ウクライナへの軍事侵攻 研究者が学生に伝えたメッセージ

ウクライナへの軍事侵攻 研究者が学生に伝えたメッセージ
各大学で新年度の講義が始まりました。ロシアのウクライナへの軍事侵攻について、国際法や国際刑事司法を専門とする研究者、そして国際関係に関心のある大学生が今、何を感じ、学ぼうとしているのか?現場を取材しました。

学生に考えてほしいことは?

京都にある立命館大学国際関係学部。

去年秋に入学した、1年生を対象に行われた演習をのぞくと…
「侵略戦争が起きている時代に国際関係を学ぶ意味はなんだと思う?」
こう問いかけたのは国際法と国際刑事司法が専門の越智萌准教授。

出席した16人の学生に伝えたいメッセージがありました。
越智萌准教授
ウクライナのニュースを見て無力感絶望感を感じ、学生たちは国際関係の在り方に前向きになれない部分もあると思います。だからこそできることは何があるのか。考えることを放棄せず、そこから学ぶ意義を見いだしてほしいのです。

疑問から国際法の世界に

越智さんが自身の専門分野について関心を持ったきっかけも、思うように解決しない国際的な紛争や貧困について高校生の時に接したからでした。

学校のプログラムでフィリピンを訪れて、スラム街で暮らす子どもたちの姿を目の当たりにしました。

また、パレスチナの問題や紛争による被害者について調べ、校内で発表するなど世界で起きる課題に向き合いました。

そして大学で紛争や戦争を法律の観点からどう解決できるかのを学びました。
越智萌准教授
どうして不平等な社会が世界にあるのか、なぜ多くの人が殺されなければならないのか。そうした不条理を不思議に思い、それを正そうとする国際法や国際刑事司法を研究する道に進みました。今の学生にも今回の軍事侵攻で感じた疑問、怒り、悲しみを抱えたまま終えるのではなく、その背景などを学ぶきっかけにしてほしいです。

学ぶ意義はある

市民の犠牲が増えることへの懸念が一層深まる中、研究者の仲間からは無力さを感じるという声がしばしば聞かれるといいます。

それでも、越智さんはこうした惨劇が続く中だからこそ、今回の軍事侵攻に目を背けてほしくないと、学期最初となった講義では小グループで意見を出し合うことに取り組ませました。

自分が学ぶ分野で何か貢献できることがないのか考えてもらうのがねらいでした。
日本には北方領土の問題もあるので、ひと事には思えません。
SNSの広がりで多くの映像や情報を得られるようになったことは大きいと思います。でも正しい情報にたどりつくことはとても大変です。
ヨーロッパから離れた地域で先進国に影響がないならば、国際的にこれほどの扱いにはならないかもしれません。おかしな話だと思います。
越智さんは講義の最後に、大学で研究テーマをこれから決めていくうえで、なぜその分野を研究するのか、自分自身で意義を見いだすことが大事だと強調しました。
越智萌准教授
軍事侵攻、戦争犯罪に見られる多くの「失敗」を踏まえ、一般的によく取り上げられるテーマでも、自分がこの仕組みは本当に役に立つのか意義を感じられないテーマは選ばないでください。これを研究すれば必ず意義があると心で感じられることをテーマに選んでください。
越智准教授は今後の講義を通して、国際法と国際刑事司法がロシアに対し、どうした対応を取ることができるのか、教えていくことにしています。
越智萌准教授
予防できなかったからといって起きたあとにそれを放置するわけにはいきません。軍事侵攻の後の処理も非常に大事なことです。例えば戦地で生き残った人でもトラウマで長い将来苦しむことがあります。そのケアをしていくことは大事です。何もできないと嘆くのではなくできることはたくさんあります。困っている人の役に立つということを伝えていきたいとも思います。

大学生も改めて考えた

すでに国際法を学んでいる学生にとっても、ロシアのウクライナへの軍事侵攻は学ぶ意義を改めて考えるきっかけになっています。

早稲田大学にある国際法研究会は大学で唯一となる国際法について学ぶサークルです。
メインの活動は国内外で行われる大学生を対象にした国際法の模擬裁判の大会に出場し優勝すること。

過去の大会でも優秀な成績を収めてきました。

研究会では今月8日、活動に関心がある新入生を対象にした在学生との交流会を開きました。
今回の軍事侵攻を受け、国際法が抱える問題をより具体的に考える機会になっていると捉えています。
3年生 大橋拓さん
ウクライナへの侵攻があって国際法の実効性がどうやって形作れるのか。法律的にどこが悪いのかをちゃんと考えていくことで、ロシアに対する非難を論理的にできると思います。あとはロシアのような行いが起きないようにという対策について、分析できたらいいと思っています。
例年は「世界史が好き」「法律に興味がある」「就活に役立てたい」といった理由で入会する人が多いといいますが、ことしは国際法に関心のある希望者が多くなっています。
新入生 守屋旺次朗さん(写真左)
『さまざまな紛争に対する対抗措置はある』と高校生まで習ってきたので、今回はなぜ解決できないのか素朴な疑問があります。国際社会がどう対応していくのかなどにも関心が一層高まっています。
新入生 山脇康生さん
めちゃくちゃなところはありますが、ロシアにも言い分があるのでそういうのを含めてこの研究会で学んでいきたいと考えています。
新入生の意識の高さに刺激を受けた大橋さん。プーチン大統領の主張のどこが論理的でないのか、道徳だけではなく法律的に考えるという点をみんなで意識して今年度の活動に取り組んでいきたいと気持ちを新たにしています。
3年生 大橋拓さん
『プーチン大統領が悪い』というのはおそらくみんなが思っています。自分のことを正当化したいプーチン大統領に対して、きちんと反論することができるのか。国際法的に議論して反論することができるのか。研究会での活動を通してもっと国際法を学んでいきたいと考えるようになっています。
国際法研究会では今月17日、原告をウクライナ、被告をロシアとした模擬裁判を開催して、入会希望の1年生により活動の内容を知ってもらうことにしています。