プーチン大統領 マリウポリ掌握と主張 製鉄所の攻撃中止を命令

ロシアのプーチン大統領は、ウクライナ東部の要衝マリウポリを掌握したと主張したうえで、ウクライナ側の部隊が拠点とする製鉄所については攻撃を中止し、一帯の包囲は継続するよう命令しました。
これに対しウクライナ側は、製鉄所をめぐる状況は何も変わらず、プーチン大統領の主張は国内向けに勝利を強調したいだけにすぎないと反発しています。

ロシア大統領府は21日、プーチン大統領がショイグ国防相からウクライナ東部の要衝マリウポリの状況を巡って報告を受けたと発表しました。

このなかでショイグ国防相は「マリウポリ全体が、ロシア軍と親ロシア派の支配下にある」と述べ、マリウポリを掌握したと主張した一方で、製鉄所には、今もウクライナ側の部隊2000人以上が残っていると説明しました。

これを受けてプーチン大統領は「マリウポリを解放するための戦闘は完了し、成功した」と主張し「これ以上の攻撃は適切とは思えない」と述べ、製鉄所への攻撃を中止するよう指示しました。

そのうえで「ハエ1匹通さないよう一帯を封鎖するように」と述べ、製鉄所がある工業団地一帯の包囲は継続するよう命令しました。

一方、ウクライナ大統領府の顧問のアレストビッチ氏は21日、動画で「プーチンが攻撃の中止を命じたのは、物理的に製鉄所を奪えないからだ。ロシア側は大打撃を被った。ウクライナの部隊は、製鉄所の防衛を続けている」と述べ、ロシア軍が製鉄所を掌握するのは難しいと強調しました。

また、マリウポリ市長の顧問も21日、SNSで、「製鉄所にいる兵士と市民の状況は何も変わらない」と訴えたうえで「破壊された場所を背景に、ありもしない勝利をなんとかして報告したいというプーチンの希望があるだけだ」とコメントしています。

プーチン大統領は、旧ソビエトが第2次世界大戦でナチス・ドイツに勝利した来月9日の「戦勝記念日」に向けて、マリウポリの掌握を重要な戦果として、国内向けに強調したい思惑があるとみられています。

ウクライナ側は、マリウポリを掌握したなどというプーチン大統領の主張は勝利を強調したいだけにすぎないと反発しています。

マリウポリとは

ウクライナ東部の都市マリウポリは、ドネツク州にあるアゾフ海に面した港町です。

石炭や鉄鋼などの輸出の拠点になっているほか、沿岸部には工場も建ち並ぶ港湾都市として栄えてきました。

2014年からは、東側の親ロシア派の武装勢力と対じする前線にもなってきました。

一方、ロシアにとっては、マリウポリの南西にはロシアが一方的に併合したクリミアがあり、ロシア南部からクリミアまでを陸路で結ぶ重要な場所になっています。

またマリウポリは、ロシアが「ネオナチ集団」と敵視するウクライナの精鋭部隊「アゾフ大隊」の拠点があり、ロシア軍は軍事侵攻を始めた当初から街の掌握に向けて攻撃を続けてきました。

マリウポリを包囲するロシア側との間で激しい市街戦が伝えられ、女性や子どもが避難していた劇場や学校も爆撃を受けるなど、ウクライナ側は深刻な人道危機が続いていると訴えていました。

ロシアによる軍事侵攻が始まる前の人口は40万余り。

マリウポリのボイチェンコ市長は、今月11日「2万1000人の市民が殺害された」として、少なくとも人口の5%に当たる市民が犠牲になったという見方を示しています。

また、避難できずにいる市民のため「人道回廊」と呼ばれる避難ルートが設置されてきましたが、ウクライナ側は、ロシア軍が攻撃をやめず市民の避難を妨害しているとたびたび訴えています。

ロシア側の攻勢で、ウクライナ側の部隊が拠点としてきた製鉄所をめぐり攻防が続き、ロシア国防省は重ねて降伏を呼びかけてきましたが、ウクライナ側は徹底抗戦の構えを示していました。

アメリカ国防省「りゅう弾砲」提供の背景

アメリカ国防省は、ウクライナへの追加の軍事支援として「155ミリりゅう弾砲」18門と、4万発の砲弾を提供するとしています。

りゅう弾砲は、大口径の砲弾を、数十キロ先の敵の陣地などに大量に撃ち込むことで、広いエリアを一気に制圧することができる重火器で、陸上自衛隊でも運用しています。
アメリカがりゅう弾砲を提供する背景について、安全保障に詳しい、東京大学先端科学技術研究センターの小泉悠専任講師は、戦闘の焦点がウクライナの東部に移っていることをあげ「東部のドンバス地方は、非常に開けた土地で隠れる場所がないので、両軍が真正面からぶつかり合う戦闘になる。そうすると、相手に対してどれだけ集中的に火力を発揮できるかが重要になる」と指摘しています。

そのうえで「ここまでロシアはかなり苦戦してきたが、東部のような平地での戦いであれば、相当な戦力を発揮する可能性が依然としてある。逆にウクライナや西側諸国から見れば、ここでロシア軍の攻勢を頓挫させられれば、当面ウクライナへの大規模な侵略を行うことが不可能になる展開が望める。今回の戦争全体のすう勢にもかなり影響してくるので、こうした大型兵器の援助は戦略的な価値が高い」と話しています。

「バンカーバスター」とは

ウクライナ側は、マリウポリの製鉄所に対してロシアが「バンカーバスター」とも呼ばれる、特殊な爆弾を使って攻撃していると主張しています。

これは厚いコンクリートなどを突き破ったあとで爆発を起こし、地下の軍事施設などを攻撃するために使用されます。

ロシアの軍事戦略や装備体系に詳しい東京大学先端科学技術研究センターの小泉悠専任講師は「主にアメリカ軍がテロとの戦いや北朝鮮などを念頭に重視してきた兵器で、ロシア軍も戦闘機などから投下するタイプを開発、配備しているが、過去に大々的に使用されたケースは聞いたことがない」と話します。

今回、実際に使用されたとすれば、地下のトンネルに潜り込んで抵抗を続けるウクライナ側の兵士を攻撃するためだと考えられるとしたうえで、「地中にはかなり複雑にトンネルが走っているはずで、地上からはどこに誰がいるかわからないため、使用されたとして、果たしてどれくらい効果があるかはわからない」と指摘しています。

また、「地下には兵士だけでなく多数の民間人もいるとされ、どうやって区別しているのか、あるいはそもそも区別する気がないのか、そのあたりも問題だ」と述べ、民間人の犠牲がさらに広がることへの懸念を示しました。