マリウポリ市長が語った“地獄”【インタビュー詳細】

ウクライナ東部の要衝マリウポリ。

ロシア軍による激しい攻撃で深刻な被害がでていますが、その詳しい状況はわかっていません。

ボイチェンコ市長は今週、NHKの単独インタビューに答え、犠牲者が2万人を超えると明らかにしました。

インタビューの詳細です。

まさに“地獄”が存在した

Q.マリウポリ市内はどのような状況ですか?

「『地獄はどのようなものなのか』と考えることがあるとすれば、まさにマリウポリにはその『地獄』が存在した」とほぼすべての人が同じように話すと思います。

被害が大規模に及んでいて、街の再建には数か月ではなく数年が必要となるでしょう。

日本は空から爆弾が落ちたときのことをご存じかと思います。

まさに第2次世界大戦と同じことを、今やマリウポリが体験しているのです。

約2万1000人の市民が殺害された

Q.被害の状況は?

私たちは3月21日、市民の死者が5000人以上に上ることを確認しました。

これは爆弾や空爆などによるものです。

また一部の人はがれきに埋もれて死亡しました。
強調したいのは、それが3月21日の段階で確認できたものだということです。

21日から開始された市街戦によって、路上では数千人が亡くなっていました。

大統領も述べている正確な数字として、私たちの考えでは、これまでにおよそ2万1000人の市民がロシア軍に殺害されています。

今も12万人が残っている

Q.市内にはどれくらいの人が残っていますか?

マリウポリの占領された地域、包囲された地域には今も12万人の市民が残っています。

ロシア軍は戦争を始めたころの交通が正常であったときでも、市民がマリウポリから出ることを許しませんでした。

検問所に到達しても「街から出ることはできない。あなたたちをここから出す指令は受けていない。戻りなさい」と回答してきたのです。

もし彼らに人々が街を出ることを許す気持ちがあればそうしたでしょう。

しかしそうした気持ちさえなかったのです。
ロシア軍は故意に人道的な問題を作り、対抗する社会世論を作り、すべてのことがひどい状態だ、すべてなくなってしまったというムードを作り上げました。

断固として言いたいのは、戦争が始まった当時から、この問題についてはそうした対処が行われていたということです。

ウクライナ大統領や関係官庁、そして地方政府は人道的ミッションが可能となるようにしてきました。

しかし、ロシアの計画はそれとは異なっていたのです。

できるのは人々を避難させることだけ

Q.避難状況は?

マリウポリの近くまで続く人道回廊を使って、およそ15万人の住民をこの地獄のような状況から避難させることに成功しています。

また民間の交通手段を使って避難するための回廊についてどうにか合意しているところもあります。

私たちの課題はこの避難回廊を継続させることです。

ですから私たちはすべての国際的なパートナーに対して「私たちに必要なのは、ウクライナがコントロールしている地域にすべてのマリウポリ市民を避難させることだ」と繰り返し、要請しています。
市民のためにできることがあるとすればそれは人々を避難させることだけで、そのほかのことは今の時点では不可能です。

そして次の課題は脱出した人たちを支援して正常な生活を取り戻すこと、そしてマリウポリを復興させて家に帰ることです。

マリウポリは現在もウクライナの都市

Q.今、ロシア軍との戦闘はどのような状況ですか?

ロシア軍とウクライナ軍の支配地域の割合は60対40、50対50など数字は常に動いているといえるでしょう。

まさに今も戦闘は続いています。

マリウポリはこれまでも、そして現在もウクライナの都市です。
ウクライナの装甲部隊や国家警備隊、海軍歩兵隊、国境警備隊などが、これまでどおりありとあらゆることを継続して行っています。

もちろん、侵攻しているロシア軍が私たちを上回っていることは明らかです。

しかしすでに46日間にわたってウクライナはマリウポリを守り続け、またウクライナ全土で耐え続けています。

私たちは領土も人々も売り渡すことはない

Q.事態を打開するには何が必要ですか?

停戦交渉はご存じのように終了しておらず、戦争が始まった直後から続けられています。

最も重要なのは、われわれが現時点でもゼレンスキー大統領が述べているような段階にあるということです。

それはつまり、侵攻したのは我々ではないということ、私たちは自分の国にいるということです。

そして私たちは領土も、人々も売り渡すことはないということです。
私たちが今求めるのは、ロシアが戦争をやめること、そして彼らが「作戦」と呼び、私たちが「戦争」や「ウクライナ人に対するジェノサイド」と呼ぶものが始まる前まで私たちのものであった土地を取り返すことです。

それに従って軍を撤退させられれば交渉を始めることができます。

プーチンの最も重要な目的はウクライナ人を滅ぼすこと

Q.国際社会に訴えたいことは何ですか?

申し上げたいことはただひとつ。

それは今、ウクライナの領土でロシアが戦争犯罪を犯しており、ウラジーミル・プーチンが主要戦争犯罪者としてその指令を出したということを私たちが同じように理解することです。

彼らは自分たちが「特別作戦」と呼ぶものを、私たちが「戦争」、「ジェノサイド」と呼んでいるものにしたのです。
産院や子どもが隠れている防空ごうを空爆しました。

平和な街に、その住宅地に空から爆弾を落としました。

3月9日から2週間にわたって攻撃を激化させ、街を文字どおり地表から消し去りました。

彼らは戦争犯罪を犯し、2万人の市民が死亡しました。

人々は飢餓や脱水だったり、必要な医薬品がなかったりして亡くなりました。
そしてそれはすべて戦争犯罪者の手によるものです。

彼らは街を包囲し、包囲網から住民を出そうとしませんでした。

その機会があってもそれをしようとはしなかったのです。

皆さんによく理解していただきたいのは、マリウポリの住民の2人に1人は民族的に言えばロシア人です。

つまりロシア人がロシア人を殺しにやってきたということです。

私たちは民族ではロシア人であったりアルメニア人であったりギリシャ人であったりウクライナ人であったりします。

そうした違いはあっても、精神的にはウクライナ人という「民族」なのです。
彼らはその「ウクライナ人」を滅ぼすためにやってきたのです。

ウラジーミル・プーチン自身が「ウクライナ人という民族は存在しない」と言っています。

彼の最も重要な目的はウクライナ人を滅ぼすことなのです。

それを私たちは「戦争犯罪」と呼んでいます。

ですから国際社会はひとつにならなければなりません。

そしてみずからの部隊に対し命令を出したウラジーミル・プーチンが犯した大罪に対して正しい評価を行うべきなのです。