大福をアリゾナで?世界に届ける和菓子のサブスク

大福をアリゾナで?世界に届ける和菓子のサブスク
おだんごにまんじゅう、せんべいにあられ…
日本ではなじみのある和菓子が今、“WAGASHI”として海外の若い世代から注目されています。そんな日本のお菓子を、海外だけに、毎月定額で届けるサービス“サブスク”を始めた起業家が東京にいます。世界の顧客の心をつかむ戦略と、ビジネスに込めた思いを探りました。
(国際放送局記者 中川早織)

甘いけど甘すぎず?

海外の消費者は和菓子のどんなところに魅力を感じているのか。

私は、日本から届く詰め合わせを毎月楽しみにしているというアメリカ・アリゾナ州に住むジャネル・ロバートソンさん(30)にリモートで話を聞いてみました。
ロバートソンさんが画面の向こうで早速取り出したのは、“桜大福”。

一口パクリと食べて、「とてもおいしい!やわらかい食感がとてもナイスです」と笑顔があふれました。

「甘いけど、甘すぎない」

ちょうどいい和菓子の味が大好きだとか。

しかし地元・アリゾナでは手に入りにくいため、日本から届くのを心待ちにしているそうです。
ロバートソンさん
「見た目も美しくて、食感がアメリカのお菓子とは全く違います。
小さなメーカーの伝統的なお菓子を食べられるのは、本当にエキサイティングです」

外国人の感性で

和菓子の詰め合わせボックスを海外向けに毎月定額で届けるサブスクリプション販売のビジネスを立ち上げたのは、近本あゆみさん(37)です。
近本さんは、海外の消費者の心をくすぐるさまざまな仕掛けを意識しています。

その一つが、詰め合わせボックスに、毎月、テーマを設定すること。

たとえば4月のテーマは“桜祭り”です。
桜まんじゅう、桜寒天、桜大福、桜くず餅、桜せんべい…。

とにかく桜づくしで、まさに祭りのよう。

季節ごとにさまざまなお菓子が登場するのは、外国人には新鮮に映るようです。

もう一つの仕掛けは、外国人の視点をプロモーションやマーケティングにいかすこと。

近本さんの会社「ICHIGO」は、80人あまりの従業員の6割以上が海外出身。
オフィスの顔ぶれはまさにインターナショナルです。

海外に向けて販売するには、外国人の感性がとても重要だと近本さんは話しています。
ICHIGO CEO 近本さん
「顧客との接点となるウェブデザインやマーケティング、カスタマーサポートは、できるだけ外国人を採用してお客様の目線に近いサービスを届けるよう心がけています」
従業員の1人、イギリス出身のオリバー・マクマンさんはSNS発信を担当。

例えば、桜の花びらが入ったくず餅の写真に添えて投稿した文面がこちらです。
“くず(葛)のでんぷんを使用しているくず餅はゼリーより少し硬め、桜の季節の特別なごちそうをどうぞ”(原文は英語)
くず餅の特徴を食感に力点を置いて説明しています。
マクマンさん
「和菓子について最高だと思うところを紹介したいと思っています。和菓子はとてもクール。伝統のお菓子というだけでなく、風味もさまざまですからね」

コロナ禍がニーズに?

近本さんが起業したきっかけは、大手企業でネットビジネスを担当していた10年ほど前に外国人観光客の“爆買い”を目の当たりにしたこと。

“日本のものは売れる”と確信し、勤め先を退職して、お菓子ビジネスに参入しました。

まず始めたのが、ポテトチップスやチョコレートなど日本で定番のスナック菓子のサブスク販売です。
近本さんは自分で小売店で買ってきたスナックを箱詰めして発送していましたが、最初は注文も少なかったそうです。

ところが、スナック菓子のサブスクがたまたま海外のユーチューバーの目にとまり、動画の投稿をきっかけに注文が増加。

事業が拡大しました。

そうした中で顧客から寄せられるようになったのが、大福やまんじゅうなどの和菓子も送ってほしいという要望。

近本さんは2021年、“WAGASHI”に特化したサブスクに乗り出したのです。
欧米の20~40代が主な顧客で、日本全国50社から取り寄せた、手ごろな価格のお菓子を詰め合わせています。

新型コロナの影響で外国人観光客の爆買いは影を潜めましたが、逆に日本に来られない海外の和菓子ファンのニーズに、このサブスクがマッチしたと近本さんは考えています。
近本さん
「コロナ禍で外国人観光客が来られないのはしかたないことですが、そんな時でも日本を発信し続けることができると感じています。
日本の伝統を守るために同じものを何百年も作り続けている和菓子は、日本の文化そのものなので、そういったところがとても支持されていると感じます」

素材の味を届けたい

詰め合わせに入っているお菓子の多くは、日本の中小企業の商品。

サブスクのおかげで初めて海外にお菓子を届けた企業も少なくありません。

その1つが、埼玉県の「梅林堂」。
150年以上続く和菓子メーカーですが、これまで海外での販売は実現していませんでした。

それは商品の賞味期限がスナックに比べて短いからです。

商社などを経由する従来の流通ルートで販売する場合、消費者に届くまで時間がかかるため風味が落ちるおそれがあったそうです。
しかし、あらかじめ契約している消費者に東京から直送するサブスクなら最短3日で客に届くため、賞味期限がそれほど問題にならず、海外で販売する夢が実現しました。
梅林堂 常務取締役 栗原さん
「和菓子は素材の味を生かす文化が根付いていますが、製造から時間がたちすぎると風味が飛んでしまいます。
私たちがこだわっている素材の味を少しでも感じていただくことで日本のよさが伝わってほしいと思っています」

身近なところにビジネスチャンス

和菓子のサブスクは、スナックのサブスクとあわせて現在180の国と地域に販売され、去年の売り上げは事業開始の翌年の7倍に増えたそうです。

近本さんの企業理念は「世界中をジャパンにする」こと。

和菓子だけでなく、お茶や雑貨など、すてきな「日本のもの」や文化が世界で身近になるように発信して浸透させていきたいと意気込んでいます。

「和菓子はクール」、「和菓子はエキサイティング」ーーー

日本に住む人がふだん味わっている和菓子が、こんな風に海外の人たちの心をつかんでいるのはとてもうれしいことです。

わたしたちの身近な楽しみの中に、意外なビジネスのチャンスがあることを改めて感じました。
国際放送局WorldNews部
中川 早織
2005年入局
英語ニュースの取材・制作を担当