磯野貴理子さんの更年期の乗り越え方“年上の友達って大事よ”

磯野貴理子さんの更年期の乗り越え方“年上の友達って大事よ”
「ある日突然、歩道橋が渡れなくなったんです。怖くって」

そう話してくれたのはタレントの磯野貴理子さん(58歳)。
“更年期”と一口に言っても、症状や感じ方は人によって驚くほど違います。

イライラ?
ホットフラッシュ?
いいえ、それだけではないんです。

これまで取材に協力してくれた著名人の皆さんの証言から、症状と乗り越えかたをまとめました。

歩道橋が怖くて渡れなくなった

磯野さんは40代半ば、精神面に症状が出たといいます。
(磯野貴理子さん)
「歩道橋の階段をのぼるところまでは行けるんですが、渡ろうとすると橋が下に崩れ落ちるようなイメージが急に浮かんできて、こわくて足が震えて渡れなくなってしまいました。今までそんなことはなかったので自分でもびっくりしました」
もともと高い所は得意ではなかったという磯野さん。それでも歩道橋が怖くて渡れなくなったのは初めてでした。

この頃から日常生活のさまざまな場面で困ったことが起きました。

高架の上を走る「ゆりかもめ」が急に怖くなり途中下車する。
テキパキと判断するタイプだったはずなのに「どうしよう」と迷う。
気も弱くなったと感じたそうです。
「ATMに並んでいる時に、後ろにいたおじさんに叱られたことがありました。その時ものすごく怖くて、泣きそうになるぐらいだったんです。今までだったらにらみ返す感じなのに、なんで泣きそうになってるんだろうと自分でびっくりしましたね。今までと違うことがたくさん出てきて、『私どうしちゃったんだろう、大丈夫かしら』って不安でした。

『決断力がなくなってきた』とお医者さんに話したら、『社会でバリバリ働いてきた女性ほどそういうふうになるんですよ』と。社長みたいな方、部下がいっぱいいてがんがん仕事を仕切ってきたような人ほど更年期になると気が弱くなったり、決断力がなくなったりする方が多いと。私それかなって」

こんな症状も…著名人が語る多様さ

同じく、精神面の症状が強く出たのがオリンピックメダリストの有森裕子さん。当時をこう振り返っています。
「ささいなことでイライラしてしまって。例えばテレビドラマって普通の作り話ですよね?シャンシャンでいい結末で終わったドラマに対して『なんでそうやって終わるんだ!』って勝手にテレビに向かって怒っていたんですよ。本気で」
ほかにも整理整頓が大好きだったのに手際が悪くなり部屋の中を行ったり来たりしてしまう。友人との会話も内容が頭に入らなくなったそうです。
「ことばは聞こえているんだけど、内容が全くイメージできなくて、ただ音と言葉が理解不能な状態で流れていっている。聞いていないんじゃないけど、理解できないという場面が恐ろしいほど増えました」
体に現れた異変がつらかったという人も。
女優の有森也実さんは、満員電車が我慢できなくなったといいます。
「なんだろうこれはと。体温調節がうまくいかず、特に外から満員電車の中に駆け込んで入って行った時とか、蒸れる感じが我慢ができなくて気持ち悪くてのぼせてしまうというようなことが顕著にありました」
エッセイストの小島慶子さんが悩まされたのは“ちつ周りの不快感”でした。
「ちつの突き当たりと子宮の辺りに何かずっと帯電してるような感じがしたんです。静電気がその辺にたまってるような感じがあって何とも言えない不快感だった。痛いのとも違うし、かゆいのとも違う。あえて言うなら足がしびれた時のような名状しがたい不快感があって、原稿を書こうと思ってもなかなか手につかなかった」

更年期症状はこんなに多様

磯野貴理子さん(40代半ば~)
▽歩道橋が怖くて渡れない
▽決断がなかなかできない
▽気が弱くなる
▽大量の汗をかく

有森裕子さん(48歳~)
▽イライラ・気分の落ち込み
▽整理整頓ができなくなる
▽人の話が理解できない
▽ホットフラッシュ

有森也実さん(47歳~)
▽のぼせ
▽顔面のけいれん
▽リンパが腫れる
▽気分の落ち込み

小島慶子さん(46歳頃~)
▽ちつ周りの不快感
▽頭痛
▽どうき
▽めまい
皆、あとになって医療機関で更年期による症状だと診断を受けていますが、原因が分からなかった当初は思い悩んだそうです。
※現在は全員、改善しています。

どうやって対処した?

磯野さんは「とにかく年上の女性たちに聞きまくった」そうです。
(磯野貴理子さん)
「先輩の女性の方に聞いたんですよね。どうでしたか更年期?って。いろんな方に相談しました。役に立ったのはおいしいもの食べなさいというアドバイス。

『栄養のあるものをちゃんと食べてる?』って言われて『そういえば食べてないです』って。『ウナギがいいわよ』と言われて、スーパーにうなぎのかば焼きを買いに行って食べましたね。なんかね、おいしくて『わー!久しぶり、うなぎ』って。そのとき元気になった気がしましたね。おいしいものを食べようという気持ちにもなってなかったなって。

あと『更年期で元気が出ない時こそ運動しなさいね』って言ってくださった方がいて、よく歩くようにしましたね」
食事や運動を見直すことに加えて、気持ちを楽にしたのが“話す”こと。
「話してると更年期とか関係なくストレス解消になりません?女の人しゃべるの好きじゃないですか。あんな感じです。お茶飲みながらただしゃべったり、電話でだらだらしゃべったり。一人で抱え込んで不安にならないで済んだから、話してよかったと思います」
薬によって症状が改善したという人も。

小島慶子さんは、かかりつけの婦人科医に相談し、ホルモン補充療法(女性ホルモンを少量補うことで症状を緩和する治療法)や漢方薬などを試して、自分に合う薬を見つけたそうです。
「じゃあちょっとこれ飲んでみましょうかとか、この薬は合ってたみたいとか、試行錯誤しながら。今はほぼうまくおつきあいできていて、気になることは無くなってよかったなと思いますね」

対処法は薬とそれ以外に分かれる

《薬で症状が改善》
有森裕子さん
▽ピルを半年間服用し、ホットフラッシュが改善
▽更年期症状と知ったことで「これは普通のことなんだ」と思えて前向きに
小島慶子さん
▽複数の漢方薬やホルモン補充療法を試し、自分に合う薬を見つける
▽かかりつけの婦人科医に相談
《薬以外で症状が改善》
磯野貴理子さん
▽栄養のあるものを食べる
▽歩くなど体を動かす
▽話すことでストレス発散
有森也実さん
▽年上の女性に相談する
▽フラメンコでストレス発散
▽更年期症状と知って「いつかは終わる」と気が楽に

もっと更年期を話そう!

気が付くと歩道橋は渡れるようになり、ほかの症状も無くなっていたという磯野さん。
更年期はいつかは終わりがくるので一人で抱え込まないでほしいと話します。
「今振り返ると、更年期はみんな経験することでそんな怖いものじゃないし、不安をあおるものでもないと思います。今、更年期でつらい思いをしている人たちには、大丈夫だから、あまり悩みすぎないでと伝えたいです」
「大事なことは、とにかくちゃんと食べること。寝るのもいいんだけど眠れない方もいらっしゃると思うので、ちょっとでもいいから栄養のあるもの、好きなもの、元気が出るものを食べてほしい。

それから、私自身が経験してよかったなと思うのは、年上の女性の知り合いの方をいっぱい持つこと。やっぱり人生の先輩は大事です。更年期だけじゃなくてこれから先、どんなことでもいろいろ聞いていけるすてきな年上の女性っていっぱいいます。私は、いちばん年上で87歳の女性のカフェのママとお友達です。とてもお元気で楽しい方でだいぶ年上だけど、私よりずっと長く生きているから大体経験されているし何でも相談に乗ってくれるんです。

更年期について話して周りの人に伝えていくことが、いい社会につながっていくことにもなると思います」

医師も自信がない?多様な症状が治療の壁に

NHKがことし3月、医師を対象にインターネットで行ったアンケートでは更年期の疑いがある患者を診療している医師479人のうち7割近くが「症状が多様で診断が難しい」と答えました。

さらに更年期症状の診療に自信がない・あまり自信がないと答えた医師も4割近くにのぼっています。
こうした状況だからこそ、更年期の正しい知識をもって自分なりの対処法を見つけたり、更年期症状にきちんと対応できる専門医を積極的に探したりすることが大切になります。

そのための参考にしてほしい情報を詳しく紹介しています。
(ネットワーク報道部 野田麻理子)