ウクライナ避難民 国からの支援受け取れないケースも 課題は?

ウクライナから日本に避難してきた人たちへの経済的な支援について、政府は日本に親族や知人がいない人たちを対象に生活費などを支給する方針を示しました。

一方で、国の支援が及ばない部分を補填する形で自治体が独自に支援する動きも広がっていて「本来は国がルールを定めて対応するべきだ」と指摘する声も出ています。

支援の内容、そして課題は。詳しくお伝えします。

政府の支援内容は?

ウクライナからの避難民の受け入れをめぐり、政府は「日本に親族や知人がいない人たち」に対して生活費を支給することなどの支援を決定しました。

支援内容は以下のとおりです。

▽国が確保した一時滞在先のホテルにいる間食事の提供とは別に、
1日あたり以下の額を生活費として支給

12歳以上 1000円
11歳まで 500円

▽受け入れを申し出た自治体・企業などが提供する住居に移るため一時滞在先を出たあと
(いずれも1日あたりの支給額)
12歳以上 2400円(2人目以降 1600円)
11歳まで 1200円

支援額はどうやって決まったの?

出入国在留管理庁に取材したところ、一時滞在先を出たあとに支給する生活費の額については、生活保護の制度を参考に額を決めたということです。

生活保護で支給される「生活扶助」(食費や光熱費など)の額は地域や年齢などによって異なりますが、そのほぼ中央の値とおおむね同じ程度になるようにしたということです。

また、一時滞在先での支給額は食事の提供があるため、その費用を差し引いている分、少なくなっているということです。

一方で、日本に親族や知人など「身元保証人」がいる場合にはこうした生活費の支給はありません。

これについて出入国在留管理庁の担当者は「保証人が生活の面倒をみるということで入国してもらっているので、まずは身寄りのない人への生活費の支給をすることで支援の穴がないようにしている。保証人が生活の面倒をみられなくなった場合には柔軟に対応していきたい」と回答しました。

支援対象にならなかった人たちは?

一方、親族などを受け入れている人からは、支援を広げてほしいという声も上がっています。

千葉県松戸市に住む会社員の明宏さん(54)は、ウクライナで暮らしていた妻のオルヤさん(37)=(写真左)と生後8か月の息子とともに、オルヤさんの親族のクリスさん(33)と、その4歳の娘を先月18日から受け入れています。

明宏さんはオルヤさんやクリスさんたちをポーランドまで迎えに行き、渡航費は5人でおよそ70万円、ホテル代や新型コロナの検査費用を含めると100万円以上かかったということです。
現在、クリスさんと娘は明宏さんの自宅で一緒に暮らしていますが、クリスさんは日本語が話せず、就職の見通しも立っていないため明宏さんが生活のサポートをしています。

今後は、クリスさん家族の食費や光熱費などの生活費を毎月10万円ほど負担することになる見通しだということで、政府などに対して、日本に親族や知人がいて避難してきた人にも支援を広げてほしいと考えています。
明宏さんは「これまでの渡航費や生活費はすべて自己負担で、どこにも頼ることができていません。今後の生活に不安があります。政府には親族や知人がいる人にも支援の幅を広げてもらいたい」と話していました。

クリスさんは「いつウクライナに帰れるかわからないので、日本語を勉強して日本で働きたいですが、今後の生活が心配です」と話していました。

地元の松戸市では、ウクライナから避難してきた人に対して、親族や知人がいるかどうかに関わらず一時的な生活支援金15万円を支給しますが、継続して支援金を支給する予定は今のところないということです。

受け入れる自治体の支援は?

こうした中、国の支援が及ばない部分を補填する形で自治体が独自に支援金を支給する動きも広がっています。

群馬県前橋市は親族や知人がいるかどうかにかかわらず、政府による支給分に加えて、生活費を独自に補填し、毎月15万円を受け取れるようにする方針を決めました。

期間は自立するまでの間、最大1年間で、家族などで避難してきた場合は2人目以降の人にも補填する方向で調整しています。

また、一時金として1人当たり15万円を支給するほか、市営住宅を無償で提供し、光熱費や日本語学校での半年間の授業料約30万円は市が負担するということです。

このほか、兵庫県では4月13日時点で親族や知人を頼って少なくとも7世帯が避難してきているということで、1世帯最大で214万円を補助するとした支援制度を創設するなど、自治体が独自に支援金を支給する動きが広がっています。

「支援に差が出るのはわかりにくい」

こうした状況について、国がきちんとルールを定めて対応していくべきだと指摘する声が上がっています。

千葉市の神谷俊一市長は4月13日の定例会見で「自治体によって金額の差が出たり、国の支援でも対象に差が出たりするのは非常にわかりにくく、避難者も戸惑うと思う」と述べました。

そのうえで、経済的な支援は国がまとめて行うべきだとしています。

専門家「国がルールを定めるべき」

こうした状況をどう考えるか。

難民政策に詳しい名城大学法学部の近藤敦教授に聞きました。

「日本では今回のような避難してきた人を支援するための土台となる法制度が無かったが、政府が支援を決めたことは評価できる。一方、ケースバイケースではあるが、知人を頼って避難してきた人は支援の対象になるべきで、今後の課題だと思う。支える人がいてもいなくても、足りない部分をどう補填するかということを中心に考えていくことが大切だ」と指摘しています。

また、自治体独自の支援が広がっていることについては。

「足りない部分を自治体が上乗せしていくというのはよいことであり、今後、仮に国がルールを作ったとしても、国の基準よりも手厚くするなど自治体ごとの独自の判断はあり得ると思う。ただ、本来は国としてルールを作り対応していくものだ。今までも多くの国から多くの人が避難民として逃れてきたし、今後もそういうことが起きるかもしれないので、受け入れるための制度をしっかりつくるべきだ」と話しています。