ロシア出席 ありか、なしか?揺れたG20 水面下の攻防

ロシア出席 ありか、なしか?揺れたG20 水面下の攻防
4月20日にワシントンで行われた国際会議・G20。
ウクライナへの軍事侵攻を行ったロシアを、出席させるのか否か。水面下で攻防が繰り広げられるなど、異例ずくめの展開となった。
現地で取材してきた経済部・山田裕規記者が迫ります。

ロシアの根回し ブラジル紙のすっぱ抜き

4月14日、ブラジルの有力紙「オ・グロボ」が1本のスクープを発した。
「ロシアのシルアノフ財務相がブラジルのゲジス経済相に宛てた公式書簡を入手」

ロシア政府がG20=主要20か国の財務相・中央銀行総裁会議に向け、ブラジル政府に対して公式に支援を求めていたという記事だ。

書簡ではロシア側が「外貨準備のほぼ半分が凍結され、新興国のパートナーとの貿易が阻止されている」などとして、アメリカなどの経済制裁への強い不満を示すとともに、「G20などの枠組みで対話を促進させることがこれまで以上に重要だ」と、会議からロシアが排除されることがないようブラジル政府に対して協力を求めたという。

“ロシアを出席させない” 水面下の攻防

なぜロシアは、このような行動に出たのか。

背景には、ロシアの出席を阻止しようという力が大きく働いていたことがある。

きっかけは、アメリカのバイデン大統領が3月、インドネシアで今秋行われる予定のG20サミットからロシアを排除すべきだと訴えたことだ。
日本と西側諸国からなるG7各国も、水面下で議長国のインドネシアに対し「ロシアの自主的な欠席」を促すよう要請。

事前に行われるさまざまな作業部会でも、ロシアに対し、会議に来ないよう繰り返し伝えていたという。

ただG7とは異なり、G20のメンバーはロシアとの政治的、経済的距離もさまざまで、実は1枚岩とは言いがたい状況だ。
ロシアを除くG20のうち、制裁を科しているのはG7と韓国、オーストラリア、EU=ヨーロッパ連合の10の国と地域。

一方、ブラジル、インド、中国、インドネシアなど9か国は制裁を科していない。

それぞれの立場が分かれるなか、ロシアは、ブラジルをはじめとする新興国側に、自分たちの味方をしてくれるよう周到に働きかけていたのだ。

なぜそこまでして出席阻止?

アメリカなど各国は、なぜそこまでして、ロシアの出席を阻止しようとしたのか。

その頃、財務省幹部がよく口にしていたのが、「ロシアとは“business as usual(=これまで通り)”ではない」という言葉だ。

3月24日のG7の首脳声明では、「国際機関や多国間フォーラムはもはやこれまで通りにロシアとの間で活動を行うべきではない」としてロシアを孤立させるため国際社会に一致した対応を呼びかけた。
ロシアのG20への参加を認めれば、この方針に反することになる。

さらに、ロシアが出席すると、G20での世界経済をめぐる議論が「めちゃくちゃになる」(関係筋)という懸念もあった。

G7各国は「ロシアによる軍事侵攻は、エネルギー・食糧の価格を押し上げ、世界経済の最大のリスクだ」という立場。

これに対し、ロシアが「各国による大規模な制裁こそが世界経済に混乱をもたらしている」と主張するであろうことは、事前から目に見えていた。

かねてから制裁に強く反対してきた中国も、ロシアの考えに同調するとみられていて、そうなればG20として統一した見解を打ち出すことが不可能になるのは、火を見るより明らかだった。

結局、板挟みになった議長国・インドネシアは「全員出席という前提で準備を進める」と繰り返し表明し、結果としてオンライン参加という形でロシアの出席を容認した。

いわば折衷案に落ち着いた形だった。

ボイコット告げる突然のツイート

そうしたいきさつもあって、開催を迎えたG20の会議。

一体、何が起こるのか、関係者や取材陣が固唾をのんで見守る中、会議に出席しているはずのカナダのフリーランド副首相兼財務相のツイートが、異変を知らせた。

「ロシアの発言時にG20の会議から退出した」
ウクライナ系で、ロシアに批判的なことで知られるフリーランド副首相は「ロシアのウクライナ侵攻は世界経済への重大な脅威だ。ロシアは会議に参加すべきでない」というメッセージも同時に発信した。

イエレン財務長官も退席し、ロシアに対する強い非難を行動で示した。

離席者が相次ぐ中、日本の大臣は…

日本から出席していた鈴木財務大臣は、その時どう行動したのか。

会議終了後、鈴木大臣は「退席しなかった」と明らかにした。
その理由について、会議の場で軍事侵攻を直接非難し、この場にロシアが参加すべきではなかったと厳しく批判するためだったと説明した。

さらに、ロシアの発言以降も、感染症や気候変動に関する低所得国への支援策など、重要課題に関するセッションが続く予定で、日本としてそうした議論をリードしていくためにも、退席するわけにはいかなかったと述べた。

フランスやドイツの代表も会議にとどまっており、G7内でも対応が分かれる展開となった。

翌日の会議では一転して退席

一方、翌日開かれたIMF加盟国によるIMFC=国際通貨金融委員会。

そこでは、鈴木大臣をはじめ、出席していた24人の委員の大半が、ロシア側の発言時に退席していたことが明らかになった。

鈴木大臣の説明によると、この日の委員会でロシア側の発言の機会はほとんど最後に設けられており、重要な議題が残っていなかったという。

事務局があえてそうした運びにしたかは不明だが「退席しやすい条件」が整えられたことで、前日とは一転して、団結してロシアへの抗議を行動で示すことができた形だ。

残る課題も 秋のG20はどうなる?

しかし、課題は残った。

G20、IMFCともに会議後に発表されたのは“議長総括”や“議長声明”だった。

多くの場合、会議の成果は“共同声明”として発表されるが、今回はいずれの会議でもその採択が見送られたのだ。
IMFCの議長は終了後の記者会見で、「1人の委員が同意しなかった」と述べ、共同声明の採択にロシアが反対したことを匂わせた。
通常、こうした会議の共同声明は“全会一致”が原則だ。

それだけに、1か国でも反対を唱え続ければ、会議としての意思が示せなくなる。

今回、会議の抱えるこうした課題が如実に現れることとなった。

7月には再びG20の財務相・中央銀行総裁会議も開かれる予定だ。

そして11月にはG20サミットが控えている。

今回と同じような事態を繰り返すようであれば、G20の機能不全、ひいては存在そのものの意義が問われることも懸念される事態となっている。

ロシアに侵攻をやめさせるため、一致した対応を取ることができるのか、国際社会は今、正念場を迎えている。
経済部記者
山田 裕規
平成18年入局
旭川局、広島局で勤務
現在は内閣府・財務省を担当