ウクライナから避難してきた人を支援 活用進むAI「自動翻訳」

ウクライナから日本に避難してきた人たちの受け入れが進んでいます。

そこで課題となるのが“ことばの壁”。

国内各地の支援の現場では、AIを使った「自動翻訳」の技術が活用されるケースが増えていて、ウクライナと日本の懸け橋として需要が高まっています。

課題は“ことばの壁”

ウクライナから国内に避難した人の数は今月13日の時点で557人に上っています。政府は今後も避難民を積極的に受け入れ就労や教育などを支援していく方針ですが、避難生活は長期化する可能性もあり、“ことばの壁”の問題にどう対応していくかが大きな課題となっています。
こうした中、国内ではウクライナ語への関心が高まっていて、東京外国語大学で開かれている社会人向けのウクライナ語講座の受講者は例年より3割ほど増加しているということです。参加した埼玉県の20代の男性は「国内にウクライナ語をある程度理解できる人はすごく少ないと思います。日本に避難してことばの壁を感じている人のハードルを少しでも下げられればと思っています」と話していました。

自動翻訳の技術に注目集まる

“ことばの壁”の問題に対応するため、注目されているのはAIを使った「自動翻訳」の技術です。
法人向けにネット上で文書を自動翻訳するサービスを提供している東京 千代田区のIT企業には「ウクライナ語に対応したサービスはないか」という問い合わせが企業や自治体から相次いでいるということです。これまで英語や中国語など20余りの言語に対応していましたが、今月からウクライナ語に対応する機能を追加しました。
サービスを提供しているテリロジーサービスウェアの小野宏之事業部長は「避難民の受け入れで課題となるのがことばの問題だと思う。多言語の翻訳ソフトを提供する企業として力になりたい」と話していました。

「携帯型」通訳機の活用も広がる

支援の現場ではウクライナ語と日本語の会話をその場で通訳してくれる携帯型の通訳機の活用も広がっています。
東京 港区のAI通訳機のメーカーは在日ウクライナ大使館に1000台を無償で提供したほか、ポーランドで支援活動を行っている団体にも300台を提供したということです。

メーカーには自治体からの問い合わせも相次いでいて、東京 狛江は市内に避難している日本語や英語が話せない70代の女性に端末1台を貸し出しました。今後も希望者がいれば積極的に貸し出す方針です。狛江市政策室の冨田泰政策室長は「翻訳機をお持ちいただくことで避難生活の不安を少しでも和らげてほしい」と話していました。
メーカーによりますと、この通訳機はこれまでに世界で90万台以上が販売され、ウクライナ語を含めた70の言語に対応しています。

ウクライナ語が翻訳の対象となった回数は急増していて、侵攻前のことし1月中旬と侵攻後の3月下旬を比較すると
▽ウクライナ語からほかの言語への翻訳回数は5倍に
▽ほかの言語からウクライナ語への翻訳回数は13倍に
増加しているということです。
AI通訳機を開発・販売しているポケトーク株式会社の松田憲幸社長は「日本での生活は銀行口座を作るのも大変だし通訳機はすごく助かるという声も聞いています。今後も避難した人や支援する人に役立ててほしいと思います」と話しています。

今後の可能性は…

専門家は、ウクライナからの避難民受け入れは自動翻訳の技術のさらなる普及や発達につながる可能性があると指摘しています。
自動翻訳の技術に詳しい大阪大学の栄藤稔教授は「自動翻訳は利用者や翻訳物が多い言語ほどAIが学習し精度が高くなり、冷戦やEUの発足など時代の要請に合わせて発展してきた経緯があります。避難民の受け入れが翻訳技術のさらなる普及や発展につながり、ことばの通じない人どうしのコミュニケーションの在り方は今後さらに変化していくのではないか」と話しています。