ウクライナに暮らす “何気ない表情”を撮る

「花を摘んでいます。好きだから」

柔らかな表情で写る彼女は、ロシアの攻撃から逃れるためウクライナ西部の都市に避難してきたところでした。

ウクライナに暮らす一人ひとりの何気ない表情をとらえた写真展が開かれています。

一人ひとりの表情を

黄色い花を手にした女性を撮影したのは西部の都市リビウ。
ロシアによる軍事侵攻について聞くと、こう答えたそうです。

「国外へは逃げない。逃げる必要はありますか。ウクライナは家ですよ」

東京・渋谷の会場にはウクライナ各地で撮影された人物写真を中心とする18点と、被写体となった人たちがそれぞれ語ったことばがあわせて展示されています。
撮影したのは写真家の児玉浩宜さん。

3月から1か月ほどウクライナに入り、国内にとどまっていた若い世代を中心に話を聞きながら表情を写真に収めました。

滞在中は凄惨(せいさん)な被害の様子を目にすることや、攻撃の音や振動で目を覚ますこともありましたが、それでも目の前にいる一人ひとりに目を向けたかったといいます。

何気ないことが大切に

ウクライナで初めてじっくり話を聞くことができたのが、ある学生です。

戦争で休講が続いていて「時間がある」からと、軍などに物資を届けるボランティアをしているそう。

しばらくして彼の趣味の釣りに一緒に行った時の様子を写真に収めました。
彼はこう話したといいます。

「家族といること、食べ物、水、新鮮な空気。ふだんは考えもしないことがとても大切に思えてきたんだ」

この日はさえない釣果だったのか。

「魚はいるはずなんだけど」

“日常”にしがみつくように

自転車にまたがる青年とそのパートナー。

攻撃を受けたキーウの街で撮った一枚です。

青年は「彼女のおじさんの家が空爆で焼けてしまった。最近はどうやって生き延びるか、そればかり考えている」と話しました。
「でも、バイクにも夢中だからそれは忘れない」

街の広場で自転車の技を決める様子をスマホで撮影していました。

児玉さんには、奪われた平穏な生活を取り戻すように、これまでやってきたことにしがみついているように見えたといいます。

夢が奪われつつある

写真の中には、夕日に照らされながら少しさみしそうに遠くを見つめる青年の顔があります。
この青年のことばです。

「将来の夢はある。いまは早く戦争が終わってみんなが平和に暮らせるようになってほしいんだ。そのあとで自分の夢をかなえたい」。
撮影した児玉浩宜さんは「一人ひとりに暮らしや将来の夢があります。力によってそれが奪われつつある現実を感じてほしいです」と話します。

写真展は5月1日まで、東京・渋谷の「Gallery Conceal Shibuya」で開かれています。