福島第一原発 処理水放出決定から1年 理解得られるかが課題に

東京電力福島第一原子力発電所でたまり続けるトリチウムなどの放射性物質を含む処理水について、政府が基準以下に薄めて海に放出する方針を決めてから、13日で1年です。
東京電力は、この方針に沿って、来年春ごろをめどに放出を始める計画ですが、風評被害を懸念する漁業者などからは反対の声が根強く、どう理解を得ていくかが課題となっています。

増え続ける処理水の保管で、福島第一原発の敷地がひっ迫する中、政府は1年前の4月13日、処理水を国の基準を下回る濃度に薄めて海に放出する方針を決めました。

東京電力は海底トンネルを新たに建設し、来年春ごろをめどに沖合1キロから海に流す計画で、原子力規制委員会の認可が得られれば、ことし6月ごろから本格的な工事に着手したい考えです。

着工に向けて、東京電力は福島県と原発が立地する大熊町と双葉町に事前了解を求めています。

また、政府と東京電力は福島県漁連に対し「関係者の理解なしに、いかなる処分もしない」と約束していて、放出までに理解を得られるよう取り組むとしています。

県漁連などは放出に強く反対していますが、背景には、新たな風評被害への懸念があり、福島県内の関係者だけでなく、全国的な理解の広がりが必要だと訴えています。

放出開始のめどが、およそ1年後に迫る中、政府と東京電力が、どう理解を得ていくかが課題となっています。

説明会に参加 魚店 “合意形成が必要”

東京電力によりますと、処理水の放出方針決定からこの1年間で、漁業や観光業の関係者などを対象におよそ770回の説明会を開き、安全性や風評対策などについて説明してきたということです。

福島県いわき市で地元の魚を販売する「大川魚店」の大川勝正社長は、先月、市内で開かれた仲買業者などに向けた説明会に参加しました。

大川社長は、処分の具体的な方法など、これまで疑問に思っていたことについて、初めて説明を受け理解が進んだと評価する一方、風評被害が発生した場合の賠償の方針などについては、納得できない点が残ったといいます。

そのうえで大川社長は「原発事故は突然の出来事だったが、今回の海洋放出までには準備する時間があるので、賠償の枠組みなどは、もめ事が起きないようなルール作りが必要だ。そのためにも、こういった説明会を何回か行って合意形成をしていくことが必要だと思う」と話していました。

SNSでは放出反対の漁業者に批判的な投稿も

漁業者の間で反対の声が根強いことについて、SNS上では批判的な投稿が相次いでいます。

今月、全国漁業協同組合連合会の岸宏会長が萩生田経済産業大臣と会談し「方針には断固反対」と述べたと報じられた際には「自分たちで風評を振りまいている」とか「賠償問題に貪欲な漁連」といった投稿が見られました。
相馬市の漁業者、菅野秀夫さん(71)は、こうした投稿について「そのような見方があって、そのように考える人がいるということに驚いた。10人いれば10通りの意見があるのは分かっているが、漁業者は、あくまで魚が売れなくなったり価格が下がったりして、なりわいが成り立たなくなることを心配しているだけだ」と話していました。

そのうえで「処理水を海に放出しても影響はないと、いくら説明されても、消費者に『買わない』と言われれば、漁に出てもしかたないと思う」と話していました。

松野官房長官「実効性のある風評対策を検討していきたい」

松野官房長官は午前の記者会見で「地元の漁業者には繰り返し処理水の安全性や処分の必要性についての説明を聞いていただいている。関係自治体や住民への丁寧な説明はもとより、漁業者をはじめ、その取引相手の卸や小売など、サプライチェーン全体に対して繰り返し説明していきたい。安全性の理解を深めていただくことで風評を抑制するとともに、現場でいただいた声を受け止めつつ、実効性のある風評対策を検討していきたい」と述べました。

そのうえで「IAEA=国際原子力機関の協力を得つつ、安全性について厳しく確認し、その結果を透明性高く発信していくことなどを通じて、国内外から理解を得られるよう、引き続き政府をあげて取り組んでいく」と述べました。

県内の漁業関係者からは放出に反対する意見

トリチウムなどの放射性物質を含む処理水を、海へ放出する方針が発表されてから1年の間に、政府や東京電力は複数回、茨城県を訪れて、漁業者などに向けた説明会を開いてきました。

この中では、放出や安全性の評価の方法や、風評被害への対策について具体的な内容が説明されましたが、県内の漁業関係者からは、引き続き放出に反対する意見が出ています。

県によりますと、福島第一原発の事故のあと、茨城県沖で採れる魚でも、国の基準や、県と沿岸の漁協が設けた独自の基準を超える放射性物質が検出されるなどして、出荷の制限や水揚げの自粛などが行われたほか、風評被害で幅広い種類の水産物の価格が、一時的に下落するなど、影響が続きました。

このため、県内の10の漁協などでつくる「茨城沿海地区漁業協同組合連合会」は、処理水が放出されれば、風評被害で再び水産物の価格が下落するのではないかと懸念しています。

また、政府がまとめた風評被害への対策などの計画は、対象を福島県に限定したものもあり、茨城県も含むよう求めたいとしています。

茨城沿海地区漁業協同組合連合会の飛田正美会長は「海はつながっているので、風評被害で価格が不安定になり、子孫にまで影響するのではないかと心配している。政府や東京電力の説明では将来的な不安を払拭(ふっしょく)できず、放出の方針には反対だが、今後も話し合いはしていきたい」と話しています。

原子力規制委 更田委員長「国内での理解は途上」

福島第一原子力発電所でたまり続けるトリチウムなどの放射性物質を含む処理水の海への放出について、原子力規制委員会の更田豊志委員長は「国内での理解は途上であり、説明を続けるしかない」と述べ、政府や東京電力が理解を得るための説明を今後も続けていく必要があると指摘しました。

福島第一原発で増え続ける処理水について、政府は基準を下回る濃度に薄めたうえで来年春ごろから海に流す方針で、東京電力はこれに従って海洋放出に向けた計画を策定し、規制委員会が審査しています。

海に流す方針に関する国内での理解について、更田委員長は「方針について政府や東京電力は責任を負っている。広く理解を得るために説明を続けるしかなく、途上だと思う」と指摘しました。

一方、規制委員会による審査については「大きな引っかかりがあるわけではない」と述べ、審査が終盤を迎えているとする認識を示しました。

処理水の海への放出をめぐっては、地元を中心に風評被害を懸念する声が根強く、漁業関係者や全国の消費者などからの理解を、どう得ていくかが課題となっています。