出せない音色 できない実験 学校のコロナ対策どう思う?

出せない音色 できない実験 学校のコロナ対策どう思う?
給食は黙食、合唱も鍵盤ハーモニカの演奏も理科の実験もダメ。

コロナ禍でいままで当たり前だったことができない学校生活が3年目に入りました。感染対策が大切なのはいうまでもないことですが、現場からは困惑する声も。

今回は子どもの目線で考えてみたいと思います。
(京都放送局 海老塚恵 / ネットワーク報道部 野田麻里子 村堀等)

鍵盤ハーモニカは指だけ 実験は映像を見て

コロナ禍3年目の新学期。学校の先生たちも厳しい感染対策に頭を悩ませています。京都市の小学校では音楽の授業で、楽器の音を出せない状況が続いています。
京都の小学校教員
「鍵盤ハーモニカは楽器を持って、指を動かす練習だけ。リコーダーも一緒です。子どもたちは実際にどんな音が出るか分からないんですよね。でも、単元だからやるしかありません」
大きな声で歌を歌うことは飛まつの拡散につながりかねないため、合唱の練習もマスクをしたまま小さな声で歌うのみだといいます。
理科の授業では、顕微鏡やアルコールランプなどの実験ができません。同じ器具を共有したり子どもどうしが近づく機会を避けるためです。実験の代わりに、実験の映像を見て学んでいるといいます。

文科省のマニュアルを見てみると

こうした対策、厳しすぎるようにも見えますが、文部科学省の指針に基づいています。
マニュアルの中には「感染症対策を講じてもなお感染のリスクが高い学習活動」という項目が。例えば…
【音楽】
「室内で児童生徒が近距離で行う合唱及びリコーダーや鍵盤ハーモニカ等の管楽器演奏」
【理科】
「児童生徒同士が近距離で活動する実験や観察」
【体育】
「児童生徒が密集する運動」
「近距離で組み合ったり接触したりする運動」
実際の対応は都道府県のレベル判断のための指標に応じて、それぞれの学校に任されていますが、その判断は難しく、教師の間には疑問の声もあるといいます。
京都の小学校教員
「制限ばかりで、例えば音楽の授業では『だったら何ができるの』という声は聞きます。楽器の演奏や実験など、実際に子どもたちが体験できない状況が続いているのはかわいそうです。でも、学校内で感染が起きることもある以上、やりすぎに見えても慎重にならざるをえないのが現状です」

鬼ごっこが禁止に

こうした対策について、子どもたちはどう思っているのでしょうか。
「学校で、家でもマスクをするように言われた」
小学2年生の保護者は、最近、子どもからそう伝えられました。まだ低学年のため、先生の言うことを絶対に正しいと信じているといいます。

接触するからという理由で、1年前から「鬼ごっこ」が禁止に。去年は下校後の公園遊びも禁止だったため、先生が近所を巡回していたこともあったといいます。
保護者
「親としては、貴重な小学校時代だからこそ、たくさんお友達とお話をして、たくさん遊んで、たくさんのことを経験してほしいと思っています。ルールを設定するのなら、根拠も一緒に提示してほしいし、子どもだけでなく親にも伝達して親子で一緒に考える機会がほしいとも思います」

クラス替えで友達に会えない

中には学校がつまらなくなったという子どももいます。千葉県内の小学4年生の男の子は、新学期になりクラス替えがありました。

仲のいい友達と別のクラスになってしまいましたが、隣のクラスには入ってはいけないと決められています。休み時間に友達に会いにいきたくても、校庭に出られるクラスは日によって決まっていて、出られないクラスは自分の教室で過ごします。

給食の時間も黙食です。マスクをつけたまま全員で「いただきます」を言ったあとは、会話をしないで黙って食べます。机も向かい合わせにしたり隣の人とくっつけたりせず、全員が黒板のほうを向いたまま。
男の子は学校が嫌になり、学校に行きたくないと思うことが増えました。
小学校4年生の男の子
「友達がみんな別のクラスになっちゃったから今は学校は楽しくない。コロナがなくなったらしたいと思うことは、マスクを取りたい。給食の時間にみんなで話をして食べるのは楽しかったから元に戻ってほしい。休み時間にいつでも外で遊べるようになってほしい」
男の子の母親
「給食をはじめコロナによって学校での子どもたちの大事なコミュニケーションの機会が減っていると感じます。クラスでの子どもたちどうしの交流が少なくなってしまって、長男もクラスになじむのに少し時間がかかっているのかなと思っています。感染対策は仕方ないと思う時期もありましたが、そろそろ学校での見直しもしていってもらいたいなと思います」

学校や教員の対応にばらつきも

コロナ対策は学校や教員によっても温度差があります。中には、教員独断の「感染対策」が大きな問題につながったケースもありました。

横須賀市内の中学校では、去年6月下旬からおよそ2か月半にわたって水道料金などおよそ350万円が余分にかかっていました。

「感染対策のために、常にプールの水をあふれさせて、きれいに保つ必要があると考えていた」

学校のプールの管理を担当していた教員が、給水し続けていたのです。
市は、プールの水質管理はろ過装置で行っているため、例年どおり、水の入れ替えは必要ないと事前に説明していましたが、教育委員会によると教員が独断で給水を続けたということです。

また、横須賀市の教育委員会は、市独自のマニュアルを各学校に配布していますが「マスクの着用についてのルール」も各学校で指導の状況に違いがあったと言います。

マニュアルでは「休み時間や体育の授業中、状況に応じてマスクを外してもよい」としていましたが、一部の学校について「一律にマスクの着用を指導している」などという声が保護者から寄せられました。学校側には保護者の指摘を伝え、見直しを求めたということです。
横須賀市教育委員会 保健体育課 鈴木史洋課長
「マニュアルの意図が十分、伝わってなかったり、意図を理解していても子どもたちへの伝え方がうまくないケースはあると思う。夏にかけてはマスクの着用が熱中症のリスクにつながるので、適切な対応を粘り強く周知していきたい」

「子どもたちの心にも影響」

コロナ禍で生活環境に大きな変化を迫られている子どもたち。気になる調査結果がありました。
国立成育医療研究センターが去年12月に行ったインターネット調査では、
▼小学4年生から6年生の10%、
▼中学生の22%に中等度以上のうつの症状がみられました。

一方で、うつの症状があった場合、誰かに相談するかどうか尋ねると、
▼小学4年生から6年生の29%、
▼中学生の51%が、「誰にも相談しないで様子を見る」と答えています。
この調査では、子どもたちから寄せられた声もまとめています。
学校に対しては…
「もっと子どもの考えを聞いてほしい」
「どならないでほしい」
「黙食や体育の時のマスクをやめてほしい」
「演奏会もマラソン大会もしよう!って言ってほしい」
親に対しても…
「最後まで静かに話を聞いてほしい」
「スマホを見ないでほしい」
「もっとほめてほしい」
「一緒にいる時間がほしい」
調査を行った担当者は、コロナ禍の感染対策などで学校や保護者に余裕がなく、なかなか話を聞いてもらえないのではないかと指摘しています。
国立成育医療研究センター社会医学研究部 森崎菜穂 部長
「コロナ禍で無気力を感じている子どもが多く『翻弄されている』と感じていると考えられます。コロナが見えない恐怖ということもあると思います。ただ、それに伴うさまざまな決定が大人からのトップダウンで動いていて、自分の生活は抑圧されているけれど、自分にはどうしようもないというところが結構あるのではないでしょうか」
そして、子どもの声をきちんと聞く姿勢をみせることが必要ではないかと指摘します。
森崎 部長
「子どもたちにはあなたの1つの声も大事なんだよ、そこを考えたうえで今こういう対策がとられてるんだよ、と伝えていくというのは本人たちの納得にもつながります。そうすると自尊心にもつながっていくし、結果的にメンタル面もよくなっていくのではないでしょうか」

子どもの声に耳を傾けて

今回の取材中、こんな風に話す小学1年生もいました。
「給食は静かに食べないといけないし、保育園の時とは違うけど楽しい。好きなメニューもできました。小学生だから大丈夫!」
子どもたちなりに今の状況を精いっぱい受け入れていると感じました。

まもなく大型連休。移動や会食での制限は緩和されつつあります。この機会に大人の決めたことを一生懸命守ろうとしている、子どもたちの声にも耳を傾けてみませんか。