ANAHD芝田新社長 黒字化戦略を語る「回復需要 すべて取る」

ANAHD芝田新社長 黒字化戦略を語る「回復需要 すべて取る」
新型コロナの感染が続いた2年間、強烈な逆風が吹いている航空業界。
4月、ANAホールディングスの新社長に芝田浩二さんが就任しました。

鹿児島県の離島の出身で、社内きっての国際派としても知られる芝田さん。今年度の黒字化達成に向けてどのようなかじ取りを行うのか、戦略を聞きました。
(経済部記者 真方健太朗)

コスト削減で“いったん小さな会社に”

「“いったん小さな会社となって”コロナの波を乗り切っていくんだということで、全社一丸となって事業構造改革、コスト削減に取り組んできた」
2年連続の赤字の見通しとなっているANAホールディングス。

今月、新たに社長に就任した芝田さんに今年度の黒字化に向けた戦略を聞くと“いったん小さな会社になる”という独特の表現でこれまでの取り組みを振り返りました。
会社では、300機余り保有していた航空機をおよそ1割削減。

そして、これまでに従業員のべ2100人を外部のホテルやコールセンターなどに出向させたり、年収ベースで賃金を3割カットしたりするなど徹底した対策に取り組みました。

さらに日々の飛行機の運航でも、予約者が少なければ小さな機体に変更するなど、機動的な機体運営でむだをそぎ落としていきました。

文字どおり、会社の規模を小さくして、黒字化を達成しやすい経営環境を目指してきたのです。
こうしたコスト削減の結果、感染が落ち着き一時的に需要が戻っていた去年10月から3か月間の決算では、8四半期期ぶりに営業黒字を達成。

スタートしたばかりの今年度・2022年度は通年の決算でも“黒字化は必達”だとしています。
芝田社長
「足元ではコストサイドの効果は現れてきています。今後は回復需要をどうやって拾っていけるか摘み取っていけるか、これが黒字化の大きなファクターになっていくと思う」

海外出張700回、復活のカギは「国際線」

芝田社長が本格的な業績の回復のカギと見るのは「国際線」です。

国際線の利用客は、今は新型コロナ前の2割程度にとどまっていますが「需要は必ず戻る」と言い切ります。

オンラインでさまざまなコミュニケーションができるようになってきたとは言え、ビジネスパートナーと直接面会して商談をする必要性や、遠くに住む家族や友人に会いたい、観光で現地を訪れたいというニーズは強いと感じているためです。

実は芝田さん、「社内きっての国際派」と呼ばれ、国際線にはなみなみならぬ思い入れをもっています。

入社以来、海外出張は700回を超え、ヨーロッパ駐在も経験しました。
これまでに取得したパスポートは11冊。

どのページにも出入国のスタンプがびっしりと押されています。

芝田さんの海外への強いこだわりは、幼いころにルーツがありました。

芝田さんは鹿児島市からおよそ450キロ離れた離島、奄美群島の加計呂麻島の出身です。
釣りが大好きだったという少年時代、港から外国と行き来する船を間近に眺めて育ち、海外を自由に飛び回りたいという夢を持つようになりました。
芝田社長
「加計呂麻の私の生まれ育った集落は目の前に大きな湾が広がっています。非常に水深があって静かな湾なんですけども、台風がいざ近づくと外国航路の大型貨物船や客船が避難してくる湾なんですね。

私どもの集落から沖を見ると、ズラーッと大きな船が並ぶんですね。その船に乗ると世界に行けるっていう、そういう夢を胸に抱かせるような光景なんですね。

で、それを見て、いつかあの船に乗って世界に行ってみたいなっていう思いは持ちました」
海外への強いあこがれを持った芝田さんが選んだ進学先は東京外国語大学。

在学中に2年間休学して中国へ渡り、北京の日本大使館で派遣員として勤務しました。
その当時、国際線のチャーター便を飛ばし始めていた全日空のクルーの姿を北京空港で見かけ強く印象に残ったそうです。

そして、大学を卒業後、国際線の拡大に貢献したいと全日空に入社しました。
芝田社長
「ふるさと鹿児島の航空会社は当時は全日空しかなかった。そんな鹿児島空港で見た景色を北京の空港で目撃し、キャビンアテンダントが空港の中を歩いている姿がものすごくかっこよく印象的に映ったんです」

国際線新ブランド「回復需要の“総取り”狙う」

先月、ANAホールディングスは、国際線で攻めの一手を打ちました。

コロナ後の需要回復を見越して、新ブランド「エアージャパン」の立ち上げを発表しました。
ANAホールディングスには今、2つのブランドがあります。

アメリカやヨーロッパなど長距離を結び、ファーストクラスや機内食の提供などフルサービスを行う「ANA」。

価格が安く、中国や台湾など近距離を得意とするLCC(格安航空会社)の「ピーチ」です。

そして今回3つ目のブランドとして投入する「エアージャパン」が担うのは、東南アジアやオセアニアなどの中距離路線です。
座席など機内の居住性にこだわりつつ、サービスをオプションにすることで価格をLCC並みに抑え、ANAとピーチの“良いところ取り”を目指します。

今後、航空需要がどう回復していくのか見通せない中、安価にすることで観光需要を取り込みつつ、居住性を高め、追加料金でサービスを提供することで、ビジネス需要も獲得したいねらいです。
芝田社長
「特に東南アジア・アジア・オセアニア、ここを含めたマーケットは注視しています。そこのマーケットに対応するための機材、あるいはブランド、サービス、ここはしっかり確保する必要があると判断したので、そこに新しく三の矢、3つ目の武器を用意しました。

この3つのブランドで回復需要をすべて取っていく。私はよく“総取りだ”と言っていますが、取りこぼさないという覚悟を持ってやっていきたいと思います」

ポストコロナにらみ メタバース事業立ち上げ

一方で、コロナ禍の現状をふまえて、非航空事業にも力を入れています。

その1つが、今注目されている「メタバース」です。

仮想空間で旅行体験や買い物などができるサービスをことし中に立ち上げる計画です。
人気テレビゲームのクリエーターを招いて、京都などの観光地をリアルに再現。

まずは、仮想空間での体験をきっかけに日本に関心を持つ外国人の顧客を増やし、感染が落ち着いたら、飛行機に乗って現実の日本に訪れてもらおうという考えです。

会社では、こうした非航空事業による収入を2025年度には、2020年度の2倍、4000億円に増やす目標です。
芝田社長
「メタバースを見て『日本に行って桜を見たい』とか『日本に行って京都に行ってみたい』となって、外国の方がわれわれの経済圏に加われば、今3700万人のマイレージ会員が5000万になり、いずれ1億人になる。これは全く夢ではないと思っています。

こういった新規事業の種まきはもう終わっているので、それぞれの事業領域でそれぞれの会社が個別に成長していく。グループ全体の底上げにつながっていくと思います」
今回の取材の中で、芝田社長が、お互いに尊敬すると書いて「互尊」ということばを繰り返し述べていました。

住民が互いに寄り添って生きてきたという島での暮らし。

ANAでも、海外の航空会社と互いに理解を深めることを大切にしながら、仕事を進めてきたということです。

芝田さんは経営トップになっても「互いを尊重する気持ちを大切にしてグループ全体の力の結集につなげたい」と話していました。

ANAは現在、一時金のカットなど従業員に2年間にわたり我慢を強いている状態です。

コロナ影響が長期化する中、先行きが見通せないと航空業界を離れる人も出てきています。

従業員と一丸となりつつ黒字化も達成する、難しいかじ取りをどう担っていくのか、今後も注目していきたいと思います。
経済部記者 
真方健太朗
帯広局、高松局、広島局を経て、現在経済部で国土交通省を担当
芝田社長と同じ鹿児島出身