経済安全保障推進法が成立 内容は?法律を構成する4本柱とは?

覚えていますでしょうか。
新型コロナウイルスの感染拡大直後にマスクが店頭から消えたことを。

覚えていますでしょうか。
去年の冬、半導体不足が原因で給湯器が品切れになったことを。

国民生活や経済活動を変わらずに継続できるように備えておく「経済安全保障」。
11日、経済安全保障推進法が成立しました。

法律には、国に新たな権限を与えることなどが規定されていて、今後、運用の在り方が焦点となります。

経済安全保障推進法は、11日の参議院本会議で採決が行われた結果、自民・公明両党や立憲民主党、日本維新の会、国民民主党などの賛成多数で可決・成立しました。

新たな法律には、半導体や医薬品など国民生活に欠かせない重要な製品「特定重要物資」が安定的に供給されるよう、企業の調達先を調査する権限を国に与えることや、サイバー攻撃を防ぐため、電力や通信といったインフラを担う大企業が、重要な機器を導入する際に、国が事前審査を行えるようにすることが規定されています。

また、軍事に関わる技術の中から国民の安全を損なうおそれのあるものは、特許の出願を非公開にできる制度なども盛り込まれ、実効性を保つため罰則も設けられています。

一方、経済界などから自由な経済活動への制約につながりかねないという懸念があったことも踏まえ、審議が行われた衆参両院の内閣委員会では「特定重要物資」を指定する場合には、関係する事業者や団体の意見を考慮するなどとした付帯決議が採択されました。

法律は近く公布され、ことし秋には政府が制度の要点などを盛り込んだ「基本方針」を策定したうえで、それぞれの制度ごとに段階的に施行されることになっていて、今後、運用の在り方が焦点となります。

小林経済安保相「早期施行に向け準備加速したい」

法律が成立したことを受け、小林経済安全保障担当大臣は記者団の取材に対し「いかなる状況にあっても、国民の命と暮らしを経済面から守り抜くための重要な一歩を踏み出せたと感じている。経済活動の自由とのバランスを図っていくためにも予見可能性をしっかりと担保し、企業の負担を軽減していくことを意識しながら、早期の施行に向けて体制面の整備も含め準備を加速していきたい」と述べました。

なぜ今 経済安全保障なのか?

政府が経済安全保障の強化を図っている背景には、日本を取り巻く国際秩序が大きく揺らいでいることがあります。

きっかけの1つはアメリカでトランプ政権が誕生したことでした。

ハイテク技術をめぐる米中の対立が激化。
ファーウェイなど中国のハイテク企業の製品を締め出す措置を取り、日本もこの覇権争いに無関係ではいられなくなりました。
そして新型コロナウイルスの感染拡大で産業に欠かせないさまざまな製品の供給が停止したことも影響しています。
マスクや医療機器、半導体などの調達が一時困難になりました。
特に半導体不足は深刻で、自動車の生産はたびたび停止し、今も新車の納車待ちが続いています。

去年はスマートフォンや冷蔵庫などの家電製品、給湯器の入手が難しくなりました。

半導体の自国生産比率が低く、2018年時点で70%以上を海外からの輸入に頼っていることが大きく影響しています。
欧米や中国などでは巨額の予算を投じて、先端半導体の工場の国内誘致を進めているほか、サイバー攻撃などによって重要な技術や情報が流出することを防ぐため、企業が海外と取り引きなどを行う際、国がリスクを審査するなどの対策がとられています。
各国が対応を強化するなか、日本も国民生活や経済活動をこれまでどおり継続できるよう対応を急ぐべきだとの意見が強まり、経済安全保障を強化する法律をつくることになったのです。

経済安全保障推進法の4本柱とは

今回の法律は、日本で初めてとなる経済安全保障に関する体系的なもので、4つの柱で構成されています。

【1本目の柱】供給網の強化

国民生活に欠かせない重要な製品「特定重要物資」を確保する仕組みです。
半導体や医薬品、レアアースやニッケルといった重要な鉱物、それに蓄電池の原材料といった製品が安定的に供給される体制になっているかどうかを国がチェックします。
国に企業の調達先などを調査する権限を与え、特定の国に調達を頼りすぎていないかなどを調べることにしています。

対象となる企業は安定的な供給に向けた生産体制などの計画を国に提出し、認定を受けます。認定を受けた企業は必要に応じて国から金融支援を受けられるようにします。

【2本目の柱】インフラの安全確保

重要インフラの安全性を確保するための対策です。
電力や通信、金融といった国民生活を支えるインフラを担う14業種の大企業を対象に、重要機器を導入する際には国が事前に審査を行います。
サイバー攻撃を受けたり、情報を盗み取られたりしないための対策です。
システムにぜい弱性がないかなどをチェックしたうえで、攻撃を受けるおそれが高いとみられた場合には、必要な措置をとるよう国が勧告や命令を出せるようになります。

【3本目の柱】特許の非公開化

軍事に関わる技術の中から国民の安全を損なうおそれのあるものについて特許出願を非公開にできる制度です。
日本の今の制度では特許は出願すると、1年半後には原則公開されます。
このため、現状では日本企業が出願した内容を海外の企業が利用して軍事に転用するリスクがあります。
こうした事態を防ぐため対象を軍事技術に絞り込み、出願内容を非公開にできるようにします。
一方、出願者は本来なら特許収入が得られるところを非公開にするため、不利益を被らないよう国が補償を行うとしています。

【4本目の柱】先端技術の研究開発

産業の成長力を高めるため、官民が一体となった先端技術の研究開発にも力を入れます。
宇宙やAI、量子など国の安全保障に関わる「特定重要技術」の研究開発に対し、資金面などで支援します。
そのうえで、プロジェクトごとに官民が参加する協議会をもうけ、参加機関どうしで過去の研究データなど必要な情報を共有することで、研究開発を促します。
また、制度の実効性をたもつため、罰則も設けられています。
重要インフラの対象の事業者が重要機器を導入する際に適切な届け出を怠った場合や非公開の対象となる重要技術の発明で、関連する情報を漏らした場合にはいずれも2年以下の懲役か100万円以下の罰金とします。

法律は近く公布され、ことし秋には、制度の要点などを盛り込んだ「基本方針」を策定したうえで、それぞれの制度ごとに段階的に施行されます。

リスク分析を行う会社に問い合わせ相次ぐ

経済安全保障をめぐっては、企業からの関心も高まっています。

東京 港区にある企業向けにリスク分析を行う会社「FRONTEO」では、企業からの問い合わせが相次いでいます。
この会社ではAIをつかった独自のシステムで、企業がどこから原材料や製品の供給を受けているか、トラブルが起きたときにどのような影響が及ぶかを可視化し、分析を行っています。
有価証券報告書やSNS、論文や特許などの公開情報をもとに、直接の取り引き企業だけでなく、7次、8次といった関係性が薄い企業までリストにすることができるといいます。

ことし2月にロシアがウクライナに軍事侵攻してからは製造業や小売りなど大企業を中心に、製品の供給網=サプライチェーンの見直しに関する問い合わせが増えているといいます。
毎月開く経済安全保障についての勉強会には、先月は去年の4倍近い350人余りが参加したといいます。
会社の守本正宏社長は「企業は無制限にグローバルで取り引きできる状況ではなくなっている。複雑な状況のなかでどうやってサプライチェーンを把握できるか需要が出てきている」と話しています。

ことし秋には「基本方針」策定し 段階的に施行へ

成立を受け、政府はことし秋には制度の要点などを盛り込んだ「基本方針」を策定したうえで、段階的に施行することにしています。

国民生活に欠かせない重要な製品である「特定重要物資」や、特許の非公開となる対象などをどのように決めるのかは法律には盛り込まれていません。
今後、政令などにもとづいて定めるとしています。
政府は国際情勢の変化や技術革新が進んでいるとして、例えばどの製品を「特定重要物資」にするか法律で定めることは難しく、柔軟に運用したいなどとしています。

一方、経済界からは新たな法律によってビジネスの自由を妨げるような行き過ぎた制限にならないか懸念の声が出ているほか、国会での審議にあたり野党側から規制の対象を具体的に示すよう求める質問も出ました。
このため、衆参両院の内閣委員会では、経済活動の自由や企業の自主性に配慮することや「特定重要物資」を指定する場合は、関係する事業者や団体の意見を考慮するなどとした付帯決議が採択されました。