ウクライナ 衛星画像で最大の激戦地を分析 故意の無差別攻撃か

NHKは、ウクライナ最大の激戦地、マリウポリ中心部のおよそ5キロ四方を写した衛星画像を入手し、AI解析の専門業者の協力を得て建物の被害状況を独自に分析しました。
その結果、これまで明らかになっている劇場や病院以外にも、被害が住宅街などを含めた全域に及んでいることがわかりました。
専門家は「これだけ広範囲が攻撃対象になっていることは驚きで、国際法で禁止された無差別攻撃が故意に行われた可能性が高い」と指摘しています。

最大の激戦地とされる人口およそ40万人のマリウポリは、ロシア軍に包囲され深刻な人道危機に直面していて、市当局は今月4日の発表で、町の9割近くが破壊され、10万人以上が食料や水、電気がない状態で取り残されているとしています。
市内の中心部では劇場や総合病院が攻撃され、多数の死者が出たとされていますが、市街地全体の詳しい被害状況は明らかになっていませんでした。

今回NHKは、アメリカのプラネット社が運用する人工衛星が今月3日にマリウポリの中心市街地を撮影した高解像度の画像を入手しました。
そして、AIによる画像解析の専門業者の協力を得て、市街地の多くを含むおよそ5キロ四方の範囲について建物の形状の変化を侵攻前の去年8月の画像などと比較し、被害の広がりを独自に分析しました。

具体的には、画像を20メートル四方に区切り、その範囲内で変化した建物の面積が占める割合が10%を超えた場所を赤、5%以上を黄色などで表示させたところ、赤や黄色の広がりは対象範囲の全域で確認され、被害が広範囲に及んでいることがわかりました。
さらに赤色で表示された場所を詳しく見ると、これまで報じられていなかった中心部の北側にある大型ショッピングセンターや芸術学校で大規模な被害が確認されたほか、西側に位置する住宅地などでも多数の住宅の屋根が壊れていることがわかりました。

この手法では、影や雲などの影響で一定の誤差が出るほか、建物が横から受けた攻撃の痕跡は検知が難しいため、実際にはさらに広い範囲で建物に被害が出ている可能性があります。

専門家「無差別攻撃が故意に行われた可能性が高い」

国際条約では、非戦闘員への攻撃、学校への攻撃、病院への攻撃、無差別攻撃などは戦争犯罪として禁じられていて、これらに違反した疑いがある政治家や軍人などの個人はオランダ・ハーグにあるICC=国際刑事裁判所に訴追される可能性があります。

国際法が専門の同志社大学の浅田正彦教授は、今回の解析結果について「被害を受けた細かな地点の写真や映像は詳しく報じられているが、全体状況は分かっていなかったので、これだけ広範囲が攻撃対象になっていることに驚いた」と述べました。

そのうえで「戦争犯罪を立証するうえでは、違反が故意に行われたかどうかがかなり重要になるが、これだけ広範囲に被害があれば、マリウポリでは故意に無差別攻撃が行われたと認定される可能性が高いのではないか。今後、衛星画像が戦争犯罪を立証する状況証拠として、威力を発揮することはありえると思う」と指摘しました。

また浅田教授は「今回のウクライナ侵攻は国際法が国際社会の法秩序を守る役割を果たせるかどうかの分岐点で、国際法そのものの価値が問われている」と述べました。