ロシア きょう「戦勝記念日」プーチン大統領 式典で演説へ

ロシアでは9日、第2次世界大戦で旧ソビエトがナチス・ドイツに勝利したとする77回目の戦勝記念日を迎えます。

ウクライナのゼレンスキー政権を「ネオナチ」だと一方的に主張し、軍事侵攻を続けるプーチン大統領がモスクワで開かれる軍事パレードの式典でどのような演説を行うのか関心が集まっています。

ロシアでは9日、第2次世界大戦の戦勝記念日を迎え、極東地域から順次軍事パレードを含めた記念式典が行われます。

首都モスクワでは、日本時間の9日午後4時から中心部の赤の広場で式典が開かれ、プーチン大統領が演説する予定です。

プーチン大統領は、ウクライナへの軍事侵攻を続ける理由としてゼレンスキー政権が「ネオナチ」だと一方的に主張し、ロシア系住民を保護する必要性を強調しています。

1年で最もロシア人の愛国心が高まるとされる戦勝記念日で、プーチン大統領としては、ナチス・ドイツに勝利した先の大戦と重ね合わせることで軍事作戦に対する支持を国民に訴えるのではないかという見方も出ています。

また、戦闘が長期化する中、イギリスのウォレス国防相などは、プーチン大統領が演説の中で「戦争状態にある」と宣言し、ロシアの国民を大量動員する可能性に言及しています。

プーチン大統領が国威発揚を演出する式典でどのような演説を行うのか関心が集まっています。

一方、演説の後、赤の広場では1万人以上の兵士が行進し、最新兵器なども披露される軍事パレードが行われます。

この中では、核戦力による戦争など、非常時に大統領などが乗り込んで部隊を指揮する「終末の日の飛行機」とも呼ばれる特別機「イリューシン80」も飛行する計画となっています。

核兵器が使用される事態を想起させることで、ウクライナを軍事支援する欧米側を強くけん制するねらいもあるとみられます。

また、ロシア側は軍事侵攻で掌握したと主張するウクライナの地域でも式典を開催する可能性が伝えられています。

ロシア側が9日に行う予定の一連の行事は、軍事侵攻の見通しやウクライナでの支配を既成事実化させようとする動きを見る上でも重要な意味を持つとみられます。

愛国心最も高まる「戦勝記念日」 プーチン政権は国威発揚に利用

ロシアで5月9日は第2次世界大戦で旧ソビエトがナチス・ドイツに勝利したことを祝う「戦勝記念日」で、最も重要な祝日の1つとなっています。

第2次世界大戦で旧ソビエトは、世界で最も多い、少なくとも2600万人の兵士と市民が死亡したとされています。

なかでもナチス・ドイツとの戦いはロシアでは「大祖国戦争」と呼ばれ、苦難の末に勝利した栄光の日と位置づけられています。

こうした歴史はロシアの学校現場でも詳しく教えられていて、この日はロシアの人たちがソビエト軍の功績や戦争に加わったそれぞれの祖先に思いをはせるなど、愛国心が最も高まる日とされています。

毎年5月9日は首都モスクワにある赤の広場で記念式典が開かれ、軍事パレードや大統領による演説なども行われています。

このうち2005年の60周年の式典には、日本からも当時の小泉総理大臣や、アメリカの当時のブッシュ大統領など、欧米を含む50か国以上の首脳が出席し、戦勝国・敗戦国を問わず犠牲者を追悼するなど、平和に向けた国際社会の結束が誓われました。

このように「戦勝記念日」は「追悼と和解」の象徴という側面もありましたが、プーチン政権は近年、この祝日を国威発揚の場として利用する傾向が強まっています。

プーチン大統領は、パレードで最新の兵器を披露させるとともに、欧米との対決姿勢を鮮明にする演説も行っています。

また、「ゲオルギー・リボン」という黒とオレンジ色でデザインされた勝利のシンボルを普及させる市民が始めた運動を、ここ最近では政権側が積極的に主導しています。

77周年となることしの記念日はウクライナへの軍事侵攻が続く中で迎えることになります。

プーチン大統領はウクライナのゼレンスキー政権を「ネオナチ」だと一方的に主張しながら、2か月以上にわたって軍事侵攻を続けています。

ロシアのラブロフ外相は今月1日に公開されたインタビューで「ロシア軍は戦勝記念日を含む特定の日にもとづいて行動を調整することはない。5月9日はいつものように厳粛に祝う」と述べ、1つの節目ともみられてきたこの記念日のあとも戦闘が継続されるという見方を示しています。

ただ、「非ナチ化」を掲げて軍事侵攻を正当化するプーチン大統領は、ナチス・ドイツへの勝利を記念した日を強く意識しているとみられ、式典の中でどのような演説を行うか注目されています。

軍事パレードで軍事力アピール 核大国を誇示

ロシアでは、「戦勝記念日」の5月9日、毎年各地で軍事パレードが行われます。

特に首都モスクワでは、中心部の「赤の広場」で大規模なパレードが行われ、大勢の兵士が参加するほか最新の兵器なども披露され、ロシアの軍事力を内外にアピールする機会にもなってきました。

ロシア国防省はことしの軍事パレードについて、28の都市で実施されると発表し、一方的に併合したウクライナ南部のクリミアでもロシアによる軍事パレードを行うとしています。

モスクワのパレードでは兵士およそ1万1000人が参加するということで、去年と比べて1000人ほど少なくなっています。

また131の兵器が披露される予定で、去年と比べて60台ほど少なくなっています。

なかにはアメリカのミサイル防衛網に対抗するICBM=大陸間弾道ミサイルの「ヤルス」や、ウクライナへの攻撃でも使用されている短距離弾道ミサイルの「イスカンデル」など、核弾頭も搭載できるロシア製のミサイルが登場するということです。

さらにことしは、戦後77年にちなんだ77機の戦闘機や軍用ヘリコプターなどが参加するということです。

このうち、ロシアの主力戦闘機の「ミグ29」は、8機が「Z」の文字を表す編成で飛行するとしていて、ウクライナへの軍事侵攻を支持する象徴となっている「Z」を用いて国民にも支持を訴える演出となっています。

また、核戦力による戦争など、非常時に大統領などが乗り込み、上空から部隊を指揮することから「終末の日の飛行機」とも呼ばれる特別機「イリューシン80」も飛行することになっています。

ロシアのメディアによりますと「イリューシン80」が最後に軍事パレードに参加したのは戦勝65年を祝う2010年以来だということです。

プーチン大統領は核兵器を使用する可能性も辞さない構えを示していて、軍事パレードでは核大国であることを誇示し、ウクライナを支援するアメリカをはじめ、NATO=北大西洋条約機構の加盟各国をけん制するねらいもあるとみられます。

平和への祈り込めた「緑色のリボン」

ロシアでは、「戦勝記念日」を迎えるこの時期、「黒とオレンジ色」でデザインされたリボンが勝利の象徴として全土で配布されますが、ことしは、ウクライナへの軍事侵攻に反対し、平和を祈る「緑」のリボンが若者を中心に静かに広がっています。

戦勝記念日を前にロシアの街なかでひときわ目を引くのは、黒とオレンジ色でデザインされた「ゲオルギ-・リボン」。

「火と火薬」を表し、第2次世界大戦でナチス・ドイツに勝利した象徴となっています。

このリボンについて首都モスクワの通りで市民に話を聞くと「リボンは勇敢さと誇り、団結の象徴だ」とか「ひいおじいさん、ひいおばあさんの記憶です」などと誇らしげに語っていました。

モスクワに住む大学生のキリル・グラドゥシコさん(19)は、ことし「ゲオルギ-・リボン」を配る活動に初めて参加しました。

理由についてグラドゥシコさんは「ロシア軍の活躍がインターネットのニュースで流れると、人々が盛り上がる。その一体感を得ようと活動を始めた」と話していました。

グラドゥシコさんは、先の大戦の前線で戦ったひいおばあさんを誇りに思い、自分たちの世代も国を守る必要があると感じていて、「ゲオルギー・リボンという象徴のもと、団結することは命を懸けて戦う兵士たちの支援に重要なことだ」と力を込めていました。
その一方で、今、街なかで見かけるようになっているのが緑色のリボンです。

ウクライナへの軍事侵攻に抗議する人たちが「平和」と「命の再生」の意味を込め、公園のベンチや木の枝などに結んでいるのです。

ロシア国内に住む20代の男性は、みずからを危険にさらすことなく反戦の思いを伝えられる方法は何か考えた末、この取り組みに参加しました。

男性は「平和を尊重し、軍事侵攻を終わらせるべきだと考える人たちは国内のロシア人の中にもいます」と話していました。

SNS上に独自のチャンネルを開設し、街なかにつけた緑のリボンの写真を共有します。

5月8日の時点で登録者数はおよそ7500に上り、ロシア各地から投稿が相次いでいます。

男性は「ロシアは平和で、民主的な国でなければならない。根拠なく(ウクライナの現政権が)ナチスの信奉者だとか、NATO=北大西洋条約機構が脅威であるなどと考えてはならない」と話していました。

ロシア全土を黒とオレンジ色のリボンが埋め尽くす中、緑色のリボンは、ひっそりと、しかし力強く、人々の良心に訴えかけています。

ウクライナでは8日が記念日 キーウでは犠牲者追悼

ロシアでは5月9日が「戦勝記念日」になっていますが、ウクライナでは、ロシアによる一方的なクリミア併合などで反ロシア感情が高まったことを背景に、2015年以降は、ほかのヨーロッパの国と同様、5月8日を記念日としています。

首都キーウにある第2次世界大戦の記念碑には、8日、人々がカーネーションなどの花を持って次々と訪れ、戦争で亡くなった人たちに思いをはせていました。
このうち、会社経営者のナタリア・コニフツェワさんは、(76歳)「5月9日は、ソビエト時代に記念日に定められたものです。ロシアがウクライナに軍事侵攻している、今の状況を考えても、5月8日こそが記念日です」と話していました。
また、東部のハルキウから来たアンリ・アボヤンさんは(34歳)「5月9日を記念日として祝うことはしません。私たちにとって5月8日は、みずから犠牲となり、将来への希望を与えてくれた人たちへの尊敬の念を示す日です」と話していました。

一方、激しい戦闘が続く東部のマリウポリから来た男性は「なぜ戦争が始まったのか理解できません。ロシアがウクライナの人々に対して行っていることはジェノサイドです。故郷のマリウポリには両親が残ったままで、連絡もとれません」と話し、涙を流しました。

ゼレンスキー大統領 ロシアをナチス・ドイツになぞらえ強く批判

ウクライナのゼレンスキー大統領はナチス・ドイツに勝利した記念日としている8日、ビデオメッセージを発表し「第2次世界大戦から数十年がたって、闇がウクライナへ戻ってきた。違う姿をして、違うスローガンを掲げているが目的は同じだ。血塗られたナチズムがウクライナに再建された」と述べ、軍事侵攻を続けるロシアをナチス・ドイツになぞらえて強く批判しました。

そして、ナチス・ドイツが第2次世界大戦中、ウクライナやヨーロッパ各国に行った侵略の歴史にふれたうえで「われわれの軍隊や国民はナチズムに勝利した人々の子孫なのだから、再び勝利を収める」と述べ、ロシアに屈しない姿勢を改めて強調しました。

専門家「戦争が長引けばプーチン大統領は不人気に」

ロシア大統領府でプーチン大統領の演説の草稿を準備する部署に所属していた、ロシアの政治学者アッバス・ガルリャモフ氏がNHKのオンラインでのインタビューに応じ、5月9日の戦勝記念日について「プーチンにとっての聖なる祝日だ」と表現し、プーチン大統領が愛国心に訴えてみずからへの求心力を高めるとともに、国内の結束や国威発揚に利用してきたと指摘しました。

ガルリャモフ氏は、2016年までロシア大統領府に所属していましたが、その後政権批判に転じ、ロシアがウクライナへ軍事侵攻を始める前に身の危険を感じてロシアを離れ、現在はイスラエルにいるということです。

ガルリャモフ氏は戦勝記念日に行われる軍事パレードに関して「プーチン政権下のロシアは兵器を見せつけて世界を脅し、わが軍がいかに偉大かと誇示してきた」と政権のねらいを分析しました。

そのうえで「プーチンの正当性は、自分は強く、常に相手を打ち負かし、ほしいものを手に入れるという力の概念に基づいている」と述べ、ウクライナへの軍事侵攻にはこうしたプーチン大統領の考えが背景にあると指摘しました。

ただ、軍事侵攻についてガルリャモフ氏は「真に正当な戦争とは敵の攻撃に対して身を守るウクライナのほうだ。ロシアの場合は『なぜ私たちは戦っているのか』という疑問が存在する」と述べ、多大な犠牲を払って祖国を守ったとする第2次世界大戦とは根本的に異なるという認識を示しました。

そして、ウクライナ側の激しい抵抗で劣勢も伝えられる現状について「戦場で勝利できていないことがわかった今、ショックを受けている。それこそが大統領や側近が直面している喫緊の問題だ」と指摘し、プーチン政権が動揺していると分析しました。

こうした中で、プーチン大統領が「戦争状態」を宣言し、ロシア国民が総動員される可能性も指摘されていることについては「問題は戦場の人員不足ではなく、ウクライナが国際社会の支援で強くなったことだ。新兵を送り込んでも戦死者がさらに増えるだけだ」と指摘しました。

そのうえで「国民はソファーの上にいる間なら政権の行動に賛成するが、それ以上ではない。政権や愛国心のために自分を犠牲にすることは決してない」と述べ、むしろロシア国内で反戦の機運を高めることにつながるという見方を示しました。

さらに欧米などの制裁の影響が市民生活に出始めているとして「この戦争が長引けばあっという間に不人気になる」と述べ、軍事侵攻の長期化によってプーチン大統領への支持が落ち込んでいくという考えを示しました。

ただ、政権による情報統制を恐れて国民が声をあげられない現状を踏まえ「強権的なプロパガンダの成功は恐怖に基づくものだ。ナチス・ドイツでもそうだったし、ここでも同じだ」と述べ、ナチス・ドイツに勝利した日を祝うプーチン政権が同じことを繰り返していると皮肉りました。

これまでのウクライナ戦況

ロシアによるウクライナに対する軍事侵攻のこれまでを振り返ります。

【2月/勃発】
ロシアのプーチン大統領はことし2月24日のテレビ演説で、ウクライナ東部のロシア系住民を保護するため、特別な軍事作戦を行うと宣言しました。

そして、ウクライナの北と東、それに8年前に一方的に併合したクリミアがある南の3方向から一斉に軍事侵攻を開始しました。

当初は、ゼレンスキー政権を打倒するため、首都キーウの早期掌握を目指したとみられ、首都に戦車部隊を進軍させたほか、各地に激しいミサイル攻撃を加えました。

これに対してウクライナ側は、アメリカなどが軍事支援の一環として供与した対戦車ミサイルなどを駆使して抵抗し、キーウをめぐる攻防はこう着しました。

ロシアは、侵攻直後にウクライナの制空権を完全には獲得できなかったほか、前線の部隊運用、特に補給部隊の運用で失敗を重ねました。

さらに、ウクライナ側の反撃で多くの兵士が死亡し、部隊の士気の低下も指摘されています。

【3月/激化】
戦局を立て直したいロシアは、ミサイル攻撃の標的をキーウに限定せず、東部にある第2の都市ハルキウや、要衝のマリウポリ、さらには西部の中心都市リビウなどに拡大させ、住宅地への爆撃など、市民を巻き込む無差別な攻撃が目立つようになりました。

戦闘が激しさを増す一方で、ロシアとウクライナは停戦交渉を進め、3月29日、トルコのイスタンブールで行われた協議のあと、ロシア国防省は首都キーウやその周辺での軍事作戦を大幅に縮小すると表明しました。

ロシアは、当初想定していた首都の早期掌握を事実上断念し、作戦の重点目標をウクライナ東部に移行したとみられています。

そしてキーウ周辺に展開していた地上部隊に撤収を命じ、同盟関係にある隣国ベラルーシに移動させたあと、再編成を行うなど、態勢の立て直しを図りました。

一方、ロシア軍が部隊を撤収させたキーウ近郊のブチャなどで多くの住民の遺体がみつかり、一部には拷問など残虐な行為の形跡が残っていたことから、国際社会でロシアの戦争責任を追及する声は一層強まりました。

【4月/東部攻勢】
4月に入ると、ロシアは、親ロシア派の武装勢力が一部を事実上統治する東部の2州、ドネツク州とルハンシク州の完全掌握を目指し、東部への攻勢を強めました。

また、南部軍管区のトップ、ドボルニコフ司令官が新たに指揮をとることになったと伝えられ、指揮統制の一元化を目指した動きとみられています。

ウクライナ側の抵抗は続き、先月14日には、ロシア黒海艦隊の象徴でもある旗艦「モスクワ」を対艦ミサイルによる攻撃で沈没させたと伝えられました。

ロシア軍は先月20日ごろから軍事作戦が第2段階に入ったとしていて、東部の2州や南部の掌握を掲げています。

これによって、8年前に一方的に併合した南部クリミアから東部に至る広い地域を支配し、さらに黒海沿岸に点在する港をウクライナから切り離すことで経済的にも大きな打撃を与える思惑とみられています。

そして4月21日、プーチン大統領は激しい攻撃を続けてきたマリウポリを掌握したと主張しました。

これを受けて、ロシア軍は東部2州の完全掌握に向けて動き出し、ハルキウ州から地上部隊が南下するともに、マリウポリを包囲していた部隊は北上を目指しました。

しかし、ウクライナ側が、欧米による軍事支援の強化を追い風に激しく抵抗して一部で反転攻勢に転じているうえ、ロシア軍も部隊を運用する上での課題が依然解決していないとみられることから、一進一退の攻防が続き、戦況は再びこう着しています。

【5月/こう着】
今月に入っても、プーチン大統領が「掌握した」と主張したマリウポリでは、製鉄所を拠点とするウクライナ側の部隊が降伏を拒否していることから激しい戦闘が続き、ロシア軍による完全掌握には至っていません。

プーチン政権が重視していた今月9日の「戦勝記念日」までの東部2州の完全掌握は困難な情勢となり、戦闘は長期化する見通しです。

このため、欧米の防衛当局や軍事専門家の間では、今後、ロシア側が戦局を打開するため、生物兵器や化学兵器などを使うことや、さらには限定的な核兵器の使用にまで踏み切ることを懸念する声が強まっています。