コロナ「第6波」入院できず施設で療養の高齢者ら 一時6000人超

新型コロナウイルスの「第6波」で、感染しても入院できずに高齢者施設などで療養した人は一時、全国で6000人を超えていたことが分かりました。中には重症化して亡くなった人もいたことから、厚生労働省は施設でも治療を受けられる体制の整備を急いでいます。

「第6波」では感染力の強いオミクロン株の感染が拡大し、各地で病床がひっ迫しました。

厚生労働省によりますと、高齢者や障害者などが入所する社会福祉施設でことし1月以降、入院できずに施設で療養する人が急増し、2月下旬には6110人に上りました。

多くは高齢者施設の利用者で、施設で療養中に症状が悪化する人が相次ぎ、亡くなる人もいたということです。

去年の第5波で最も多かった時期の30倍以上で、厚生労働省は「感染の急拡大に加え、ワクチン接種から時間がたって効果が低下していた人も多く、病床が一層ひっ迫したのではないか」としています。

これまで厚生労働省は、感染した高齢者に原則入院してもらう方針でしたが、高齢者施設に医師を派遣して治療などを行える体制を目指すよう今週、全国の自治体に通知しました。

体制をどこまで確保できているか、今月22日までに報告を求めるなど、感染の再拡大に備えて医療体制の整備を急いでいます。

高齢者施設にコロナ専門の医療チーム派遣の病院も

高齢者施設でクラスターなどが発生した場合に新型コロナ専門の医療チームを派遣している病院もあります。

東京 東村山市の総合病院「多摩北部医療センター」は、ことし1月以降、6か所の高齢者施設にチームを派遣して治療などを行ってきました。

このうちおよそ140人の高齢者が暮らす東京 東村山市の特別養護老人ホーム「さくらテラス青葉町」ではことし1月下旬に7人の利用者が感染し、その日のうちに医師と看護師合わせて4人を派遣しました。

病床に余裕がなかったため、7人全員を受け入れるのは難しく、診察して容体を見極めたうえで1人は入院してもらい、軽症だった6人は中和抗体薬を投与して施設で療養を続けてもらうことにしました。

施設に対しては感染が全体に広がらないよう感染した人としていない人の生活空間の分け方や防護服の着脱のしかたなどを指導しました。

感染者が生活する部屋は「レッドゾーン」に指定して同じエリアにまとめ、対応する職員を限定して、使用する備品やごみ箱も区別するよう伝えました。

その結果、先月までにおよそ30人の利用者が感染しましたが、入院したのは3人で、残る利用者は施設で治療を受けて回復したということです。
特別養護老人ホームの大和田伸也施設長は「医療チームが来てくれなければ施設全体に感染が広がり、職員も感染して少ない人数での業務を強いられていたと思う。利用者にとっても、長期間入院すると日常生活を送る機能が低下して寝たきりになってしまう懸念もあるので、これまで生活していた場所で療養できるのはメリットだと思う」と話しています。
「多摩北部医療センター」の小泉浩一副院長は「治療が1日2日遅れるだけで想像以上に重症化する高齢者が少なからずいる。オミクロン株は感染力が強いので早く介入することがいちばん大事で、感染を広げず、感染者がいれば早く薬を投与して重症化させないことが非常に重要だ」と指摘しています。

そのうえで「感染者のほうが病床よりも圧倒的に多く、特に高齢の患者が重症化して長く病床にいると、本来治った可能性が高い若い方たちの病気を見られなくなってしまう。1人でも入院患者や重症患者を減らすことができれば病院への負荷も減るし、患者にとっても施設にとってもいいのではないか」と話しています。

東京 品川区では地域の医師の協力で早期治療を

高齢者施設で早期に治療を始められるよう地域の医師も協力しています。

東京 品川区では、第5波で病床がひっ迫したことを受け、地元の医師会が中心になって重症度を診断する基準や投与する薬の種類などをまとめた「診療の指針」を作成しました。

この指針を活用して、第6波で施設での治療にあたっているのが岩間洋亮医師です。

高齢者のリハビリが専門ですが、コロナ患者の往診にもあたっています。

先月上旬には感染者が確認された施設から依頼を受けてその日のうちに駆けつけ、利用者に検査を行ったところ次々に感染が判明しました。

陽性となった人には指針を参考にしながらその場ですぐにステロイド剤などを投与したということです。

施設では最終的におよそ40人の高齢者が感染しましたが、重症化した人はいなかったということです。

一方、1月に往診した別の施設では、依頼を受けた時点で発症から4日以上が経過していて、往診した時にはすでに複数の高齢者が重症化していました。

その後、亡くなった人もいたということです。

岩間医師は「高齢者は重症化しやすく、なるべく早く駆けつけて治療を開始するには地域の医師を増やす必要がある。コロナの専門医でなくても診療の指針があれば対応できるという実感はあるので、現場を経験した医師の知見を共有し、それぞれの地域の実情に合わせた指針を整備していくことが必要ではないか」と話しています。