知床 観光船遭難 無線のやり取りが明らかに 緊迫した様子も

北海道の知床半島の沖合で起きた観光船の遭難事故で、当日、航行中の船長が別の運航会社との間で行った無線のやり取りの内容が関係者への取材で明らかになりました。
無線交信の内容からは、途中で波が高くなってきたことや最後は船長が「大変なことになった」と伝えるなど、次第に緊迫していった様子が分かります。

関係者によりますと、遭難した観光船「KAZU 1」の運航会社は、数か月前から船と連絡を取り合うための無線機のアンテナが壊れ、事故の当日、豊田徳幸船長は別の運航会社と無線で連絡をとりあっていたということです。

関係者によりますと、出港後、無線交信は3回あり、1回目は、船長から「カシュニの滝を通過した」と運航の状況を伝える連絡があったということです。

そして、2回目の無線交信では「波が高くなった。ゆっくり航行するので港に戻るのが遅れる」と状況の変化を伝えてきたということです。

最後となった3回目は、突然、緊迫した様子になり、船長は「大変なことになった」と伝え、「ライフジャケットを着せろ」と誰かに声をかける音声が聞こえ、このやり取り以降、無線は途絶えたということです。

無線を聞いた別の運航会社のスタッフは慌てて「ひどいことになっている。海保に電話する」と話していたということです。

当日の状況を証言した関係者は「KAZU 1の運航会社には従業員が3人しかおらず、船長は1人でやらなくてはいけないことが多すぎて、天気予報も見ていなかったのではないか。操縦技術はうまかったが、経験が浅く、あまり教えてもらえていなかったようだ」と話していました。

当日のウトロ港付近の波の高さ 急速に高まる

国土交通省北海道開発局の観測データによりますと、ウトロ港付近の波の高さは、観光船が出港した今月23日の午前10時ごろは30センチ余りでした。

しかし、正午過ぎから急速に高まり、観光船から無線で連絡を受けた別の運航会社が海上保安庁に救助を要請した午後1時13分ごろは2メートル余りに達していました。

そして、観光船から直接海上保安庁に118番通報があった午後1時18分ごろは3メートル近くになりました。

さらに観光船から運航会社に『船首が30度ほど傾いている』との連絡があったという午後2時ごろでは3メートルを超えていました。

札幌管区気象台によりますと、事故現場を含む網走地方の海上では3メートル以上の波の高さが予想されたため、23日の午前9時42分に波浪注意報を出して注意を呼びかけていました。

運航会社「知床遊覧船」 1年ほど前に多くの従業員が辞める

遭難した観光船の運航会社「知床遊覧船」は、複数の関係者によりますと数年前に網走市の会社から斜里町の宿泊施設の経営者に引き継がれたということです。

その際、保有する2隻の観光船のほか、船長や甲板員など従業員が残りましたが、1年ほど前にベテランの船長など多くの従業員が辞め、去年、豊田徳幸船長が「KAZU 1」の船長になったということです。
関係者の男性は、「豊田さんは仕事はなんでもテキパキとこなす人だった。船の操縦は上手だったが、知床の海は1年しか経験がなかった。波もすぐ出てくるし、普通の人にとっては、大変だと思う」と話していました。

そのうえで、「去年、多くの従業員が辞め、船に乗るのは豊田船長ともう1人の甲板員しかいなかった。2隻を運航するには、船に乗る人だけで5人から6人はいないといけない。社長は海のことをよく知らない人で、波が高くてうちの船が出られないときに、『他の船が出ているのになぜ出られないんだ』と言っていた」と話していました。

信用調査会社によりますと、運航会社の年間の売り上げは、3年前は推定で5500万円ありましたが、コロナ禍のおととしと去年は4000万円ほどに減少していたということです。

船長がかつて勤務のバス会社上司「勤務態度は真面目」

船長がかつて勤務していた長崎県島原市にあるバス会社の当時の上司がNHKの取材に応じました。

この会社は、6年ほど前に市からの業務委託を受けておよそ8か月間、地元の観光客向けに水陸両用バスを運行していて、その期間船長が運転手として働いていたということです。

当時の勤務の様子について、「日頃から車両の点検はきちんとしていて少しでも悪いところがあれば『修理お願いします』と言っていた。同僚に仕事を教えるときに『きちんとしろ』と言うなど厳しい面もあったが、勤務態度は真面目だった」と振り返りました。

そのうえで、「こちらでの仕事ぶりを見ていて無茶をするような人間ではなく自分の判断で出港したとは思えません。早く生きて見つかって、これだけ波が高かったのにどういう経緯で出港したか証言して欲しい」と話していました。

観光船「KAZU 1」 新たな映像

遭難した観光船「KAZU 1」はどんな船だったのか。事故当日の「KAZU 1」とみられる映像や過去の映像を視聴者から提供していただきました。
観光船「KAZU 1」が遭難した今月23日、午前10時10分ごろ、ウトロ港から知床半島上を北東に3キロ余り離れた付近で、1隻の船が回り込むように湾に入ってくる様子が撮影されました。
斜里町のネイチャーガイド、綾野雄次さんは、この映像を撮影した人を含むツアー客に案内している途中、船の様子を目撃したということです。

綾野さんは「景色をみていると向こうから船がやってきた。拡声器で元気に景色の説明をしていたが、船を運航する時期が早すぎたので従業員向けの試運転かと思った。ただ双眼鏡で見てみると、デッキの中にマスクした人が大勢見えたのでもう営業しているのかと思った」と目撃した際の様子を語りました。

当時、ウトロ港を出港した観光船は「KAZU 1」だけで、撮影されたのは遭難する前の船の可能性があります。

1年前に撮影された映像には船内の様子も

去年9月に北海道を旅行で訪れ、観光船「KAZU 1」を利用した乗客が撮影した映像です。

この時、台風の影響で観光船は数日間、出港できず、波や風がおさまってから運航が再開されたということです。
映像は、遊覧を終えて港に帰る途中の「KAZU 1」で撮影されていて、知床半島の沿岸から少し離れた海域をスピードをあげて波しぶきをたてながら航行し、船室では乗客が席に座っている様子がわかります。
また、船内には、「外で遊覧される方は救命胴衣をご着用ください」と掲示されています。

撮影した乗客は、「宿泊した宿からの紹介で『KAZU 1』を運航する会社に乗船を申し込みました。時折、揺れましたが、不安になるようなことはありませんでした。自分が乗った船で大きな事故が起きたことを聞いて、悲しく、複雑な気持ちがしています」と話していました。

3年前の映像も

こちらは3年前の4月29日に北海道の知床半島を観光で訪れた20代の男性が、観光船「KAZU 1」に乗船した時に撮影した映像です。

男性によりますと、映像は船の後方から撮影したということで、船が水しぶきを上げながら、勢いよく進む様子のほか、船室の外に出て救命胴衣を着て景色を眺める乗客の姿が確認できます。

男性は「この時は天候もよく、特に船が大きく揺れるなど不安に感じることは全くありませんでした。日ざしが出ていましたが、4月後半でも寒かったことを覚えています。自分が乗った船で事故が起きるなんて思いもよりませんでした」と話していました。
周辺の海域は27日から再びしける見込みで、捜索活動は難航することが予想されます。