円安はスピード違反? なぜ大台目前に切り返し【経済コラム】

加速した円安。3月初旬から4月20日までのおよそ1か月半で、およそ15円という「スピード違反」とも言える速度で進みました。
しかし、1ドル=130円台という大台を目前に、円相場は逆に円高方向に切り返し。
マーケットでいったい何が起こっていたのでしょうか?
(経済部記者 古市啓一朗)

指値オペで、さらなる円安を予想も…

4月20日の朝、その日は私が株や為替のニュース原稿を書くマーケット番の担当で、取材拠点に向かっている途中、スマホに速報が入りました。

「1ドル=129円台に 20年ぶりの円安水準を更新」

その日にはちょうど日銀が、指定した利回りで国債を無制限に買い入れる指値オペを実施することが想定されていました。

前回、指値オペが実施された際には、市場で日米の金利差拡大が強く意識され、1日で2円程度の円安となっていました。

それだけに、「きょうも円安が加速するかもしれない。忙しくなりそうだな」と覚悟しつつ、職場に到着しました。
東京市場での取り引きが本格化した午前8時以降も円安の流れは変わらず、円相場は129円台の前半で推移しました。

市場関係者に見通しを取材しても、やはり「指値オペも予想されるため、きょう130円台に到達することも十分考えられる」という意見が大勢でした。

午前10時すぎ、日銀が指値オペの実施を発表。

円相場のチャートの動きに目を凝らしましたが、いくぶん円安が進んだように見えたものの、前回のような勢いはありません。

そして発表から30分もすると、円高方向に切り返し始めます。

11時台には128円台、夜になって海外市場での取り引き時間帯になると、127円台をつける場面もあるなど「円高ドル安」方向の動きが大きくなったのです。

事前の想定とは逆の動きで、拍子抜けとも言える展開でした。

「スピード違反」への警戒感も

なぜ、円相場はこのタイミングで切り返したのか?

ある市場関係者は、投資の世界でたまに耳にする「Buy the rumor,Sell the fact(うわさで買い、事実で売る)」が働いたと説明してくれました。

投資家にすれば「予想した動きを事実確認できて安心した。ここらで1回利益を確定しとこうか」という感じでしょうか。

とはいえ日米の金利差の拡大は当面続くのだから、もっと利益が出るのを待ってもいいのに…。

そう思ってさらに取材を進めると、最近の円安のスピードについて、市場の間でも警戒感が広がり始めていることも一因であることが分かってきました。

指摘されるのは「投機筋の動き」です。

海外のヘッジファンドなどが、「ドル高・円安のトレンド」がしばらく不変とみるや、大量の投資資金を投じそのトレンドの幅を一気に拡大させたのではないか。

1か月半で15円近く円安が進んだのには、こうした投機筋による「円売りの仕掛け」があったという見方も出ています。

短期的に利益を得ることにたける投機筋は手じまいも早いことも知られていて、「このところの円安はさすがにスピード違反ぎみだ。この辺で、いったん利益を確定した方がいい」という警戒感が投資家の間に広がったという分析が聞かれました。

とはいえ、円相場を動かしている最大の要因「日米の金利差拡大」は、経済のファンダメンタルズの反映そのもの。

円安が進みやすい構造に変わりはないという見方が依然として根強く、今後のマーケットの状況から目が離せません。

日銀のいまを示す言葉「マラドーナではない」

ところで、この取材の最中に、ある市場関係者がつぶやいた言葉がとても印象的だったので、ご紹介します。

「いまの日銀は、マラドーナではない」

マラドーナとは、言わずと知れたサッカーの元アルゼンチン代表で、チームをワールドカップ優勝に導いたディエゴ・マラドーナ氏のことです。

かつてBOE・イングランド銀行の総裁を務めたマーヴィン・キング氏が、状況に応じて柔軟に金融政策を繰り出す中央銀行のあり方を、ドリブルでピッチを縦横無尽に駆け抜けたマラドーナ氏になぞらえ、「マラドーナ理論」と称したと伝えられています。

本来は、複数の国家の集合体であるECB・ヨーロッパ中央銀行に比べて、1つの主権国家の1つの中央銀行であるBOEの方が金融政策に柔軟性を持ちやすいという意味で語られたそうですが、「金融緩和と円安」「物価上昇と景気下支え」といったジレンマに直面し、どちらにも動きにくい日銀の立場を言い当てているように感じました。

注目予定

4月27日から28日にかけて開催される日銀の金融政策決定会合。

2日目の会合終了後、決定内容と物価上昇の見通しなどを示す「展望レポート」もあわせて公表します。

黒田総裁が会見で、「強力な金融緩和を粘り強く続ける」としている金融政策の方向性や、「円安は日本経済全体としてはプラス」としている原材料価格高騰・円安などの影響について、どのように言及するかが注目です。