【現地は今】ロシア軍事侵攻2か月 激戦地マリウポリの現状は

ロシア軍によるウクライナへの侵攻が始まって、4月24日で2か月。プーチン大統領が掌握したと主張している「最大の激戦地・マリウポリ」は、いまどんな状況に置かれているのでしょうか。

包囲されたままの「製鉄所」の内部や、「集団墓地」とみられる場所の状況など、気になる点について、地図や写真、住民の証言などからひもときます。
(国際部記者 山下涼太、田村銀河)

マリウポリはどんな場所?

まずは、マリウポリという都市の特徴を押さえておきます。

▽黒海につながるアゾフ海に面するウクライナ東部・ドネツク州の都市
▽石炭や鉄鋼などの輸出の拠点で、沿岸部には工場も建ち並び港湾都市として栄える
▽2014年からは、親ロシア派の武装勢力と対じする前線に
▽北東には親ロシア派の武装勢力が事実上支配する地域、南西には、2014年にロシアが一方的に併合したクリミアがあるため、ロシア南部からクリミアまでを陸路で結ぶ要衝と位置づけられている

地図で読み解くマリウポリの攻防

そんな「要衝」にあたるマリウポリでは、3月に入り、産科などが入る病院や市民数百人が避難していた劇場などが攻撃を受けました。

「市民を標的にした戦争犯罪だ」としてロシアを非難する声が高まりました。

しかしその後も、ロシア軍と親ロシア派の武装勢力は、北東と南西の2つの方角から挟み撃ちにして侵攻。

どのように包囲網を狭めていったのかをアメリカのシンクタンク「戦争研究所」の分析をもとに確認していきます。
▽3月24日
ロシア軍がマリウポリの西側から侵入
中心部に向かって部隊を進める
▽4月11日
ロシア軍部隊がマリウポリ中心部の東側まで侵攻
4月8日から11日にかけ、ロシア軍や親ロシア派の武装勢力が市内の複数の港を占拠
▽4月21日
プーチン大統領が「マリウポリを解放するための戦闘は完了し成功した」としてマリウポリを掌握したと主張
ウクライナ側は抵抗を続けていると主張

アゾフスターリ製鉄所とは

市内中心部のほとんどの場所にロシア軍が侵攻したとみられる中、注目を集めているのが、沿岸部にある「アゾフスターリ製鉄所」です。

ウクライナの準軍事組織の精鋭部隊「アゾフ大隊」が事実上の拠点としているほか、300人から1000人ともされる多数の市民が内部のシェルターに避難しているとみられています。

製鉄所のウェブサイトやマリウポリ市の幹部などによりますと、製鉄所は第2次世界大戦前の1933年に操業を開始。広さは11平方キロメートルで、東京ドーム230個以上にもなる広大な敷地を有しています。地下には通路が張り巡らされ、居住スペースのほか、園芸施設やカフェなども併設されているということです。

この「アゾフスターリ製鉄所」をめぐって、4月16日、ロシア国防省は製鉄所を包囲したと主張。その後、ロシア軍は武装を解除して降伏するようたびたび迫りましたが、ウクライナ側は徹底抗戦する構えを崩さず、降伏の要求には応じませんでした。

動きがあったのは21日。
プーチン大統領がマリウポリを掌握したと主張した際、「これ以上の製鉄所への攻撃は適切とは思えない。攻撃の中止を命令する」と述べ、製鉄所への攻撃を中止するよう命令したのです。

一方、一帯の「包囲」は続けるよう指示しました。製鉄所をめぐるロシア側の戦略は、直接的な攻撃から、いわば「兵糧攻め」へと変わったと指摘されています。

ただ、ウクライナ大統領府の顧問のアレストビッチ氏は23日「ロシア軍は、工場のある地域と守備隊に対して空爆を再開した。さらに強襲作戦を行おうとしている」と述べ、ロシア軍からの攻撃が続いていると訴えています。

“製鉄所内部”の映像に写っていたのはー

こうした中、「アゾフ大隊」は4月25日、製鉄所のシェルターの様子とする映像を公開しました。
まず、写っていたのは洗濯物です。

10日間たってもなかなか乾かないほど湿度が高いとしていて、天井や壁などの至る所にカビが生えているということです。
また、おむつがないため、1歳の赤ちゃんが透明な袋のようなものをおむつの代わりにしている様子も見てとれ、女性は「赤ちゃんは肌がかぶれて赤くなり、苦しんでいます」と話していました。

このほか、暗闇の中で避難生活を続ける市民たちが兵士に対して「あと数日で水も食べ物もなくなりそうだ。どうやって生きていけばいいのか」と訴えている様子や、女性が「子どもや高齢者、障害者へのいじめがいつまで続くのか。どうか助けてほしい。もう我慢の限界だ」と必死な表情で訴えている様子も写っていました。

「集団墓地」に遺体を埋めた?

マリウポリの激しい戦闘では、いったいどれくらいの人たちが命を落としているのでしょうか。

ボイチェンコ市長は4月11日、NHKのインタビューに攻撃による市内の犠牲者は2万人を超え、人口のおよそ5%にあたるという見方を示しています。

その数を裏付けるような衛星写真が公開され、注目を集めました。
21日、人工衛星を運用するアメリカの企業「マクサー・テクノロジーズ」が公開したマリウポリから西に20キロほど離れた近郊の村に作られた「集団墓地」だとする衛星写真です。

「集団墓地」とは、遺体を個人の識別ができない状態で一定の場所にまとめて埋めた場所のことで、戦闘地域や迫害、強制収容の現場などで作られることがあります。

3月19日から4月3日までに撮影された5枚の画像には、空き地の道路側にざんごうのようなものが掘られ、少しずつ拡大している様子が写されています。長さ85メートルほどの墓の列が4つ確認できたということです。

マリウポリ市議会は「ロシア軍が3000人から9000人の遺体を埋めた可能性がある」とSNSに投稿しました。

さらに「マクサー・テクノロジーズ」は22日にも別の「集団墓地」が見つかったとして新たな衛星画像を公開。
この画像はマリウポリの東およそ12キロの場所で撮影され、長さがおよそ40メートルでいくつかの列で構成されているということです。この場所についてマリウポリ市議会は「少なくとも1000人の市民の遺体を収容できる」としています。

「集団墓地」以外にも、マリウポリの市議会は「ロシア軍が移動式の火葬施設を運用している」とSNSに投稿。

ウクライナ側はロシア軍が戦争犯罪の隠蔽を図るために遺体を埋めたり、焼却したりしていると指摘し、強く批判しています。

マリウポリから避難した市民は

市民の避難はなかなか進まず、ゼレンスキー大統領は4月21日「12万人近くの市民が市内に取り残されているとみられる」として市民の避難の必要性を訴えました。

そうした中、自宅のあるマリウポリから、ブルガリアに避難した女性がNHKの取材に応じました。

その女性はインナ・チェペロワさん(44)。
ロシア軍による攻撃が続く中、4月8日に78歳の母親とともに町から逃れました。

チェペロワさんは「3月上旬には通信や電気、水道などが途絶えました。自宅の窓ガラスも爆撃で割れ、さらに寒くなりました。雪をバケツに集めて溶かし、生活に使っていました」と戦禍のマリウポリでの生活を振り返りました。

チェペロワさんは自宅の隣のマンションが爆撃で大きく壊されたことをきっかけに避難を決心したといいます。

21日、プーチン大統領がマリウポリを掌握したと宣言したことについては「怒りがなかなか収まりません。どうして私の町が破壊されたのか本当に理解できません。私の望みは、マリウポリに再びウクライナの国旗が掲げられることです」と時折、涙を見せながら憤りをあらわにしました。

そのうえで「プーチンは今やっていることに罪悪感がなく、100%自分が正しいと考えていると思います。世界は団結してプーチンを止めなければなりません」と話していました。

ロシアのプーチン政権は、5月9日に旧ソビエトが第2次世界大戦でナチス・ドイツに勝利した記念日に合わせてマリウポリで軍事パレードの実施も計画するなど、支配の既成事実化を加速させています。