「人間のすることとは思えない」元テニス選手が銃を持った理由

「人間のすることとは思えない。頭を撃たれた子どもがいました。ことばでは言い表せません」

声を詰まらせながら話してくれたのは、ウクライナの領土防衛部隊に加わる元テニス選手。ロシアの侵攻から母国を守ろうと、銃を手に取るアスリートが相次いでいます。

国民的スター選手が…

キーウ出身のセルゲイ・スタコフスキーさん(36)は2013年のウィンブルドン選手権で連覇を目指すロジャー・フェデラー選手をやぶった、国民的な人気を誇るテニス選手です。

ことし1月の引退後、妻と3人の子どもとハンガリーで新たな生活を始めたばかりのことでした。
しかし、ロシアによる軍事侵攻で生活が一変。

家族を残し、故郷に戻って領土防衛部隊に加わりました。

子どもには本当のことを伝えていないといいます。

「部隊に加わったという最悪のことは子どもには知らせないほうがいいと思っています。戦争が何をもたらすのか、幼い子どもたちにはまだ知る必要がないことです」

“人間のすることとは思えない”

パトロールなど活動の中で見たのは、母国の悲惨な状況でした。

最もつらいのは、子どもの遺体を目にした時だといいます。

「本当にひどい。人間のすることとは思えない。頭を撃たれた子どもがいました。ことばでは言い表せません」

SNSで支援呼びかけ

凄惨(せいさん)な街の様子。

ともに闘うウクライナ人選手たち。

スタコフスキーさんはSNSで発信を続け、母国への支援を呼びかけています。

こうした状況を知ったかつての対戦相手、セルビアのノバク・ジョコビッチ選手から支援の申し出も受けました。

「戦場にいるのか?」

「状況が落ち着くことを祈っている」

「支援を送るための送り先を知らせてほしい」

“この戦いは運命”

母国の実情を伝え続けることが、いま自分にできることだと考えています。
「ウクライナのためにできることは何でもするつもりです。ウクライナの人は繁栄と自由を求めていますが、ロシアは破壊や独裁をもたらしました。誰もが国のためにできることをしています。自分にとってもこの戦いは運命だと思います」。

ウクライナでは東京オリンピックの空手・男子組手75キロ級で銅メダルを獲得したスタニスラフ・ホルナ選手や、北京オリンピックのバイアスロンに出場したドミトロ・ピドルチネイ選手などがこれまでに軍への入隊や領土防衛部隊への加入を表明しています。