米最高裁 中絶権認めた判断覆す文書 “本物だが最終でない”

アメリカで長年国を二分する議論となってきた人工妊娠中絶をめぐり、連邦最高裁判所が女性が中絶する権利を認めた過去の判断を覆す見通しであることを示す文書をメディアが報じたことについて、連邦最高裁は声明を発表し、文書は本物だと認めたうえで「最終的な立場を示すものではない」と強調しました。

人工妊娠中絶をめぐってアメリカでは、50年近く前の1973年に連邦最高裁判所が「中絶は女性の権利」だとする判断を示していますが、これについて政治専門サイト「ポリティコ」は2日、最高裁判事の多数派がまとめた意見書の初稿だとする文書を掲載し、過去の判断を覆し、中絶を規制する南部ミシシッピ州の法律を容認する内容になっていると伝えました。

これについて、連邦最高裁は3日、声明を発表し、文書は本物だと認めたうえで「裁判所の判断や判事の最終的な立場を示すものではない」としています。

最高裁の文書が事前に流出するという異例の事態を受けて、ロバーツ最高裁長官は、信用を裏切る行為だとして「リークした情報源」を調査するよう指示したことを明らかにしました。

一方、バイデン大統領は3日、記者団に「もしこの判断がなされれば、かなり極端な決定となる。アメリカの法体系の中で根本的な転換が起きてしまう」と述べたほか、声明でも「中絶の選択は女性の基本的な権利だと考えている」としています。

人工妊娠中絶はアメリカでは長年、国を二分する議論となっていて今回の事態を受けて、秋に行われる中間選挙の大きな争点になる可能性があります。

世論調査 「合法とすべき」が一貫して上回る

世論調査機関「ピュー・リサーチセンター」が1995年から行っている調査によりますと、アメリカでは人工妊娠中絶を「合法とすべき」とした人の割合が「違法とすべき」とした人の割合を一貫して上回っています。

このうち、去年、2021年の最新の調査では
▼「すべての場合で合法とすべき」と、
▼「ほとんどの場合で合法とすべき」をあわせると59%で、
▼「すべての場合で違法とすべき」と、
▼「ほとんどの場合で違法とすべき」をあわせた39%を20ポイント上回っています。

これを支持政党別で見ますと、「合法とすべき」と回答したのは
▼民主党支持者で80%、
▼共和党支持者で35%となっていて、支持政党別の違いが明確になっています。

また、男女別で見ますと、「合法とすべき」と回答したのは女性の62%、男性では56%となっています。

年代別では「合法とすべき」と回答したのは
▼18歳から29歳で67%、
▼30歳から49歳で61%だったのに対し
▼50歳から64歳は53%、
▼65歳以上は55%で、
若い年齢層ほど中絶の権利を支持する傾向があることがわかります。

過去の判断が覆った場合の影響は

仮に連邦最高裁で人工妊娠中絶の権利を認めた過去の判断が覆った場合、アメリカ国内ではさまざまな影響が出ることが予想されています。

全米で中絶をする女性を支援するNPO「プランド・ペアレントフッド」によりますと、判断が覆った場合、直ちに中絶を原則禁止とするとしている州は、▽南部テキサス州や▽ルイジアナ州、▽中西部ミズーリ州、▽西部ユタ州など12州にのぼるということです。

このほか、14の州でも中絶が原則禁止される方向に向かうと予想しています。

また、この団体が去年発表した調査結果では、全米の妊娠可能な年齢の女性のおよそ半数にあたる3600万人の女性が、中絶へのアクセスを失う可能性があるとしています。

一方で、こうした動きに反発して中絶の権利を擁護する動きも出ています。

西部カリフォルニア州ではことし3月、中絶する際の費用負担をなくす法律が成立したほか、最高裁の文書が報道された2日、ニューサム知事が州の憲法に中絶の権利を明記することを目指していると明らかにしました。

さらに東部コネティカット州でも、中絶を規制する州から中絶を受けに来る人たちを支援する法律の成立を目指しています。

全米各地で人工妊娠中絶の権利を訴える集会

連邦最高裁の文書が報道されたことを受けて、全米各地では都市部を中心に人工妊娠中絶の権利を訴える集会が行われました。

このうち、ニューヨークのマンハッタンでは、裁判所の前に数千人が集まり、「私たちの体のことは私たちが決める」とか「最高裁が女性の人権を否定するのを許してはいけない」などと書かれたプラカードを掲げて中絶の権利を訴えていました。

デモにはニューヨーク州のジェームズ司法長官も参加し「私たちは今、重大な局面に立たされている。後戻りしてはいけない。今こそ行動を起こす時だ」と述べると、集まった人たちからは大きな歓声が上がっていました。

デモに参加した女子学生は「自分の体のことは自分で決めたいと思っている。このようなことが現代のアメリカで起きていること自体、とんでもないことで、憤りを感じる」と話していました。

また、小児科医として働く男性は「中絶が規制された結果、危険な中絶行為が行われることは望まない。中絶を望む人の多くは10代の母親で、彼女たちに選択肢を与えることが重要だ」と話していました。

最高裁前で抗議集会 中絶に反対する人も

首都ワシントンの連邦最高裁判所前には3日、人工妊娠中絶の権利を訴える人たちが大勢集まり、「中絶は人権の1つだ」と書かれたカードを掲げるなどして、裁判所はこれまでの判断を覆すべきではないと声を上げていました。

参加していた女性は「誰も好んで中絶をしたいわけではないが、女性にはその権利が認められるべきだ。非常に個人的な問題で、政府が法律で規制すべきではない」と話していました。

また、2人の娘がいるという男性は「みずからの体に対する女性の権利は、変えられるべきではない。今はアメリカの歴史上、大変な試練の時だと思う」と話していました。

一方で、最高裁前には中絶に反対する立場を主張する人たちの姿も見られ、男性の1人は「どんな命であれ、奪うことは違法だと思う。最高裁がこれまでの判断を覆せば、多くの州で中絶が禁じられるかもしれず、よいことだ」と話していました。