公共施設の電力 入札不調相次ぐ 電力会社が長期契約に慎重に

学校やトンネルなどの公共施設で使う電力は国などが入札を行って契約先を決めますが、参加する電力会社がなく入札が成立しないケースが各地で相次いでいることがNHKの取材で分かりました。
燃料価格の高騰などを背景に、電力会社が決まった価格で長期間の契約を結ぶことに慎重になっているとみられます。

公共施設での電力の調達は、小規模な場合などを除き、原則として運営する国や自治体が入札を行い、安い価格を提示した電力会社と1年から数年程度の期間の契約を結ぶことになっています。

NHKは、各地の公共施設について去年秋以降に行われた電力の入札の状況を調べました。

その結果、国土交通省の中部地方整備局では、すでに入札結果が出た20件のうち、国道のトンネルや河川の水門などの10件で参加する電力会社がない「入札不調」となりました。

東北、関東、近畿、それに中国地方の整備局も合わせると、去年秋以降に行った合わせて110件余りの入札のうち、少なくとも50件以上で入札が成立しませんでした。

入札が成立しない事態は、各地の国の事務所や国立大学や高等専門学校といった教育・研究機関などでも見られました。

いずれも、最終的には大手電力会社と随意契約を結ぶなどして電力を確保したということです。

天然ガスなどの燃料価格の高騰などを背景に電力会社の経営環境は厳しくなっていて、特に、自前の発電施設を持たず市場で調達することが多い「新電力」では事業の撤退が相次いでいます。

ある新電力の担当者は取材に対し「仕入れ価格の高騰や供給量の不足で電力の確保が難しくなっていて、新たに契約を獲得するのは経営のリスクにもなっている」と話しています。
電力システムに詳しい東京大学社会科学研究所の松村敏弘教授は「価格などを長期で固定した契約を結ぶと電力会社としては赤字となるリスクが高い。公共施設だけでなく、民間の大手企業などでも、契約先が見つからないという影響が広がりつつある」と分析しています。

そのうえで、国際情勢を背景にした燃料価格の高騰に加え、今後、再生可能エネルギーの導入が進むことで、電力の供給量や価格はさらに変動が見込まれるとして「一定の価格で好きなだけ電力を使うのではコストがどこまで上がるか分からず、そういう時代ではなくなってきている。限られた電力を効率的に使う取り組みを促すように仕組みを検討する必要がある」と指摘しています。

中部地方整備局「ここまで不調が起きるのは初めて」

愛知県や長野県などを管轄する中部地方整備局では去年秋以降、ことし4月や5月などからの1年間の電力契約を結ぶための入札を行いました。

しかし、結果が出た20件のうち、岐阜市の中心部に近い国道のトンネルや木曽川水系の河川の水門など10件の入札で、参加する電力会社がなかったということです。

いずれも社会の維持に欠かせない施設のため、例外的に入札を経ない形で地元の大手電力会社と一般的なメニューで契約を結びました。

しかし、入札を経た場合より電力調達のコストは増える見込みだということです。

こうした状況について、整備局の多くの施設に電力を供給してきた地元の大手電力会社は「燃料価格や市場価格の高騰といった社会情勢などを踏まえて、個別の案件に応じて判断している」としています。

また、中部地方整備局では先月、一部の施設で、契約期間中にもかかわらず契約先の電力会社から供給の停止を通告され、大手電力会社と急きょ新たな契約を結ぶなどの対応に追われたということです。
中部地方整備局契約課の千賀和彦建設専門官は「電力をめぐる情勢は知っていたが、ここまで不調が起きるのは初めてで、影響に驚いている。今後は、入札を早めに行い募集する期間も長くするなどの対応が考えられるが、整備局だけで入札を原則とする制度を変えることはできないので、上部機関と相談しつつできることを考えていく」と話しています。

天然ガスなど価格高騰で「新電力」撤退相次ぐ

天然ガスなどの価格が高騰していることから、電力会社は厳しい経営環境に直面しています。

中でも、「新電力」と呼ばれる電力の小売事業を行う会社は、事業からの撤退を余儀なくされるケースが相次いでいます。

民間の信用調査会社、帝国データバンクによりますと、去年4月時点で国に登録されていた「新電力」の会社706社のうち、昨年度、事業の撤退を決めた会社の数は31社に上り、新規の契約を停止している会社も含めると、さらに数は多くなっています。

「新電力」の多くは、自前の発電施設を持たないため卸売市場を通じて電力を調達していますが、天然ガスの高騰などで電力の調達コストが上昇し経営が圧迫されたことが主な要因だと分析しています。

最近、公共施設の入札への参加を見送っているという「新電力」の担当者は「電力の仕入れ価格の高騰や供給量の不足が続いているため、契約先に100%供給できるだけの電力を常に確保するのが難しい状況だ。さらに今後、価格や供給量の変動は激しくなると予想されるため、新たに契約を獲得するのは経営のリスクでもあり、当面は慎重にならざるをえない」と話しています。

一方、大手電力会社も天然ガスなどの価格高騰の影響などを受けていて、ことし3月までの1年間の業績予想で、東京電力ホールディングスや中部電力など6社は赤字になる見通しを示しています。

また、大手電力会社の中には「電力の調達価格の高騰によって、短期的には法人向けの標準的な料金メニューでも必要なコストを十分に賄いきれない」などとして、去年の年末以降、大口の事業所からの新たな契約の申し込みを断ったり、契約期間や料金などの見直しを打診したりしているところも出てきています。

環境省「業務継続に支障ある場合 環境への配慮ない電力契約も」

国や自治体などは、物品を調達する際、小規模、少額の場合を除いて、原則入札で業者を選定することにしています。

電力の調達も同様で、対象となる施設、期間、使用する電力量の見込みなどを公開して入札を行います。

入札で最も安い価格を提示した電力会社と契約を結びますが、参加する会社がなければ「不調」となり入札は成立しません。

また、入札では、コストを抑えるためあらかじめ「予定価格」という上限を定めていて、電力会社の提示額がすべて「予定価格」を上回った場合も「不調」となります。

その場合、再び入札を行ったり例外的に個別に電力会社と交渉したりするなどして契約先を探すことになります。

それでも契約先が見つからない場合、電力の供給が途絶えないよう、制度上の安全策が設けられています。

各地の大手電力会社は、どの電力会社とも契約を結ぶことができなかった事業者などから要求があった場合、契約を結ぶことが義務づけられていて、最終的には契約先を確保できることが保証されています。

しかし、この場合の契約は、電気料金が一般のメニューより2割ほど高く設定されています。

公共施設の電力契約に関しては、環境省が、コストを抑えながら環境への配慮を取り入れる必要があるとして、温室効果ガスの排出抑制など一定の条件に設けたうえで、入札の実施を拡大していくよう求めています。

こうした中で入札の不調が相次いでいることについて、環境省は「入札への参加者が少ないことなどによって業務の継続に支障が生じる場合には、環境への配慮を取り入れない形での契約も認められている。今後も入札の状況を注視していく」としています。