体育座り 腰痛との関係は? やめる学校も

体育座り 腰痛との関係は? やめる学校も
子どもの頃、どんな姿勢で先生の話を聞いていましたか?
公園でくつろいでいたアメリカ育ちだという女性2人に、一緒にやってもらいました。

結果は…
女性たち→「あぐら」
私(記者)→「体育座り」

日本の学校では見慣れた「体育座り」。
実は体に負担がかかっているという研究もあります。
(おはよう日本 横井聡 ネットワーク報道部 大窪奈緒子 松本裕樹)

海外では体育座りをやらない?!

多くの外国人が散歩や日光浴を楽しむ東京都内の公園。
女性たちは幼稚園であぐらを教わったそうです。

かつて日本の小学校に短期間の体験入学したことがあるという2人は、そこで初めて体育座りを知ったといいます。
「体育座りはお尻が痛かったです。アメリカではみんなあぐらでしたが、日本でやったら女の子なのにはしたないと注意されてびっくりしました」
次に声をかけた3人組は、もっと自由な座り方を見せてくれました。

ペルーの男性は隣の友達に寄りかかり、オーストラリアの男性は片ひざ立ち。コロンビアの女性は横向きに寝そべりました。
その格好だと先生に怒られませんか?
女性(コロンビア)
「怒られません。座り方はみんなバラバラで立っていてもいい。大事なのは聞く姿勢ではなくて、先生の話す内容をしっかり聞いているかどうか。体育座りはしたことがないです」

どうして日本だけ?

体育座りが広がるきっかけになったとみられるのが国の“手引”。
体育の授業などで「腰をおろして休む姿勢」として紹介されています。

初めて刊行されたのは57年前。

「前ならえ」や「整列」などと同様、集団としての行動を秩序正しく行うためのものだということです。

ただ文部科学省の担当者は、必ずやらなくてはいけない訳ではないと話します。
文部科学省の担当者
「手引は、学習指導要領のように『やらなくてはいけない』という義務ではなくて、『こういうやり方があるよ』という、あくまで事例紹介です。どんな風に授業に取り入れるかは、現場の先生にお任せしています。子どもたちの様子を見ながら、適切な時間・座り方での指導をしていってほしい」

警鐘を鳴らす専門家も

義務ではないというものの、今も多くの学校で当たり前の体育座り。
腰痛を悪化させるのではという指摘もあります。

理学療法士の増田一太さんは、体育座りと子どもの腰痛との関係を10年以上にわたり調べています。
調査を始めたきっかけは腰痛でリハビリに来ていた男子中学生のことば。
「腰が痛くて体育座りができないのに、学校でしなければならず困っている」と相談を受けたことでした。

増田さんは、小学5年生から高校3年生およそ1000人を対象にアンケートを実施。
すると、腰に痛みを感じていると答えた子どもは12.7%にのぼり、このうち半数を超える子どもが体育座りをした時に痛みを感じていることが分かったのです。
腰に痛みを感じる 12.7%

痛みを感じる場面(複数回答)
▽いすに座る 51.2%
▽体育座り 52.3%
▽運動時 59.7%

調査時期:2013年 回答:小学生~高校生 939人
その後の研究で体育座りは、いすに座ったときに比べて背骨や骨盤が倒れて“猫背”の姿勢になりやすく、腰への負担が大きいこともわかりました。
理学療法士 増田一太さん
「子どもの腰痛は中学生くらいから増える傾向にあります。体育座りだけで腰痛になる子は少ないかもしれませんが腰痛を悪化させる要因になっていると考えられます」

猫背にならない「体育座り」は難しい

では背中をピンと伸ばして体育座りをすれば、腰痛にならないのでしょうか。
増田さんは「現実的ではない」といいます。
理学療法士 増田一太さん
「背中をピンと伸ばした体育座りの姿勢を保つには股関節の柔軟性に加えて腹筋や背筋の力も必要になるため、5分もすれば疲れて自然に背中が曲がってきてしまいます。背中を曲げずにずっと先生の話を聞くには強じんな精神力が必要になり現実的ではないと思います」

やめる学校も “当たり前”を見直そう

山口県下関市にある豊北中学校。

去年の春、校長として赴任した矢田部敏夫さんは体育座りをする生徒たちの様子に違和感を感じたといいます。
「外部講師を招いた1時間弱の講演会でした。大切な話なのに、最後のほうは集中力を欠いて聞いていない。よくよく考えれば保護者や大人に、体育座りを強いることは無いわけで、どうして子どもたちが体育座りなのかという思いになりました」
この学校では集会で体育座りをするのが決まりでしたが、いすに座らせることを決め、体育館の床を傷つけないよう、PTAに協力してもらって脚にゴムのついたパイプいすを用意しました。
長年、体育座りを当たり前だと思っていたという矢田部さん。

疑問を持つことができたのは校長になる前、学校を7年間離れて、教育委員会で勤務した経験があったからだと言います。
矢田部敏夫 校長
「教員というのは、自分がいつの間にか思い込んでしまっている正しさみたいなものがあってそれを自分で修正するのは難しいんです。外の世界に行って視野が広がったと思っています。体育座りをやめたことで、生徒も話を聞く姿勢や集中力が上がり大変効果があったと感じています」

こうした動きに賛同する声も

「私も高校の時に長時間体育座りをして今も腰痛が治らない。学校での強制はやめさせてほしい」

下関市の学校の話を知り、SNSでこう訴えた20代の男性。
高校生1年生の頃に腰を痛め、いまでも腰痛に悩まされています。
きっかけは高校入学直後、連日、昼休みに体育館で行われた「応援歌」の練習だったと言います。

他の人が歌っている間はずっと体育座りで、少しでも姿勢を崩すと怒られるため、30分近く体育座りが続くこともあったそうです。
これに加えてたびたび開かれる集会でも体育座り。

ある日、男性の腰は悲鳴をあげました。
男性
「しばらくたった日の朝、起き上がろうとしたら、腰に激痛が走って起き上がれませんでした。母親と弟に抱えられて病院に行きました」
病院を受診すると、診断は「腰椎分離症」。

スポーツ選手が無理なトレーニングをすることで発症しやすいと説明されましたが、運動部に入っていたわけでもない男性は原因に心当たりはありませんでした。

唯一、思い当たったのが体育座り。
医師からも、過度な体育座りが腰に負担をかけた可能性は十分にあると指摘されたそうです。
男性
「体育座りをしている時から腰が痛いと感じていました。湿布などでごまかしていましたが、我慢せずにもっと早く病院に行けばよかった」
10年以上たった今も、疲れがたまると腰痛が再発するため、コルセットや湿布が手放せないといいます。
男性
「完治の難しい症状になってしまったので、憤りももちろんあります。成長期の子どもへの負担を考えず、一律にがんじがらめにするのはダメだと思います」

生理のときもつらい

腰痛のほかにネットで多かったのが生理のときのつらさを訴える声。

「体育座り苦手だった!床は冷たいしその後の生理痛は酷いし」
「制服のスカートだと中が見えるし生理中は血が漏れないか気になるからすごく困ってた」

体育座りは生理のときの体調に影響するのか、産婦人科専門医の高尾美穂医師に聞いてみました。
「短い時間であれば、体に影響はないでしょう。冷たい床で体育座りをすることで体が冷え、生理痛が重くなったと感じる人もいますが、実は体が冷えることと生理痛が重くなることの因果関係ははっきりわかっていないんです。

ただし生理痛は、ストレスが多いと重くなるというデータがあります。長時間、同じ姿勢でいることは子どもにとって負担になりますし、体が冷えたり、『経血がもれるのではないか』と不安に感じたりすることがストレスになれば、生理痛が重くなることはあると考えられます」
高尾医師は、生活様式が変わる中で、もっと柔軟な対応をしてもいいのではないかと話します。
高尾美穂 医師
「体が快適な状態を子どもたちに準備するのは当たり前のこと。話をしてくれる人への敬意を保ちながらではありますが、
▽リモートで話を聞く
▽立って聞く
▽寒かったらひざかけや座布団を利用する
▽あぐらの姿勢で聞く
▽ズボンを着用する
など、子どもたち自身が状況を柔軟に選択できるようになってほしい」