GW直前 “超個性派ホテル”の世界へようこそ

GW直前 “超個性派ホテル”の世界へようこそ
まもなく始まる大型連休。
緊急事態宣言などによる行動制限がない大型連休となれば、実に3年ぶりです。ただ、感染がなかなか収束せず、旅行で遠出していいのか迷っている方も多いのではないでしょうか。
こうした中で人気なのがホテルに滞在すること自体を楽しむ旅行のスタイル。
“超個性派”の「コンセプトホテル」が次々と登場しています。
ホテルにこもって趣味に没頭する、そんな休暇はいかがですか?
(経済部 記者 真方健太朗/サタデーウオッチ9 長野幸代)

鉄道ファン注目「シミュレータールーム」

私(長野)が最初に訪れたのは、東京 丸の内のホテル。
鉄道ファンのために今月オープンしたばかりの“トレインルーム”です。
客室に入ると目に飛び込んで来たのが、モニターやメーターがついた異様な装置。なんと、運転士が実際に訓練で使うシミュレーターが部屋に備えられています。
ここは、JR東日本グループのホテルで、列車の加速や減速を行うマスコン(マスターコントローラー)などの装置は、JRで実際に使っているものを忠実に再現しています。

そして客室からの眺望も圧巻。
東京駅に隣接するビルの28階にあるこの部屋からは、およそ120メートル下にある線路を真上から眺めることができます。
線路には「はやぶさ」や「こまち」「かがやき」などの新幹線や、特急列車、在来線などがひっきりなしに行き交います。

実は東京で働くようになってから電車を眺めるのが大好きになった「にわか鉄道ファン」の私。この部屋、たまりません…。
ホテルメトロポリタン丸の内 蓮見秀樹 総支配人
「一晩中、ここに座って鉄道の運転を体験できますし、一日中、電車を眺めることもできるので、都会の一角で非日常を体験できると思います。発売初日からかなりの手応えを感じています」

自信満々で運転体験に挑戦も…

ホテルの蓮見総支配人の手ほどきを受けながら、私も運転体験に挑戦。まずは初級コースで、京浜東北線の東京駅を出発です。
長野
「もちろん初めてですが、余裕です!」
蓮見総支配人
「マスターコントローラーをひいて電車を発進させて下さい」
長野
「動きました、あ、すごいすごい」
蓮見総支配人
「有楽町に向かっていますね、あと600メートルです」
長野
「これ、フレッシュひたち?なんだこりゃ?」
「めちゃくちゃ楽しい。電車とすれ違うので本当に運転しているような気がします」
画面に映るのは、列車からカメラで撮影したリアルな風景。
アナウンスやベルの音声なども、実際の車両で収録したものを使っていて臨場感があります。
特急「ひたち」など、好きな列車ともすれ違いテンションが上がりますが、東京駅と有楽町駅の間はわずか800メートル。
あっという間に停車の準備をしなければいけません。
蓮見総支配人:
「駅の途中で時速45キロくらいに落として下さい今、非常ブレーキかけましたよ!ああー、途中で止まっちゃいました」
長野:
「あ、動かします!(マスコンをパシパシ)
「止まった、止まった、いえーい。楽勝です」
蓮見総支配人:
「でも、手前で非常ブレーキで止まりましたからね…」
浜松町駅ではスピードを出しすぎて、オーバーランしてしまった私。
電車の運転は減速の加減がとても繊細で、思ったより難しかったです。

絶対に起きられる装置!?

鉄道ファンをとりこにする装備はこれだけではありません。
ベッドには、鉄道ファンにはおなじみのあの仕掛けが…。
そう、寝坊が許されない宿直の乗務員などが使っている「定刻起床装置」です。
設定した時刻になると、背中の部分が空気で膨らみ、いわば強制的に起こしてくれる仕組みになっています。
蓮見総支配人
絶対に起きられる装置と言われています」
「鉄道の乗務員は必ず起きなければいけないですからね。体験してみますか?」
長野
「本当に起きられるのかな…」
長野
「これは確かに、寝心地が急に悪くなって起きるかもしれない…」
「でも、このまま枕にして寝ちゃったらいけないのかな?」
蓮見総支配人
「それはダメでしょうね…」
ほかにも鉄道にまつわる秘密の仕掛けがあるというこちらの部屋。
1人で宿泊すると1泊3万7000円からですが、5か月前から予約をする人もいて反響は大きいそうです。
ホテルメトロポリタン丸の内 蓮見秀樹 総支配人
「コロナ禍で大人数で遠くに行くという旅行はだんだん無くなってしまい、ホテルにとってこの2年間は大変な打撃で非常に厳しい状況でした。ホテルの予約が急激に回復することはないかもしれませんが、徐々に回復する需要に乗り遅れないようにしたいです」

「ステイケーション」って何?

遠くに旅行するのではなく、近場などでホテルに滞在すること自体を楽しむ旅行のスタイル。

滞在を意味する「ステイ(Stay)」と、休暇を意味する「バケーション(Vacation)」を組み合わせて「ステイケーション」と呼ばれ、コロナ禍で需要が拡大しています。
リクルートの調査研究機関が去年4月に行ったアンケート調査。
宿泊旅行の目的について複数回答で訪ねたところ、「宿でのんびり過ごす」が大きく上昇して半数近い46.8%に。

コロナ前に1位だった「地元の美味しいものを食べる」や「温泉や露天風呂」を抑えてトップになりました。

ホテルへの滞在を中心にする旅行のシフトチェンジ、確かに進んでいるようです。
リクルート じゃらんリサーチセンター 森戸香奈子 主席研究員
「コロナ禍では大人数で観光スポットをたくさん回る旅行はやめて、宿泊施設で完結する旅行が増えています。4、5人で行く旅行は『どこへ行く』『何をする』にも合意形成が必要ですが、1~2人だと趣味や好きなことでまとまりやすい。コロナの影響などで旅行の人数=グループサイズが小さくなったことで、ホテル滞在などのテーマ性が強い旅が目立つようになっているという傾向があります」

ワンちゃんと滞在するホテル

こうした「ステイケーション」。
コロナ禍で失われつつあった新しいコミュニティー作りにもつながっています。
私(真方)が訪れたのは、ことし2月に東京・港区にオープンしたホテル「inumo芝公園」です。
ホテル内には、広さ76平方メートルの「ドッグラン」や、体の手入れをする「グルーミング」のサロン、そして愛犬と一緒に入れるレストランなどが備えられ、「愛犬と滞在すること」に特化しています。
チェックインが始まる午後3時ごろ。
都内からペット連れの家族がやってきました。連れてきたのはポメラニアンの「モモ」と、シープドッグの「ヴァン」です。

部屋に入った「モモ」は、さっそくベッドの上で遊んだり、だっこしてもらったりしてリラックス。
普通のホテルでは、犬がベッドやソファにそのまま上がることはご法度ですが、このホテルでは、おむつさえ付ければ、飼い主と一緒にベッドの上でくつろぐことができます。
一方の「ヴァン」は、グルーミングのためホテルの地下へ。
自慢のさらさらヘアーをシャンプーしたあと、爪を切ったり歯をみがいたりしてもらってご満悦の表情でした。

ワンちゃんファーストの部屋

愛犬と過ごすために、もはやベッドまで取り除いてしまった部屋もあります。

シーズーの「華丸」が泊まっていたこちらの部屋。犬が広い床で遊べるように、寝る時だけソファを組み替えてベッドにするんだそうです。
華丸の飼い主
“ワンちゃんファースト”ならいいのかなって思います。ソファーも寝心地悪い感じじゃないので。ベッドがあるとどうしても隙間をワンちゃんが通るだけになってしまうので、ここだと家にいるような感覚で過ごせるのでいいと思います」
幼少期に犬にかまれた経験から、実は犬が苦手だった私(真方)。

今回も最初はビクビクしながらの取材でしたが、遊び疲れた「華丸」がクッションの上でうつぶせになる姿のあまりのかわいさに、思わずカメラマンより前に出て、スマートフォンで写真を撮りまくってしまいました。

愛犬家どうしの交流も

地下にあるドッグランでは、「華丸」と、柴犬の「こたろう」が遊んでいました。
こたろうの飼い主:
「うちの子は6歳です」
華丸の飼い主:
「うちもいっしょです!6月で6歳」
同い年の愛犬を持つママ友ができた瞬間。
宿泊者はみんな「愛犬と滞在すること」が目的なので、自然と会話が弾み、新たな出会いも旅の楽しみになっているといいます。

2名で宿泊すると1泊5万600円から。愛犬は2匹まで同伴できます。
こたろうの飼い主
「コロナで家にこもっている子が多くて、こういう機会がないと飼い主どうしが接することができないので。公園デビュー的な感じです」
華丸の飼い主
「このホテルは『この人、犬は大丈夫かな』という心配がありません。みなさんワンちゃんがいらっしゃるので気軽に声をかけて親しくなるきっかけになるかなと思います」

超個性派ホテル 続々と

こうした超個性派のコンセプトホテル。
全国各地で続々と登場しています。
・本に囲まれるホテル(神奈川 箱根町)
・宿泊できる映画館(東京 墨田区)
・酒蔵がホテルに(奈良市)
・廃校でグランピング(静岡 島田市)
・忍者ルームがあるホテル(東京 台東区)
コロナ禍で厳しい状況が続くホテル業界。
専門家は「選択と集中」の決断が迫られていると指摘しています。
リクルート じゃらんリサーチセンター 森戸香奈子 主席研究員
「実は徹底的に専門性を出せば、ファンになってくれる人のネットワークで全国に広がります。ファンに刺さるものがあれば濃いファンに支えられて予約が取れないホテルになる。コロナがすぐに消滅するわけではないので、ウィズコロナに合致したプロモーションを考えなくてはいけません」
大手旅行会社のJTBは、ことしの大型連休の期間中に国内旅行に出かける人は1600万人と見込んでいて、東京や大阪などに緊急事態宣言が出ていた去年の大型連休より、およそ70%増える見通しだとしています。

ただ、感染者数の高止まりが続き、コロナ前と比べるとまだ6割程度。ホテル業界は厳しい経営環境が続いています。

「安心」と「楽しさ」を両立し、新たなファンを呼び込むことができるのか。これからも注目していきたいと思います。
経済部 記者
真方健太朗
帯広局、高松局、広島局を経て経済部。国土交通省を担当。
北海道でおいしいものが食べたい。
サタデーウオッチ9 経済キャスター
長野幸代
岐阜局、鹿児島局を経て経済部。4月から経済キャスター。
ふるさと種子島でのんびりしたい。