観光船遭難 「条件付き運航」常態化か 海保 実態把握進める

北海道の知床半島沖で起きた観光船の遭難事故で、運航会社の元従業員がNHKの取材に対し、ふだんから天候次第で引き返す「条件付きの運航」が行われていたと証言しました。
第1管区海上保安本部は、事故の背景に安全管理上の問題がなかったか引き続き実態把握を進めています。

今月23日、乗客・乗員26人を乗せた観光船「KAZU 1」(19トン)が知床半島の沖合で遭難した事故は、これまでに見つかった乗客11人が死亡し、ほかの15人は今も行方が分かっていません。

運航会社の社長の説明によりますと、事故当日の朝、船長と打ち合わせた結果、海が荒れるようであれば引き返す「条件付き」の運航という形で出航を決めたということです。

元従業員の1人はNHKの取材に対し、こうした「条件付きの運航」がふだんから行われていたと証言しています。

「条件付きの運航」について、国土交通省は「そのような概念はなく、法律に基づく安全管理規程にも盛り込まれていない」という見解を示しています。

また、事故当日は知床半島の周辺に波浪注意報が出され、天候の悪化が予想されていたということで、第1管区海上保安本部は出航を決めた判断が妥当だったかどうかも含め、安全管理上の問題がなかったか引き続き実態把握を進めています。

一方、現場海域の周辺では事故から6日目となる28日も捜索が続けられています。

海上保安本部によりますと午後3時現在、行方不明者の発見につながる新たな手がかりは見つかっていないということです。

運航事業者に義務づけ「安全管理規程」とは

国土交通省によりますと、観光船などの運航事業者は、海上運送法で安全確保のために守るべき事項を記した「安全管理規程」を作成し、国に届け出ることが義務づけられています。

「安全管理規程」には、運航管理者などを定めた組織体制や、運航を中止すべき風や波の条件などを明記することが求められ、内容が十分でないと国は、変更を命じることができます。

桂田社長は27日の会見で、出航を判断する基準について「波が1メートル以上で欠航、風速8メートル以上で欠航、視界が300メートル以上ないと出航できない」と説明しました。

この説明のあと、桂田社長がこうした数値について具体的に明記していないという趣旨の発言をする場面がありましたが、国土交通省によりますと、数値がないと届け出は受け付けられず、運航はできないということです。

また、27日の会見で、桂田社長は、観光船の豊田船長と海が荒れた場合は引き返す「条件付き運航」をすることを打ち合わせたと説明しましたが、国土交通省は「『条件付き運航』という概念はなく、安全管理規程にも盛り込まれていない」としています。

「安全管理規程」他社 “必ず守って運航するのは当然”

観光船などの運航事業者が国に届け出ることが義務づけられている「安全管理規程」について、北海道・知床半島で大型の観光船を運航する会社は、規程にもとづいた「運航基準」の中に運航を判断する風や波の具体的な数値を明記しているとして「関係者が必ず守って運航するのは当然のこと」と説明しています。

事故を起こした観光船とは別の大型の観光船を知床半島で運航している道東観光開発によりますと、安全管理規程を実施するための「運航基準」の中に運航を判断する具体的な数値を定めているということです。

この中でウトロ港を出航する段階では、▽風速15メートル以上、▽波の高さ1メートル以上、▽視界500メートル以下のいずれかになった場合は出航できないとしています。

出航の前には船長が風や波の予報を確認する義務があり、航行中に▽風速20メートル以上か、▽波の高さ2.5メートル以上のいずれかが予想される時は出航をしてはならないと明記されています。

さらに実際の運用としては、波の高さが2メートル以上になる予報の時は、出航していないということです。

また、船長とは別に運航管理者を置き、出航前には船長と運航管理者が天気図などの予報を分析してお互いの意見が一致しないと、出航できない決まりになっていて、それらのやり取りを船長と運航管理者の双方が記録しているということです。

道東観光開発の担当者は「安全管理規程や運航基準は非常に重要なものなので、関係者が必ず守って運航するのは当然のことです。また、風や波などの気象条件が悪化すると予想されている場合は運航を取りやめるなど、安全側の判断をしています」と話していました。

専門家「安全管理に疑問」

水難学会会長で、長岡技術科学大学大学院の斎藤秀俊教授は「安全管理規程に基づいて行動していれば、何かがあったとしてもできるだけ被害を最小限に抑えることはできる。今回はどう見ても被害が最小限になっていないので、規程どおりにきちんとした対応が取られていたかは疑問だ」と話しています。

また、桂田社長が、観光船の豊田船長と海が荒れた場合は引き返す「条件付き運航」をすることを打ち合わせたと説明したことについて「天候の急変のおそれがあるときは出航しないと、通常、安全管理規程には書いてある。条件付き運航という概念はありえない」と指摘しました。

そのうえで「条件付きというのであれば、陸上の会社から船に『そろそろ波が来そうだ』と情報を送るなど、常にやり取りするべきだ」と述べて、今回、船長1人に判断を任せ、天候の変化などに素早く対応できる体制が会社として取られていなかったことに疑問を呈しました。

さらに「船で何らかの危険が起きたら、陸上の支援を頼む必要があり、通信には重要な役割がある。通信の手段を複数用意しておくというのがセーフティーネットであり、無線のアンテナが折れていると分かった時点で、出航しないと決断すべきだったと思う」と指摘し、安全管理が十分でなかったという認識を示しました。

佐賀の男性の友人「本当に残念」

北海道 知床半島沖で起きた観光船の遭難事故では、これまでに亡くなった人のうち2人が佐賀県の男性であることが確認されました。
亡くなった1人の岩永健介さん(74)と30年来の友人だったという男性は、「なぜこんなことになってしまったのか。本当に残念です」と話し、突然の友人の死を悼んでいました。

今回の事故で、佐賀県からは3人が観光船に乗っていたとみられていますが、このうち、いずれも有田町の林善也さん(78)と、岩永健介さんが死亡したと27日夜に発表されました。

このうち岩永さんは、地元で長年にわたり、木材の会社を経営していました。

岩永さんと仕事を通じたつきあいがあり、30年来の友人だった西山輝男さん(72)は、岩永さんについて「一緒にお酒を飲んだり、ゴルフをしたり、いい仲間だった。面倒見がよく、気前もいいし、最高の先輩だった」と話しました。

5年前には一緒に台湾旅行に出かけ、親交を深めていました。

また、事故の1週間前には、岩永さんとともに死亡が発表された、林さんを合わせた3人で、ゴルフをしたということです。

西山さんはその際、北海道に旅行に行くことを聞かされ「楽しんで来てね」と伝えたところ、岩永さんは「今度はてるちゃんも一緒に行こうね」と応えたということです。

西山さんは「そのときはこんな事故に遭うとは思いもしなかった。まさか最後になるとは」と話し、突然の友人の死を悼んでいました。

また観光船の運航会社については、「命を預かる船会社の社長としての自覚が本当にあったのか疑問だ。起こるべくして起こった事故のように感じる。本当に許されることではない」と憤りをあらわにしました。

きょうも多くの人が献花

乗客の遺体が安置されている斜里町の運動施設に設けられた献花台には28日も各地から来た多くの人が花を手向け、鈴木知事や観光船の運航会社の社長も姿を見せました。

このうち東京から夫婦で献花に訪れた60代の男性は「犠牲になった方々の気持ちになるとつらくなり、いたたまれなくなって来ました。今回の事故は単なる偶然ではなく人災の意味合いもあると感じます」と話していました。

またオホーツク海側の清里町に住む60代の女性は「ニュースを見ていてもたってもいられなくなり献花に来ました。観光船の運航会社には誠実な対応をしてもらわないと知床は観光で成り立っているので、印象が悪くなると困ります」と話していました。

午前中には鈴木知事と中山国土交通副大臣も献花に訪れたほか、正午すぎには運航会社の社長も訪れ献花台の前で手を合わせました。