日独首脳きょう会談 対ロシアで連携確認へ

岸田総理大臣は、28日から日本を訪れるG7=主要7か国の議長国、ドイツのショルツ首相と首脳会談を行います。来年議長国を引き継ぐ立場から、ロシアによるウクライナへの軍事侵攻などへの対応をめぐって両国で緊密に連携する方針を確認する見通しです。

G7のことしの議長国、ドイツのショルツ首相は、就任後初めて28日から2日間の日程で日本を訪れ、28日午後、岸田総理大臣と首脳会談を行うことになっています。

会談で両首脳は、ロシアによるウクライナへの軍事侵攻で国際秩序の根幹が揺らいでいるという危機感を共有し、緊密に連携していく方針を確認する見通しです。

G7の議長国ドイツと、来年その立場を引き継ぐ日本の両国が、連携を強化する形です。

また会談で岸田総理大臣は、中国がインド太平洋地域を中心に覇権主義的行動を強めていることを念頭に、この地域への関与を強化するドイツとの間で、「自由で開かれたインド太平洋」の実現に向けた協力も強化したい考えです。

岸田総理大臣は、ショルツ首相との会談に続いて、大型連休の期間中は、東南アジアやヨーロッパを訪問することにしています。

そして、日米豪印の4か国の枠組み、クアッドの首脳会合を来月下旬にも日本で開催したいとしていて、積極的な首脳外交を通じて、自由や民主主義など普遍的な価値観を共有する各国との結束を図りたい考えです。

ショルツ首相とは

来日するドイツのオラフ・ショルツ首相は去年12月、16年にわたってドイツを率いたメルケル氏の後任として首相に就任しました。

ドイツ第2の都市、北部のハンブルクで市長を務めたほか、2018年からはメルケル政権のもとで財務相と副首相を兼任し、実務能力の高さと堅実さが評価されました。

去年9月、議会下院にあたる連邦議会の選挙で、中道左派の社会民主党を第1党に導き、環境政策を前面に掲げる緑の党、市場経済を重視する自由民主党の3党による連立政権を樹立しました。

ロシアがウクライナへ軍事侵攻を始めると、ショルツ首相は紛争地域などへの武器の供与に慎重だったこれまでのドイツの姿勢を転換しウクライナへ対戦車兵器などの供与に踏み切りました。

メルケル前首相と比べて、存在感が薄いとも指摘されていましたが、ロシアに対する強硬姿勢が評価され、世論調査では支持率が上がっています。

ことし2月にはアメリカを訪れ、バイデン大統領と会談していましたが、首相としてアジアを訪れるのは初めてで、最初の訪問先として日本を選びました。

ショルツ首相 訪日のねらいは

ドイツのショルツ首相は、ロシア軍の侵攻を受けているウクライナに対する軍事支援の在り方や、ロシアへのエネルギー依存からの脱却など、難しい問題を巡って連立政権内の意見調整に追われています。

こうした中でも、ショルツ首相が日本を訪問するのは、G7=主要7か国の議長国としてアジアから唯一G7に参加している日本との関係強化をアピールするねらいがあるとみられます。

その背景にあるのが中国の存在です。これまでドイツは、メルケル前首相が日本よりも中国を多く訪れ、中国を重視する姿勢が目立ちこの20年で輸出と輸入をあわせた貿易額は8倍近くまで拡大しました。

しかし、近年は中国の人権問題や海洋進出などからドイツ国内で中国への警戒感が高まっています。こうした中で、政権内からは、アジアでの経済関係において中国一辺倒の政策を見直して多角化するためにも日本などとの関係を一層強化すべきだという声も出ています。

またドイツは、去年11月、海軍の艦艇をおよそ20年ぶりに東京に寄港させましたが、中国を念頭に安全保障面で日本と協力を進めるべきだという考えも強まっています。ドイツは、ウクライナ情勢を受けて紛争地域などへの武器の供与に慎重だったこれまでの姿勢を転換し、ウクライナに対戦車兵器を供与するなど軍事支援を行っています。ただ、ドイツ国内には武器の供与に慎重な声もある中で、ショルツ首相としてはウクライナの復興に向けて日本と協調したいねらいもあるとみられています。

ショルツ首相が、今回の訪問を通して日本との経済や安全保障をめぐる関係を発展させるための道筋を付けられるかや、警戒感が高まるロシアや中国に対して日本と連携する姿勢をどこまで打ち出すのかが焦点となります。

対ロシアで厳しい姿勢に転じる

ドイツのショルツ政権は、ウクライナに軍事侵攻したロシアに対して厳しい姿勢に転じていて、G7=主要7か国の議長国として西側諸国と圧力を強化することで歩調を合わせ、ウクライナへの軍事支援やエネルギーのロシア依存を減らす取り組みを進めています。

ドイツは、第2次世界大戦の反省から平和主義を重んじ、外交と対話を軸にする姿勢を堅持してきました。ショルツ政権は、ロシアによる侵攻前はウクライナへの支援を軍用ヘルメットの供与などにとどめていましたが、侵攻後には方針を転換して、対戦車兵器と携帯型の地対空ミサイル「スティンガー」などを供与すると発表しました。ショルツ首相は今月19日、ウクライナが、ドイツ企業から対戦車兵器などを調達する費用をドイツ政府が肩代わりすると明らかにし、軍事支援を強化する方針です。

またドイツは、天然ガスや石油、石炭をロシアに依存してきましたが、侵攻後は、エネルギーの「脱ロシア」の取り組みを進め、新たな調達先の確保を急いでいます。ショルツ政権は、先月25日、石炭と石油は企業の調達先変更の動きなどが進んでいるとしてことし中におおむね依存から脱却するという見通しを示しました。侵攻前は輸入の55%を占め、依存の割合がとりわけ高い天然ガスについては、再来年2024年半ばまでにロシアからの輸入の大幅な削減を目指しています。

その代替として検討しているのがLNG=液化天然ガスで、先月には、エネルギー政策を担当する閣僚が世界有数のLNGの輸出国カタールを訪問し、エネルギー分野での関係強化を呼びかけました。ロシアによるウクライナ侵攻を受け、EU=ヨーロッパ連合の中心的役割を担うドイツは、エネルギーの確保やヨーロッパの安全保障など、国の重要な政策の転換を迫られていて、ショルツ首相にとっては、去年12月の就任以降、手腕が試される重要な局面が続いています。

日本の専門家“ウクライナへの支援 主なテーマに”

ドイツのショルツ首相の日本訪問について、ドイツ政治が専門の東京大学の森井裕一教授は、来月ドイツで開かれるG7サミット=主要7か国首脳会議に向けた調整が目的だとしたうえで、ロシアによる軍事侵攻が続くウクライナへの支援が主なテーマになると指摘しています。

森井教授は「ウクライナへの支援は、今後は復興など長く支援が続くことになる。G7のなかにおいては、日本とドイツは立場が近いので、軍事ではない分野での支援、財政、金融などを含めて、どういった枠組みでやっていくのか、議論していくと思う」と述べて軍事的な支援が難しい日本とドイツの間で歩調を合わせたい思惑があるという見方を示しました。

そのうえで、ウクライナ情勢が日本とドイツの関係に与える影響について「ドイツはロシアの軍事侵攻のあと、領土防衛や主権国家の防衛に大きく転換し始めた。これまでは、日本が東アジアの緊張した状態について訴えても冷たい反応だったが、今は危機感を共有できる。今後、何らかの形で議論が深まって新しい展開に向かうことはあり得る」として、安全保障分野で連携が深まることが予想されるとしています。

さらに、日本との経済的な連携について「新型コロナウイルスの影響で停滞した経済を活性化させるために、医療品や脱炭素分野、デジタル化などの分野で包括的な枠組みを作ったり、協力関係をつくることが大きなポイントになってくる」と指摘しました。

ドイツの専門家「主要なパートナーは日本、というシグナル」

ドイツのショルツ首相が、就任後、アジア最初の訪問国として日本を選んだことについて、ドイツのアジア政策に詳しい「ドイツ国際安全保障研究所」のアレクサンドラ・サカキ博士は「日本に加えて中国も訪問できたはずだがそうしなかった。今のドイツにとって主要なパートナーは日本だ、というシグナルだ」と指摘しました。

そのうえで「ここ数年で中国との関係について抜本的な再考が行われた。外交関係を多角化するためにインド太平洋地域で連携を深めるべき相手として日本が位置づけられている」と述べて、中国の人権問題や海洋進出などへの警戒感からショルツ政権が日本を重視している姿勢の表れだとしています。

岸田総理大臣との首脳会談については「ウクライナでの戦争への対応が協議の中心になる。ロシアへの圧力強化とエネルギーや食料価格の高騰をどう抑えるかなどだ。ヨーロッパ側の期待を下回る中国の役割についても話し合うと思う」と述べ、事態の収束のため中国にどのような行動を求めていくかなどについて協議したい意向とみられると説明しました。

また、今後の日本とドイツの関係については「より密接な関係へ進むと思う。中国とロシアによる既存の秩序への挑戦は共通の関心事で、議論を始める必要がある」としたうえで「この問題は共通のアプローチでしか解決できず、認識を共有できるかが課題だ」と述べ、ヨーロッパにおけるロシア、アジアにおける中国への対応と優先する課題が異なるなかで、日本とドイツ両国の間で足並みが乱れないようより緊密な連携が重要になると指摘します。