ビジネス特集

小麦が高い! それでも生産を増やせない事情とは

パンにうどん、パスタ。私たちの食生活に欠かせない品が、今後、さらに値上がりしそうです。原料の小麦は、ロシアとウクライナが世界有数の生産地。軍事侵攻で供給が滞るおそれが高まって、価格が世界的に高騰したのです。
でも、小麦はほかの国でも作られています。そこで生産を増やせば価格は抑えられるのでは? そう考えた私はアメリカの穀倉地帯に向かったのですが…。(ロサンゼルス支局記者 山田奈々)

小麦関連製品の値上げ 今後も続く?

小麦粉を原料にした食品の値上げが今後、相次ぐ可能性があります。

日本政府は、4月から輸入した小麦を製粉会社などに売り渡す価格を17%あまり引き上げました。
主な産地である北米での不作やウクライナ情勢の緊迫化などに伴うもので、価格は、過去2番目に高い水準となります。

これに伴い、大手製粉メーカーの「日清製粉」「ニップン」「昭和産業」は、業務用の小麦粉をことし6月20日の納品分から値上げすることを発表。

パンなど小麦粉を使った製品に、幅広く影響が出ると見込まれているのです。

家庭用製品も値上げ

4月22日には、製粉大手の日清製粉ウェルナが、ことし7月以降の納品分から家庭用の小麦粉などを値上げすると発表しました。

値上げの対象となる商品は、どれも私たちの食生活に欠かせないものばかりです。
(7月1日納品分から値上げ)
▽家庭用の小麦粉 15品目およそ4~6%
▽天ぷら粉 お好み焼き粉およそ4~6%
(8月1日納品分から値上げ)
▽そうめん、うどんなどの乾麺製品およそ3~8%
▽パスタおよそ2~8%

ロシアとウクライナは“小麦大国”

小麦価格の上昇は、ロシアによるウクライナへの軍事侵攻で加速しています。

国際的な価格の指標となる先物価格は、3月上旬に14年ぶりに最高値を更新し、現在も侵攻前より2割高い水準のままです。
ロシアとウクライナから輸出される小麦が世界全体の3割を占めるからです。
<世界の小麦輸出量>
1位.ロシア 2位.アメリカ 3位.カナダ 4位.フランス 5位.ウクライナ
(2020年 FAO=国連食糧農業機関)
ロシアは各国に経済制裁を科され、ウクライナはロシアの攻撃でこれまでの経済活動ができなくなっています。
2つの“小麦大国”から供給が滞るおそれが、小麦製品の値上がりを引き起こしたのです。

一方、アメリカ、カナダ、フランスでは生産や輸出に大きな支障はなさそうです。

こうした国から供給を増やすことはできないのでしょうか。

アメリカの穀倉地帯に向かった

私が駐在するのは小麦輸出量が世界2位のアメリカです。
調べてみるしかないと穀倉地帯に向かいました。

支局のあるロサンゼルスから飛行機でオレゴン州のポートランドまで2時間半。
そこから車で3時間走り、オレゴン州との州境にある、ワシントン州パターソンという場所に着きました。
ニコル・バーグさん
訪ねたのは家族で農業を営むニコル・バーグさん。
およそ8000ヘクタールの広大な土地で、小麦やとうもろこしなどを育てています。

さっそく私は単刀直入に聞きました。
「小麦をもっと生産することはできないのですか?」

するとバーグさんは、畑のすぐそばに並ぶ巨大なタンクに案内してくれました。
保管されているのは、小麦を育てるのに欠かせない液体状の肥料です。
窒素肥料など4種類をブレンドしたもので、小麦の成長を助けたり、病気から守ったりします。

この肥料、実は多くがロシア産です。
厳しい経済制裁が始まってから、アメリカでは手に入りにくくなり、価格が上がっています。

バーグさんは去年、1トンあたり360ドル(約4万6000円)で購入していましたが、今は800ドルあまり(約10万円)と2倍以上に上昇しているといいます。
ニコル・バーグさん
「高いからといって肥料を減らせば、小麦の品質に影響が出かねないため、量を減らすこともできません。価格を毎日のようにチェックし、少しでも価格が下がった時にまとめて買うようにしています」

燃料費が3倍近くに

追い打ちをかけるのが燃料費の高騰です。

畑を耕すトラクターや肥料をまく機械、小麦を収穫するコンバインに至るまで、必要な機械を動かすには、軽油が必要です。
日々の生産で大量に使う燃料はどれほど値上がりしているのでしょうか。

バーグさんがこれまで手書きで記してきたメモを見せてくれました。
1年半前に1ドル55セントだった軽油は、ことし3月には4ドルになっていました。

肥料代も燃料費も、小麦の販売価格の値上がりを上回るスピードで高騰していて、作れば作るほどコストがかさむ構図になっていました。

作りたくても作れない

さらに、サプライチェーンの混乱も状況を悪化させています。

バーグさんは作付けのシーズンが始まる夏に向けて、燃費のよい新しい農業機械を注文しました。
バーグさんが注文した農業機械
ところが、部品不足などから、メーカーからは納入が2年後になると回答がありました。

生産コストの増加に、必要な機械が思うように手に入らない状況が加わり、小麦の生産を増やしたくても増やせないというのです。
ニコル・バーグさん
「小麦が足りない今、より多く作って貢献したいのに本当にもどかしい。ロシアによるウクライナへの軍事侵攻は、アメリカの農家にとてつもない不確実性をもたらしました」

小麦不足は今後2年は続く

小麦不足はこれからも続くことになるのでしょうか。

40年にわたってアメリカで小麦の生産事業を研究してきた専門家は、生産を大きく増やすことは難しいとみています。
オクラホマ州立大学 キム・アンダーソン教授
オクラホマ州立大学 キム・アンダーソン教授
「農家は生産を増やしたいと考えているが、肥料代や燃料費の高騰に直面し、多くが断念せざるを得ないでしょう。アメリカの農業がこれほどのリスクに直面したのは初めてで、仮にあす軍事侵攻が終わったとしても、小麦の供給不足が2年は続くでしょう」
高騰している小麦の生産現場を取材すると、生産を増やすには“別のインフレ”が大きな壁としてはだかっていることがわかりました。

そしてこの構図は、小麦に限った問題ではなさそうです。
こうした状況は、私たち日本の暮らしに大きな打撃になります。

さらに、世界銀行は食料価格が1%上昇するごとに世界で1000万人が極度の貧困状態に陥ると推計していて、より厳しい環境で生活する人たちにとっては命の危機にすらなる事態です。

ロシアによる軍事侵攻によって世界の食料事情が大きく揺るがされていることを強く実感する取材になりました。
ロサンゼルス支局記者
山田奈々
長崎局、経済部、国際部などを経て去年夏から現所属

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