【詳しく】“ロシア人は強くて正しい”って?プーチン哲学とは

ロシアのプーチン大統領は正常な判断力を失ってしまったのか。
それとも、考え抜いた末の合理的な判断なのか。

ウクライナ侵攻に至る「なぜ」を、プーチン氏が20年以上にわたってロシアのトップとして紡いできた5つの言葉から読み解きます。

1.“ウクライナが国家でさえないことを分かっていないのか?”

<2008年4月/アメリカ・ブッシュ大統領に対する発言>
この言葉は、プーチン氏がアメリカのブッシュ大統領(当時)に伝えたとされています。この発言に続いてプーチン氏は「(ウクライナの領土の重要な部分は)私たちからの贈り物なのだ」と力説したといいます。

ウクライナとグルジア(当時)のNATO=北大西洋条約機構の加盟に強く反対していたのは、当時から変わっていません。

ロシアの有力紙が関係者の話として報じた記事は、「グルジアのことは冷静に話していたが、ウクライナのことになると正気でなくなった」というプーチン氏の姿を描写しています。そして「ウクライナがNATOに加盟したらもはやその国は存在しなくなるだろう」と示唆したといいます。

今のロシアの行動と一致します。

2.“後退できないラインまで追いやられている”

<2014年4月/国民との対話イベントでの発言>
このイベントでプーチン氏は、西側との関係改善と共存を望んでいるとする一方で、ロシア側が一方的に譲歩を強いられていると主張。具体的に何を譲歩しているのか言及はしませんでしたが、“NATOの東方拡大”が含まれていると考えて間違いはないでしょう。
今でこそ多くの人が知るキーワードですが、この15年ほどの間、プーチン氏はあらゆる機会でこの件に触れ、欧米批判を続けてきました。

冷戦がソビエトの崩壊という形で終わり、“敗者”としての烙印を押されたという屈辱感。そして傷口に塩を塗るように“勝者”としてふるまうアメリカへの反発。

負の感情がプーチン氏の中で入り交じっていたことは、この発言の直前の「(ロシアは)あちこちで譲歩し、沈黙し、何も気づかないふりをしなければならなくなっている」という言葉からも読み取れます。

3.“裏切り行為は、地球上で最も重い犯罪だ”

<2019年6月/イギリスメディアのインタビューで発言>
ソビエトのKGB=国家保安委員会の情報工作員だったプーチン氏の「哲学」とも言える言葉です。この時の質問は、前の年にイギリス南部でロシアの元スパイの男性が神経剤のノビチョクを使って狙われた事件に関連したものでした。

プーチン氏は「裏切り者は厳重に処罰されなければならない」と続け、ロシアメディアでも大きく報じられました。

今もプーチン氏は、軍事侵攻に反対するロシア人を「裏切り者」と呼び、「本物のロシア人であれば、真の愛国者と裏切り者を、口の中に入ったハエを吐き出すように区別できるだろう」と表現しています。
何より、プーチン氏にとって最大の“裏切り者”は、ウクライナでしょう。

かつては同じソビエトを構成し、特別な絆で結ばれていたはずのウクライナが、欧米志向を徐々に強め、ロシアに対抗するため軍事的な支援まで受け続けている姿は“地球上で最も重い犯罪”。

“厳重に処罰されなければならない”と独善的に考えているのでしょう。

4.“ロシア人は強く正しい ロシア人が正しいと感じたら無敵”

<2014年11月/国営メディアインタビューに対し発言>
プーチン氏は、この年に強行したクリミア併合について「戦略的な判断だった」と改めて正当化した上で、この発言を続けました。さらに「ロシア人が“正しい”と感じたとき、無敵になるのだ」とも発言しています。

かつてアメリカと世界を二分したソビエトが崩壊したことで、国民はアイデンティティを喪失しました。

プーチン氏にとっては、人々を束ねるための新たな思想が必要でした。
「ロシアはヨーロッパでもアジアでもない、ユーラシアに存在する唯一無二の存在だ」「ソビエトは、ナチス・ドイツに打ち勝った戦勝国で特別な存在である」。

プーチン氏は国民に愛国心を植え付け、鼓舞し続けてきました。

確かにロシアの人たちは、強い愛国心を持ち、民族の誇りも感じています。

ただ、この発言から見えるのは、自分たちが正しいと判断さえすれば、国際社会のルールなど無視して何をしても構わないという身勝手な考えです。

5. “王座と処刑台は常に隣り合わせ”

<2018年3月/国営メディアのドキュメンタリー番組での発言>
このインタビューの中でプーチン氏は、祖国に奉仕することに憧れてKGBに勤め始めたことを明らかにし、「1人の人間や小さなグループが、何千人もの人々の運命や、戦いの行方を左右することもある」とその仕事の魅力を語りました。
そして「王座と処刑台」発言の意味について、プーチン氏は「人生はどう終わるのかが問題ではない。どう生きるかが大事なのだ」と説明しました。

大統領職を「王座」と表現する尊大さの一方で、その横に常にあるとした「処刑台」という表現は何を意図していたのでしょうか。

「王座」からいつ引きずり下ろされるかも知れないという「恐怖」や「覚悟」かもしれません。
プーチン氏が「王座」の上から出し続ける指示で、今も多くの人が命を落としています。

ここに挙げた5つのどの言葉より重い、”戦争を終わらせる発言”は、いつになったら聞くことができるのでしょうか。

(国際部デスク 松尾 寛)