ロシア海軍「モスクワ」沈没 ウクライナ製の対艦ミサイルとは

ロシア国防省は、黒海艦隊の旗艦「モスクワ」が沈没したと発表し、今後のウクライナへの軍事侵攻に打撃になるという見方がでています。沈没の詳しいいきさつはわかっていませんが、ウクライナ側は「ウクライナ製の対艦ミサイル『ネプチューン』が『モスクワ』に命中した」と主張しています。

ロシア国防省は14日、黒海艦隊の旗艦「モスクワ」について「火災で船体が損傷し、港にえい航される途中だったが、船は安定性を失い、海が荒れる中で沈没した」と発表しました。

「モスクワ」は、ロシア海軍の黒海艦隊の旗艦です。
ロシア国防省によりますと1983年に就役し、ソビエト崩壊後の1999年、ウクライナ南部クリミアにある軍港セバストポリを拠点とするロシア黒海艦隊の旗艦となりました。乗組員は最大680人で「バザリト」と呼ばれる巡航ミサイル16発や魚雷などを搭載できるということです。
2008年のロシアによるジョージアへの軍事侵攻のほか、2015年にロシアが軍事介入したシリア内戦にも派遣されるなど、ロシア海軍の主力と位置づけられています。

ウクライナ軍「国産の対艦ミサイルが命中」

「モスクワ」が沈没した際の状況について、ウクライナ軍の報道官は14日、地元メディアの取材に対し「ウクライナ製の対艦ミサイル『ネプチューン』が『モスクワ』に命中した。『モスクワ』は大きな損害を受けて火災が発生した。ほかの船が支援を試みたが、海が荒れていたことに加え爆薬が激しく爆発したため、バランスを崩して沈没し始めた」と説明しました。

射程はおよそ300キロ

「ネプチューン」は、ウクライナ製の対艦巡航ミサイルで、陸上や海上、空から発射することができます。射程はおよそ300キロでフリゲート艦や小型の駆逐艦に対して有効とされます。

ウクライナの地元メディアによりますと、ロシアが一方的に南部クリミアを併合した2014年以降、黒海やアゾフ海の防衛を目的に開発が進められ、去年3月に海軍に正式に配備されたということです。

米国防総省 「黒海艦隊にとって大打撃」

アメリカ国防総省のカービー報道官は14日、出演したCNNテレビで「何が原因で沈没したのか独自に確認することはできないが、ウクライナ側がミサイルで攻撃したというのはもちろん妥当で、ありうることだ」と述べた上で「黒海艦隊にとっては大きな打撃だ。500人近い乗員を乗せた非常に有能な巡洋艦であり、ロシア軍の戦力に影響を与えるだろう」と指摘しました。

米シンクタンク 「ロシアは最も重要な艦艇の1隻を失った」

アメリカのシンクタンク「戦争研究所」は14日、「ロシア海軍に反撃するウクライナの能力の象徴としてウクライナ兵の士気を高めることになる。逆にロシア側は、最も重要な艦艇の1隻を失ったことの説明に苦労し、ロシア兵の士気が損なわれるだろう。ロシア国民にも隠し通せないものとなる」と指摘しています。

イギリス国防省も15日の分析で「『モスクワ』は指揮と防空任務で重要な役割を果たしていた」と指摘したうえで「軍事侵攻以来、3月24日にロシアの揚陸艦が損害を受けたのに続く、主要な損害だ。ロシア軍が黒海での態勢を見直すことにつながる可能性がある」として、今後のロシア軍によるウクライナへの軍事侵攻に打撃になるという見方を示しました。

元海自幹部に聞く 沈没の原因は?

世界に衝撃を与えた「モスクワ」の沈没。原因と今後の影響について、海上自衛隊で司令官を務めた元海将の香田洋二さんに聞きました。
香田さんによりますと、沈没の原因については「艦内で火災が起き、弾薬庫にまで燃え広がったケースとウクライナ側のミサイルが命中して爆発したケースが考えられるが軍艦は、火災に対しては二重三重の対策が講じられている。一方で、ミサイルが命中すると、対処する間もなく弾薬が爆発して手がつけられなくなり、大きな被害が出る」と話し、ミサイルが命中した可能性が高いという認識を示しました。

また、黒海に展開しているロシアの艦隊の主な任務は、
▽クリミア半島からウクライナ東部にかけての地域への海上からの物資輸送や
▽艦砲やミサイル攻撃による地上作戦の支援で、
沈没した「モスクワ」は、ミサイル攻撃からの防御を担うとともに、作戦全般を指揮する艦艇だったと指摘しています。

そのうえで、今後の影響について「旗艦=フラッグシップは艦隊、あるいは海軍全体にとって象徴的な船であり、いとも簡単に沈没してしまったことは、ロシア海軍の士気を大きく下げるだろう。ウクライナ側からのミサイル攻撃に対する防御の態勢をどうつくり直し、士気を維持するか、ロシアとしては新たな難題を抱え込んだと言えるのではないか」と話しています。

防衛省防衛研究所 高橋杉雄さん 船のミサイルに誘爆すれば

ミサイルが命中したとしたらどうなるのか、また沈没は今後の戦況にどう影響するのか。
軍事戦略に詳しい防衛省防衛研究所の高橋杉雄さんに話を聞きました。

「これでロシアの黒海方面における海軍力が大きな打撃を受けたというのが最初の印象ですね。ウクライナのミサイルによるのか、爆発事故なのかという情報が錯そうというか2つの情報があるわけですけども、ウクライナが攻撃した可能性も十分にあって、きょうの報道などを見ると、黒海艦隊のほかの5隻の船が沿岸から遠ざかっている。遠ざかっているとすればおそらくそれはウクライナ側のさらなるミサイル攻撃を恐れてということでしょうから、だとすればウクライナの攻撃が成功したということになります」。

沈没したモスクワはどんな船だったのか。
「1980年代の船、もう自衛隊ではほとんど存在しない年代の船ですから、それぐらいの船をまだ使っていなきゃいけない。決して強力な海軍と言えるわけではない。ただ黒海ということだけで見ると相手はウクライナ海軍だけですから、圧倒的な力になります。相対的に見ると黒海の制圧のうえでは非常に有力な船でした」。
今回、ウクライナ側が攻撃に使用したとしている対艦巡航ミサイル「ネプチューン」がもしモスクワに命中したとしたら、どんなことが起きたと考えられるのでしょうか。

「ソ連、ロシア型、および中国型の特徴で、搭載しているミサイルがものすごく大きいんです。何で大きなミサイルをつんでいるかというと、アメリカの空母を攻撃するために、長射程で、高速で突っ込んでいくミサイルが必要なんです。アメリカのトマホークは垂直発射スタイルといって、船の中に縦に入りますけど、少なくとも80年代のソ連では、そういう形の搭載できなくて、だから逆にいうと、ここに1発食らったら誘爆して全部だめだというのは、昔から言われていました」。

「最前線で事故で沈むということもウクライナ軍に沈められるということもどちらも恥ずかしいことなわけです。ロシア海軍というのはもともとかなり消極的な作戦を中心とする海軍でもあるのでこれによってやはりなかなか積極的な行動は取れなくなるのかなというように思います」。

「モスクワ」の沈没で南部での戦況については、ウクライナが有利になる可能性があると指摘します。
「ヘルソンからミコライウにかけても引き続き激しい戦闘がおこなわれています。「モスクワ」の防空システム S300によるカバーが失われるということは、そこが弱くなるので、ウクライナ空軍がロシアの地上部隊を攻撃できる可能性が高まってくる。この南部戦線の動向には大きな影響を及ぼすような可能性があります」。