことし5月1日時点でも供給が不安定な状況は続いているということです。

手に入りにくい状況が続いている薬が使われている病気のうち、主なものは以下のとおりです。
(※2022年5月1日時点で主な製薬会社のHPで確認)

▼アレルギー(ぜんそく、じんましん、アトピー、花粉症、鼻炎…)
▼高血圧、狭心症、不整脈、高脂血症
▼てんかん、片頭痛
▼うつ病、統合失調症、双極性障害
▼気管支炎、肺炎
▼リウマチ
▼胃炎、胃潰瘍
▼骨粗しょう症
▼心不全、狭心症
▼脳卒中
▼ウイルス感染症…

このほかにも
▼風邪薬
▼解熱鎮痛剤
▼抗菌薬なども含まれています。

薬がない時 どうするの?

「いつも飲んでいる薬」が足りない時、薬局では処方した医師とやり取りしたうえで、別のメーカーが製造する「同じ有効成分の薬」を代わりに渡しています。

5月、東京・中野区の薬局に取材した際には「薬の手に入りづらさは改善していない。患者のうち『4、5人に1人』の割合で別の薬に切り替えざるをえなくなっている」ということで、ほかの薬局でも同じように話す薬剤師の方がいました。

しかし、患者の誰もが「代わりの薬があれば大丈夫」というわけではないことが取材でわかってきました。

患者にどんな影響があるの?

じんましんやぜんそくなどのアレルギーに悩まされてきた和歌山市の30代の女性もその1人です。

女性は去年11月、いつものジェネリックの薬が手に入らなくなって同じ有効成分の別の先発薬に切り替えることになりました。

しかし、元の薬のような効果は感じられず、再びじんましんによる体のかゆみやぜんそくの症状に悩まされる生活に逆戻りしてしまったということです。

下の写真は、かきむしって赤くなった女性のすねを写したものです。
症状が戻った理由は、新しい薬が体質的に合わなかったためです。

ジェネリック医薬品と先発品の薬は有効成分は同じでも、製造するメーカーごとに添加物が異なるなどの違いもあり、女性はこれまでも体質的に「合う薬」と「合わない薬」があって薬選びに悩まされてきていました。

さらに、薬による発作の慎重なコントロールが欠かせない「てんかん」の治療にも影響が出ています。
日本てんかん学会が主な治療薬「カルバマゼピン」と「バルプロ酸ナトリウム」について処方の状況をWEBアンケートで調べたところ、次のような結果になりました。
【学会のアンケート結果 】
(※3/3までに回答)
回答者:576人(主に医師)
55%が「供給不安定問題について意識して行っていることがある」

このうち複数回答で、
▼「新たに処方する患者には別の薬を選んでいる」・・・54%
▼「1度に処方する日数を短くしている」     ・・・36%
▼「処方の中止やほかの薬への切り替え」    ・・・26%

また自由記述では、次のような事例も報告されました。

「発作をコントロールできなくなった」
「薬を切り替えたら副作用が出た」
「薬の効きが悪くなったと患者に指摘された」
(画像:都内のクリニック てんかん患者の診察)

私たち取材班には、リウマチや精神病などの持病がある方からも「薬の効きが変わって困っている」という訴えが届いています。

また、価格が安いジェネリックから先発品への切り替えで経済的な負担が増え、生活が苦しくなったという声も少なくありません。

そもそもなぜ起きた?

きっかけは、2020年12月に発覚した福井県のジェネリック=後発医薬品メーカー「小林化工」の不祥事です。
水虫などの真菌症の治療薬に睡眠導入剤の成分が混入し、全国各地の240人以上に健康被害が出たほか、国が承認していない工程での製造などの不正を長年にわたり組織的に隠蔽し続けていたことなど悪質な実態が明らかになりました。
こうした医薬品への信頼を根底から覆す事態を受け、全国の都道府県が事前の通告なしで立ち入り調査を行うなど査察が強化され、メーカーによる自主点検も行われました。

その結果、ジェネリック大手3社の1つ「日医工」(富山)をはじめ、複数のメーカーで製造工程の問題が見つかり、去年、合わせて8社に相次いで業務停止命令が出されて幅広い種類の医薬品の出荷が次々に止まりました。

さらに、ことしに入ってからも3月に大阪のジェネリックメーカーが業務停止命令を受けています。

発端となった「小林加工」は業務停止命令の期間の後も再開には至らず、工場などを別のジェネリック大手に譲渡することになったほか、「日医工」は本格的な再開には至っていません。
医薬品問題に詳しい神奈川県立保健福祉大学大学院の坂巻弘之教授は「かつてない規模の供給不足だ」としています。

そのうえで1年あまりたってもなお供給不足が続いていることについて、次のように話しています。
「ある会社の出荷が止まると、同じ成分の薬を作っている別の会社に注文が集中します。注文を受けた会社でも自社の供給量を上回って出荷を制限せざるを得なくなり、さらに別の会社へと玉突き状態のように出荷調整が広がっていきます。こうしたことで大きくなった供給不足の状況は去年の夏ごろをピークに、その後も回復しないまま今に至っているとみています」

薬が変わった…どうすれば?

薬局でもしも、いつもと違う薬を渡されたらどうすればいいのか。西東京市の薬局で取材した薬剤師のアドバイスをもとに、まとめた注意点を2つご紹介します。

【注意点その1】薬剤師の説明をよく聞く

当たり前のことと思うかもしれませんが、病院で処方を受けた薬を薬局でもらう時の説明をしっかりと聞くことがまずは大切です。

なぜなら元の薬と薬の成分は同じでも、メーカーが違えば「色」や「形」、「飲む回数」や「タイミング」が変わることがあるからです。
飲み忘れて症状がぶり返したり、逆に「いつもの薬」が手元に残っている場合には重複して飲んでしまって副作用が出たりするおそれもあるということです。

心配な時には、次の日に飲む分を前の日のうちに袋に小分けにしておくのがおすすめだそうです。

ただし湿気に弱い薬もあるため、シートなどから出すのは「1日分だけ」にしておいてほしいということです。

【注意点その2】不調を感じたらすぐ相談

同じ成分であれば別のメーカーの薬になっても、基本的には同じ効果が期待できます。

しかしメーカーによって添加物などが違っていて、体質的に合わない人もまれにいます。いつもの薬よりも効果がないように感じたり、体の不調を感じたりしたときは遠慮せず、すぐにかかりつけの薬局に相談してください。

「元の薬」いつ戻る?

この医薬品不足、いったいいつまで続くのでしょうか。残念なことに来月や再来月にも解消、といった状況ではなさそうで、当面は今の状況が続く見込みです。

薬の生産に目を向けると、まずは出荷が止まって供給が減った分の増産が必要ですが、安全性が厳しく問われる医薬品の場合、生産設備の増強に1年はかかるということです。

一部のメーカーでは工場の稼働時間を延ばす対応を取っていますが、1割から2割程度の上乗せが精いっぱいで、不足分を補うにはほど遠いのが現状です。
こうした中で大規模な増産が可能になるタイミングの1つの目安となっているのが、ジェネリック大手の「沢井製薬」と「東和薬品」の2社が、去年秋に相次いで発表した大規模な増産計画です。

2年後の2024年中にあわせて数十億錠規模の生産能力を増強するというもので、これによって現在の薬不足は段階的に解消に向かうと期待されています。

国は何をしているの?

一方で、厚生労働省はメーカー側に増産を要請するとともに、供給が不安定な薬をより必要とする患者の元に届くよう、処方の優先順位をつけるなどの協力を医療現場に求める通知を出してきました。

さらに薬の流通状況を詳細に分析した結果、流通上の課題が供給不足を拡大させている可能性があるとしています。厚生労働省が注目したのは、出荷の停止・制限が行われている品目の中に、通常の出荷量を維持している品目が半数以上(66%)に上ったというデータです。
【調査】出荷停止・制限中の1925品目
※1/25~2/8の出荷量を各社が回答

▼「100%以上の通常出荷」66%(1272品目)
▼「80~100%未満で出荷減少」11%(208品目)
▼「80%未満で出荷に支障」4.8%(93品目)
▼出荷停止18%(352品目)
※「 」内の%は出荷量/数字は概ね

過半数の薬が「通常出荷」されているのに、なぜ多くの薬が手に入りにくい状況なのか。

厚生労働省は、供給不足の直接のきっかけはメーカーの不祥事としつつ、その後、医療機関や薬局が必要以上の在庫を確保しようとして発注が膨れあがった結果、実際には十分な数がある薬まで手に入りにくくなってしまっていると分析しています。
ただ、これについては日本薬剤師会も必要以上の発注を控えるよう、薬局や医療機関に繰り返し呼びかけています。
日本薬剤師会の有澤賢二常務理事は「多くの店舗を展開している薬局チェーンや大きな医療機関のような購買力が強いところに在庫が集まりやすく、小さなクリニックや個人の薬局が苦しい状況があるのではないか。薬局ではメーカーの出荷量までは分からないので、供給に不安がある以上、発注を抑えるのも簡単ではない」と話しています。
神奈川県立保健福祉大学大学院の坂巻弘之教授は「アメリカでは政府機関がどの薬がいつ頃まで不足しそうなのかをメーカーから情報を集めて提供していて、混乱を治めるにはこうした仕組みを国が急いで整える必要がある」と指摘しています。

5月16日(月)「クローズアップ現代」で詳しく放送予定です

「いつもの薬がない!?ジェネリック急拡大の影でなにが」
(NHK総合)5月16日(月)午後7:30~
(NHKBS1)5月17日(火)午後5:30~

取材班への情報提供のお願い

この問題について、以下の「NHK医薬品不足取材班」の投稿フォームから情報をお寄せください。