IMF 世界経済成長率見通しを下方修正 ロシアの軍事侵攻が影響

IMF=国際通貨基金は、ことしの世界全体の経済成長率の見通しを、これまでの予想より0.8ポイント低い3.6%へと下方修正しました。ロシアによるウクライナ侵攻をきっかけにしたエネルギーや穀物価格の高騰が背景にあり、侵攻が世界経済にも大きな影響を及ぼしています。

IMFは19日、世界経済の最新の見通しを公表し、ことしの世界全体の成長率を3.6%と、前回、3か月前に比べて0.8ポイント下方修正しました。

ロシアによるウクライナへの軍事侵攻をきっかけにエネルギーや穀物の価格高騰に拍車がかかっていることに加え、ロシアへの厳しい経済制裁に伴って各国の貿易も落ち込んでいくとみているためです。

このうち、経済制裁を受けるロシアは11.3ポイント引き下げてマイナス8.5%とし、ウクライナも、成長率がマイナス35%に落ち込むとしています。

また、双方と経済的な関係の深いユーロ圏の成長率は2.8%と、1.1ポイント下方修正されました。

このうちドイツは1.7ポイント引き下げて2.1%と各国の中でも大きな影響を受ける形になり、イタリアも1.5ポイント引き下げて2.3%になるとしています。

このほか、日本も原油高の影響を受けるとして0.9ポイント引き下げて2.4%としました。

アメリカは、ロシアとの経済的なつながりは限られるとして、0.3ポイント低い3.7%としました。

一方、新型コロナウイルスの感染が拡大し、厳しい規制が続く中国は0.4ポイント引き下げて4.4%としました。

IMFは「戦争が世界経済の先行きを不透明にしている。世界の分断は、長期的な成長に欠かせない各国の協力も阻んでしまう」と警鐘を鳴らしています。

IMFトップ「各国経済にはっきりとした脅威」

IMF=国際通貨基金のトップ、ゲオルギエワ専務理事はNHKのインタビューで、ロシアによるウクライナ侵攻について、「まだ新型コロナウイルスの影響から立ち直っていない中で、危機の上に危機を重ねることになった。インフレに拍車をかけ、多くの国の経済にはっきりとした脅威をもたらしている」と述べ、世界経済への影響に懸念を示しました。

そのうえで、「世界情勢は緊迫しているが、世界経済をこれ以上悪化させないために各国の協力が必要になっているのは明らかだ」と述べ、影響を抑えるために、各国の緊密な連携が不可欠だと呼びかけました。

日本でも物価上昇

ロシアによるウクライナ侵攻の影響もあって、日本でも物価上昇が続いています。

家庭で消費するモノやサービスの値動きを示す消費者物価指数は2月に、生鮮食料品を除いた指数が去年の同じ月を0.6%上回り、6か月連続で上昇しました。

中でも、電気代やガソリンなど「エネルギー」の価格が20.5%の大幅な上昇となったほか、家計に占める割合の高い「食料」も2.8%上昇しました。

企業の間で取り引きされるモノの価格を示す3月の企業物価指数は39年ぶりの水準まで上昇していて、物価上昇による企業収益の悪化や、個人消費の減速が懸念されています。

ロシア侵攻 ドイツ企業にも影響

ドイツの企業もロシアのウクライナ侵攻に伴うエネルギー価格の高騰やロシアに対する制裁などで影響を受けています。

ドイツ南西部に本社がある工場や病院などで使われるファンをつくるメーカーは、ロシアに対する経済制裁の影響で、会社の売り上げの2%を占めるロシアの組み立て工場にドイツから部品を出荷できなくなりました。

ロシアの工場には30人が働いていましたが、組み立てができないため、閉鎖したということです。

また、自社のファンが納品されるはずだったほかの国の会社がロシアで計画していたビジネスが立ち消えになるといった間接的な影響も出ているということです。

さらに、工場で使う天然ガスの価格が上昇したり、輸入を停止したロシア産のニッケルの代わりをほかから高い値段で調達しているため、製造コストが上昇し、経営環境が厳しくなっています。

ファンを製造する会社、「ツィール・アーベック」のペーター・フェンクル社長は、「わが社が影響を受ける多くの不安要素があり懸念を抱いている。ひとりの人間として、そしてビジネスを続けるためにも戦争が終わることを毎日祈っている」と話していました。

ドイツ 消費者物価指数が記録的上昇

ドイツの先月の消費者物価指数は、前の年の同じ月と比べて7.3%の上昇と、東西ドイツが1990年に統一されて以来、最も高い記録的な上昇になっています。

首都ベルリンで市民に話を聞くと「電気やガスの請求書を見るのが怖い」とか、「エネルギー、食料品、あらゆるものが値上がりしている。いらないものは買わず、多くのものを節約している」といった声が聞かれました。

上昇が特に著しいのがウクライナ情勢の影響で国際的に高騰しているエネルギー価格で、先月は前の年の同じ月と比べて39.5%の上昇となりました。

こうした中、ベルリンでは春を迎えるこの時期にふだんなら需要が下がるまきや木炭を買い求める人が増えています。

ドイツでは多くの家庭にガスを燃料に使う暖房が備え付けられていますが、まきストーブが残っている古い家もあり、そうした家に住む人たちが、ガスの値上がりが懸念されるため再びストーブを使うために買い込んでいるということです。

店主によりますと、今月は例年の1.5倍の売り上げを見込んでいて「冬の前のような忙しさだ。30年ぶりのお客さんから『たくさん届けてくれ』と依頼されたこともあった」と話していました。