ビジネス特集

ロシアの軍事侵攻で暮らしが苦しくなる

「ロシアの軍事侵攻で、この国の家計は歴史的な打撃を受けている」

ウクライナの話ではありません。イギリスの中央銀行総裁のことばです。イギリスでは今、日々の食事を慈善団体に頼る人が増え、貧困が広がることへの懸念が強まっています。背景にあるのは急激なインフレです。それは、私たちが暮らす日本も無関係ではありません。

(ロンドン支局・松崎浩子)

個人の借金が増えている

15億ポンド(約2600億円)。イギリスでは、2月だけでクレジットカードの借り入れ額がこれだけ膨らみました。

1993年に統計を取り始めて以来、最も大きい伸び率です。今の収入で必要な支出をまかなうことができず、暮らしを維持するために借金をする人が増えたためとみられています。

なぜ家計が厳しくなった?

イギリスの人たちを苦しめているのは、物価の記録的な上昇です。牛乳に主食のパン、それにビール。身近なあらゆるモノが値上がりしています。

例えば牛乳は2月、前年同期と比べて20%高くなり、近く50%に達する可能性があるとされています。

背景にあるのが、ロシアによるウクライナ侵攻をきっかけに穀物やエネルギーの価格が上昇していることです。牛を育てる飼料から輸送費まで、牛乳の製造にかかわるさまざまなコストが増えているのです。
イギリス農業者連盟 マイケル・オークス酪農委員長
イギリス農業者連盟 マイケル・オークス酪農委員長
「多くの農家が瀬戸際に立たされている。コストが上がり続けて採算が取れない」

4月の電気ガス料金は1.5倍に

イギリスのガスメーター
イギリスの人たちの負担は増す一方です。その象徴が電気・ガス料金です。

4月、家庭向けの電気やガスの料金の上限価格が54%値上げされました。燃料となる原油や天然ガスが高騰し、エネルギー供給会社の撤退が相次いだことを受けてサービスを維持する必要に迫られたイギリス政府が引き上げたのです。

こうした物価の上昇はロシアの軍事侵攻以降、一段と進んでいます。中央銀行イングランド銀行のベイリー総裁は「ロシアの軍事侵攻で家計は歴史的な打撃を受けている」と指摘し、今の生活水準を維持することが難しくなると警鐘を鳴らしています。

つまり市民が“貧しくなること”が懸念されているのです。

すでに見えてきた“貧困化”

ロンドンのフードバンク
すでにイギリスにはこの変化が目に見える場所があります。生活が苦しい人に食品などを無償で提供する「フードバンク」です。

ロンドン西部にある慈善団体が運営するフードバンクは市内2か所に設けられ、一般の人やスーパーからの寄付などで集められた肉や野菜、飲み物などを配っています。ここでは誰もが週に1度、必要な食料などを受け取ることができます。

このところ利用が増えているということで、朝から食品を求める人たちがひっきりなしに訪れ、途切れることはありませんでした。訪れた人は暮らしが厳しくなっていると口々に話しました。
娘2人と夫と暮らす51歳の女性
「コロナ禍で夫が失業して収入がほぼない中、モノが高くなりすぎて何も買えません。育ち盛りの娘がいるので、パンや牛乳はなんとか手に入れたいと思ってここに来ています。ガスの節約のため毎日料理ができず、料理する日としない日を決めています」
幼い3人の子どもがいる36歳の女性
「生鮮食品を手に入れるためにここに来ています。赤ちゃんがいるので、必要な服は中古やチャリティーで手に入れています。どうやって生き延びるかを毎日考えています」
この慈善団体が運営するフードバンクは、時間によっては食料を受け取る人で長い列ができるということです。代表のビリー・マクグラナガンさんは利用者が今後さらに増加すると予想しています。
フードバンク「ダッドハウス」経営者 ビリー・マクグラナガンさん
フードバンク「ダッドハウス」経営者 ビリー・マクグラナガンさん
「スーパーに行くたびに値段が高くなっている状況の中、暖房と食事のどちらかを選ばなければならない人が多いのが実情です。困っている人を助けるために食料を寄付する側だったのに、受け取る側になった人もいるんです。これからますます訪れる人は増えるでしょう」

130万人が新たに貧困に陥る?

イギリスの人たちの暮らしは今後どうなるのか。

専門家は、ウクライナ情勢でモノの価格が押し上げられ、物価が過去40年間で最も速いスピードで上昇していると指摘します。そして、多くの人が新たに貧困に陥る可能性があるというのです。
レゾリューション財団ハンナ・スローター シニアエコノミスト
レゾリューション財団ハンナ・スローター シニアエコノミスト
「物価が上がるスピードがあまりに急で、賃金の上昇が追いつかず、家計はさらに圧迫されることになるだろう。多くの世帯はすでにエネルギーや食料といった必需品の支出をこれ以上削減できない状況だ。今後130万人が新たに貧困に陥り、うち50万人は子どもになるだろう」

40年ぶりのインフレ続くアメリカは

アメリカの99セントショップでも値上げの張り紙が…
家計が圧迫されているのはイギリスだけではありません。

アメリカでは物価の伸びを示す消費者物価指数が3月に前年同月比で8.5%上昇し、1981年12月以来およそ40年ぶりとなる高い水準を記録しました。品目別に見ますと、ガソリンが48%という大幅な値上がりとなったほか、電気料金が11.1%、食品が8.8%、公共交通機関の料金も7.7%上昇しました。いずれも日常生活に必要な支出ばかりです。

アメリカでも、所得の低い人を中心に生活が苦しくなる人がさらに増えると見込まれているのです。

日本の暮らしもさらに厳しく

日本でも値上げが相次いでいますが、家計への負担は今後さらに増しそうです。その一つが、電気料金の値上がりです。

国内の大手電力会社10社のことし5月分の電気料金は、比較できる過去5年間で、最も高い水準になります。東京電力管内の場合、使用量が平均的な家庭の去年5月分の電気料金は、6822円でした。

しかし1年間で料金は1683円上昇。ことし5月の電気料金は、8505円になります。

この先が気がかりになる数字も出ています。4月12日、日銀は企業の間で取り引きされるモノの価格を示す「企業物価指数」の最新の数値を発表しました。

それによりますと、3月の速報値は、2015年の平均を100とした水準で112.0。1982年12月以来、実に39年3か月ぶりの高さとなりました。ロシアによるウクライナ侵攻が続く中、石油製品や電力価格などが値上がりしたことが主な要因です。原材料費や仕入れコストの上昇分を価格に転嫁することになれば、生活必需品などがさらに値上がりする可能性もあるのです。

世界を見渡すと、フィリピンやスリランカなどでは市民が抗議デモを行って、物価上昇が生活の打撃になっていると訴えています。WTO=世界貿易機関は物価の高騰で貧しい国々での食糧危機が迫っているとの認識を示しています。

ウクライナ情勢は事態打開の道筋が見えないままで、世界各地でも暮らしの先行きに不安が高まっています。
ロンドン支局
松崎浩子
2012年入局 名古屋局、国際部を経て現所属。
欧州経済やジェンダー、環境問題など取材

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