ビジネス特集

「みずほ」は変われるか? 木原社長に問う

去年2月以降、システム障害が相次いだみずほフィナンシャルグループ。金融庁から業務改善命令を出され、経営トップが一斉に交代する事態となった。信頼回復に向けた改革は進んでいるのか。グループトップの木原正裕社長に問うた。
(経済部記者 古市啓一朗)

メガバンク初の「平成入行」社長

ことし2月に就任した、みずほフィナンシャルグループの木原正裕社長は56歳。

メガバンクのトップとしては初の「平成入行組」として社長に就任し、失った信頼の回復という重責を担う。

いまグループ内のさまざまな部署を訪れているという木原社長がまず強調したのが、会社を現場の意見が生かされる組織に変えていくことだった。
みずほフィナンシャルグループ 木原正裕社長
木原社長
「(現場を訪れると)みずほを本当に変えたいと思ってくれている社員がいる。社員が気づきや思い、建設的な意見を発信できて、それをみんなで議論して新しいものをつくっていける。失敗を恐れることなく挑戦していける。そういうカルチャーにしていきたい」

異例の批判 “言うべきことを言わない”

木原社長が、いわば企業風土を抜本的に変えようとするのは、システム障害が絶えない背景として、金融庁から「言うべきことを言わない、言われたことだけしかしない」とまで指摘されたことがある。

役所が出す文書としては、異例とも言える厳しい表現だ。
去年2月のシステム障害
業務改善命令の対象となった2021年のシステム障害は8件。

このうち2月の障害では、全国の80%のATMが利用できなくなり、カードや通帳が取り出せないトラブルが5200件以上発生。

実はその3年前の2018年、同様のケースが1800件余り確認されていたが、会社では十分な検証をしないままシステムの仕様を継続していた。

当時、原因などを調査した委員会は「仕様が継続され、変更が遅れたことが、重大な顧客の被害をもたらした」とした上で、「組織全般に、想像力や感度の不足がある」と指摘。

さらに、経営幹部がシステム障害を、発生から3時間以上たってネットニュースで知るなど、重要な情報が経営陣に伝わらないという組織運営上の重大な問題も明らかになった。
グループ全体の社員が5万人を超える巨大組織。

3つの銀行が合併してできた経緯もある中で、「上にはものを言わない」「現場の意見をくみ取らない」という風土が強まっていたという。
木原社長
「社員は言いたいことや意見はいっぱいあるんだと思うんですよ。むしろ、経営陣・管理職がそういう意見をしっかり受け止めて、日々の業務運営や経営戦略に生かしてきたかという問題だと思う。そこはやっぱりできていなかったんじゃないか」

“現場軽視”だった経営

業務改善命令では、経営陣がシステムの現場を軽視したことも障害に結びついたと指摘された。

みずほでは、総額4500億円を投じて、ATMやネットバンキングなどを支える新システムを開発し、2019年から稼働させていた。

しかし、運用を開始したあと、担当する要員を6割削減。

維持やメンテナンスの経費も削減した。

そして、その後、システム障害が頻発する形になった。

木原社長は、この点についても対応が不十分だったと考えている。
木原社長
「現場の実態に向き合った上で、必要な対応をしてきたかという問題はある。保守要員の人数については、そもそも何をやらなきゃいけなかったかをしっかり可視化したうえで、そのために必要な人員は何か考える。丁寧さが足りなかったのだろうなと」

生かせるか? 現場の声

そうした会社の空気を、どうやったら変えることができるのか。

木原社長が出した結論は、とにかく現場を回り、みずから意見を集めるというシンプルなものだった。
大宮支店を訪問する木原社長(右)
木原社長の座右の銘は
「企業文化は戦略に勝るほど重要である(Culture eats strategy for breakfast)」

マネジメントの父とも呼ばれ、経営に関連した数多くの著作を執筆したピーター・ドラッカーのことばだ。

木原社長は、週に1度以上のペースで、支店やシステム部門などを訪れたりオンライン会議を開いたりして、現場と意見交換をしている。

4月18日には、さいたま市の大宮支店を訪問。

去年、近隣の5店舗の法人営業を集約し、効率化に力を入れている店舗だ。
「営業現場の業務の効率化をさらに進めるためのシステム面のサポートを知りたい」
「お客さま対応を充実させるために、まだまだ事務の簡素化が必要と感じている」
意見交換会の場で、現場の社員からは、業務の効率化について、さまざまな意見が出された。

木原社長は「お客様に対応する時間を作ることが重要であり、そのために業務を効率化し、変えていくことが大事だ。もっと改善できるというのがあれば、どんどん発信してほしい」と応え、現場から積極的にアイデアを出してほしいと訴えた。

会社を変えていくためには、社員一人一人の主体的な行動を引き出すことが何よりも重要。

木原社長は、そう考えている。
木原社長
「ボトムアップで変えたい思いがあるんだったら、それをやればいいじゃないかと。社員のモチベーションを上げていって、その中でしっかりと信頼回復を図ることが、いちばん大きな務めだと思う。お客様に安心して、みずほと取り引きしてもらえる形をちゃんと作らなきゃいけない」

みずほ 巻き返しは

信頼回復が急務となる一方で、デジタル技術で業務を変革するDX=デジタル・トランスフォーメーションや脱炭素、それに不透明感が強まるウクライナ情勢など、企業を取り巻く環境は激変している。

木原社長は、グループが持つ強みをいかし、新たなビジネスにも乗り出したいと考えている。
木原社長
「みずほの強みは明らかに、横でつながれるということ。銀行、信託、証券、リサーチ、リースの機能を縦横無尽につなげる。強みを一段と発揮するために、ニーズや人事制度をどうするべきかも考えていく。脱炭素でいえば、リサーチには130人の環境分野のコンサルタントがいて、非金融のサービスを提供する。それが最終的には下流でファイナンスになって現れる。そういうことをどんどん拡大していく。いちばん重要なことは、グループの機能を全部つなぎ合わせて最適解を出していくこと。それぞれの機能をもっともっと必要なかぎりブラッシュアップしていく」
過去にも大規模なシステム障害を繰り返してきた「みずほ」。

今度こそ、本当に変わることができるのか。

金融機関や顧客企業の経営環境が大きく変化しているだけに、みずほにとって信頼回復までにかけられる時間は決して多くはない。

改革のスピード感も含め、木原社長の手腕が問われることになる。
経済部記者
古市 啓一朗
2014年入局
新潟局を経て経済部
金融を担当

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