コロナ 高齢者施設の治療体制確保 65%にとどまる 厚労省調査

新型コロナウイルスの第6波で高齢者施設の利用者が感染しても入院できないケースが相次いだことを受け、厚生労働省は施設でも治療を受けられる体制を目指すよう求めていますが、体制を確保できているという施設は現時点で65%にとどまっていることが分かりました。

第6波では感染者が急増して各地で病床がひっ迫し、高齢者や障害者などが暮らす施設では一時、6000人を超える人が入院できずに施設での療養を余儀なくされました。

特に高齢者施設では多くの利用者が介護を必要としているため、病院での受け入れが難しく、厚生労働省は施設に医師を派遣するなどして治療できる体制を目指すよう自治体に要請しています。

厚生労働省が全国5万6119の施設を対象に施設で治療を受けられる体制を確保できているか調査した結果、今月22日の時点で65%にあたる3万6212の施設が確保できていると回答しました。

割合を都道府県別にみると、静岡県や山口県など7県が100%だった一方、最も低い兵庫県は16%、東京都でも34%などと、地域によってばらつきが出ています。

厚生労働省は「締め切りまでに回答がなかった施設も3割程度あるので、引き続き確認を進めつつ、施設で治療を受けられる体制を速やかに整備したい」としています。

高齢者施設での治療体制確保 都道府県別の割合

「施設で治療を受けられる体制を確保している」と回答した高齢者施設の割合は、岩手県、富山県、静岡県、鳥取県、山口県、徳島県、香川県が100%、次いで山梨県が96%、佐賀県が95%、大阪府と福井県が94%、岡山県が89%などとなっています。

一方、最も低かったのは兵庫県で16%、次いで鹿児島県が21%、秋田県と三重県が33%、東京都が34%、福岡県が41%などとなっています。

高齢者施設にいち早く医師や看護師を派遣しようとする動きも

高齢者施設で新型コロナウイルスに感染した人が出た場合に、いち早く医師や看護師を派遣しようと動き出した自治体もあります。

東京 墨田区では、これまで施設で感染者が確認されると、まず施設が保健所に連絡し、そのつど保健所が医師などを派遣できる病院を探していました。

しかし、病院側も派遣できる医師や看護師を常に確保できておらず、派遣までに数日かかることもあり、その間に利用者の症状が悪化したり、感染が広がったりしたケースもあったということです。

このため墨田区では、特定の病院に原則24時間以内に施設に派遣できる医師や看護師の専門チームをつくることを決めました。

今月25日には、区の担当者が地元の「東京曳舟病院」を訪れて、区内の高齢者施設でクラスターが相次いだことなど感染状況を説明したうえで、協力を依頼しました。

保健所ではなく、地元の医師会が施設からの派遣要請を受けることを想定していて、保健所業務の軽減につながることも期待できるということです。

東京曳舟病院の三浦邦久副院長は「医療チームが早く高齢者施設に駆けつけられれば、重症化させないための治療ができて、防げる死もあると思う。入院せずに施設で治療ができれば、病床のひっ迫を抑えることにもつながるので、可能なかぎり協力していきたい」と話していました。

墨田区保健所の西塚至所長は「複数の施設で相次いで感染が起きた場合や休日の体制をどうするかなど課題はあるが、できるだけ早くチームをつくり、高齢者の命と健康を守りたい」と話していました。

専門家“オミクロン株 高齢者しっかり守れば 死亡少なくできる”

厚生労働省の専門家会合のメンバーで感染症に詳しい沖縄県立中部病院の高山義浩医師は、治療体制を確保できたという高齢者施設が全体の65%だったことについて「まだ施設への周知が十分でないのでないか。支援の手が差し伸べられない地域や施設があると集団感染の発見が遅れてしまうおそれがある」としています。

そのうえで「支援体制があっても、チームが1つしかないと、必要な施設に支援に入るのが遅れてしまったり、そもそも支援に入ることができなかったりするおそれがある。実際にすぐ運用でき、かつすべての地域に支援ができるよう整備を進めることが重要だ」と指摘しています。

沖縄県はおととし7月から感染が確認された高齢者施設に専門の医療チームを派遣していて「施設から相談が来るのを待っている間に施設での感染が広がってしまうケースも出ている。オミクロン株では高齢者をしっかり守ることができれば、亡くなる人を少なくできることが分かってきているので、早期発見、早期介入、そして早期治療につなげられるよう地域の連携体制を確認していくことが必要だ」と話しています。

後藤厚生労働相「体制の構築 さらに進めていきたい」

後藤厚生労働大臣は、記者会見で「体制の詳細や地域の事情をしっかりとうかがいながら、高齢者施設への医療支援の派遣が実効的なものになるように、体制の構築をさらに進めていきたい。今後とも都道府県などとも連携を密にし、起きてくる状況に的確に対応できるようにしたい」と述べました。